株価
IHIとは

株式会社IHIは、東京都江東区に本社を構える日本を代表する総合重工メーカーであり、三菱重工業・川崎重工業と並ぶ「日本三大重工」の一角を占める企業だ。創業は江戸時代の1853年までさかのぼり、石川島造船所を起源とする非常に長い歴史を持つ。造船を原点に発展した企業だが、現在では航空エンジン、発電プラント、社会インフラ機器、エネルギー関連設備など、現代社会を支える多岐にわたる領域に事業を拡大してきた。
IHIの中核にあるのが「航空宇宙事業」である。同社は日本におけるジェットエンジン開発の中心的存在であり、民間航空機向けのエンジン部品をボーイングやエアバスに供給しているほか、防衛省向けの戦闘機・輸送機・ヘリコプター用エンジンの開発にも深く関わっている。近年では、次世代戦闘機(いわゆる日英伊の共同開発機)に搭載されるエンジン技術の一部を担うことが見込まれ、国家安全保障面でも重要な役割を果たしつつある。また宇宙分野では、H-IIA・H3ロケット向けエンジンの開発に携わり、日本の宇宙輸送システムを根幹から支えている。
次に「エネルギー・環境事業」では、ガスタービン、ボイラー、発電プラント設備などを製造し、国内外のエネルギーインフラに深く関わっている。火力発電所向けの設備は長年高い評価を受けており、さらに脱炭素社会に向け高効率ガスタービンやCO2削減技術の研究開発も積極的だ。水素・アンモニア燃焼技術など次世代エネルギー関連の取り組みも進めており、エネルギー転換期において注目される事業領域でもある。
「社会基盤・産業機械事業」では、橋梁、トンネル掘削機、物流システムなど、社会インフラや産業機械を幅広く提供している。IHIの橋梁部門は国内トップクラスの実績を持ち、瀬戸大橋や東京湾アクアラインなど、日本を代表する大型インフラプロジェクトに多数参加してきた。また、物流システムや産業用機械では自動車・建設機械メーカーなどの生産ラインにも深く入り込んでおり、日本の製造業の根幹を支えている分野でもある。
また「資源・エネルギー/特殊プラント事業」では、石油・ガス関連設備や化学プラントの設計・建設を手掛けており、特にLNGタンクや圧力容器の分野で高い技術力を誇る。海外プロジェクトの比率も高く、グローバルに展開する大型案件が多いことが特徴だ。エネルギー情勢の変化に応じて受注が変動するため景気敏感な側面もあるが、長年のノウハウと技術力は大きな競争力となっている。
近年のIHIは、航空エンジン事業の回復やエネルギー関連設備の需要増加を背景に収益改善が進んでおり、財務構造の強化や事業ポートフォリオの見直しも積極的に進めている。重工業特有の景気変動リスクはあるものの、航空機需要の再拡大、防衛関連需要の増加、脱炭素に向けたエネルギー技術の進展など、複数の成長ドライバーを持っているのが同社の強みである。
総じて、IHIは航空・宇宙・エネルギー・社会インフラなど、国家の基盤を支える領域に深く関与し、長期的に安定した需要が期待できる企業であり、日本を代表するエンジニアリング企業として継続的な成長が見込まれる。
IHI 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(円) | 一株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2023/3 | 1,352,940 | 81,985 | 64,865 | 44,545 | 294.5 | 90 |
| 2024/3 | 1,322,591 | -70,138 | -72,280 | -68,214 | -450.8 | 100 |
| 2025/3 | 1,626,831 | 143,517 | 138,488 | 112,740 | 744.8 | 120 |
| 2026/3(予) | 1,650,000 | 150,000 | 135,000 | 120,000 | 792.4 | 140 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 年度 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023/3 | 54,116 | -52,347 | -24,043 |
| 2024/3 | 62,117 | -51,699 | -2,569 |
| 2025/3 | 177,634 | -58,820 | -116,225 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(実績) | PBR(実績) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023/3 | 6.0% | 10.3% | 2.2% | ― | ― |
| 2024/3 | -5.4% | -18.2% | -3.3% | ― | ― |
| 2025/3 | 8.8% | 23.4% | 5.0% | 高値平均:15.5倍 安値平均:7.0倍 |
5.70倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
IHIは、直近3年間の数値を見ると非常に振れ幅の大きい業績推移になっているが、2025年にかけて急速に回復しているのが特徴的である。まず営業利益を見ると、2023年の 819.85億円 から2024年には ▲701.38億円 と赤字に転落したものの、2025年には 1,435.17億円 まで一気に黒字に戻っている。経常利益と純利益も同じ動きを見せており、2024年は大幅赤字だったにもかかわらず、翌年には経常利益が 1,384.88億円、純利益は 1,127.40億円 まで急回復している。この数字だけでも、IHIが外部環境や受注状況の影響を強く受ける企業である一方、立ち直りのスピードも非常に速いことが分かる。
収益性の指標である営業利益率も同様で、2023年に6.0%だったものが2024年は▲5.4%へ落ち込んだが、2025年には8.8%まで上昇している。一般的に重工メーカーで営業利益率8%台は高水準に近く、事業が好調なタイミングであると言える。ROEも2024年の▲18.2%から一転、2025年には23.4%まで改善しており、資本効率の回復が極めて強い。ROAも2025年には5.0%と堅調で、総資産の回転効率も改善している。
株価指標に目を向けると、2025年度の実績PERは高値平均15.5倍、安値平均7.0倍で推移している。PERが7倍というのはかなり割安と評価される水準であり、好調時に15倍程度が許容されていることを考えると、IHIは市場から「景気や案件次第で評価が上下しやすい銘柄」として見られている。PBRは5.70倍と明らかに高く、純資産に対して株価が大きく上乗せされている状態で、市場が将来の成長を強く織り込んでいることが分かる。
総合すると、IHIは業績の上下動が激しいものの、2025年にかけての回復は非常に強力で、収益性・効率性の指標はいずれも高い水準を示している。一方でPBR5倍台というのは高評価過ぎる側面もあり、投資家が将来的な成長を強く期待している状態と言える。したがって「業績回復の勢いを重視する成長期待型の投資には向いている」が、「割安株として買うならPERが下がる局面(7~10倍程度)」を狙うのが合理的である。
まとめると、IHIは短期的なリスクはあるものの、業績の回復力、ROEの改善、営業利益率の高さを踏まえると、中期的な成長余地は大きい銘柄だと言える。ただし、現在は高評価のため、株価位置を慎重に見ながら買いタイミングを調整する必要がある。
配当目的とかどうなの?
IHIを配当目的で考える場合、正直なところ配当利回りはかなり低く、純粋な“配当狙い”として選ぶ銘柄ではない。予想配当利回りは2026年3月期で0.68%、2027年3月期も0.68%と横ばいで推移しており、東証プライム市場の平均利回り(約2%前後)と比べても明確に低い水準にある。高配当株として人気の銘柄が3〜5%、一部のセクターでは6%を超えるケースもあることを考えると、IHIの0.68%は「配当を目的とした投資には向かない」という評価になる。
ただし、IHIの特徴は“利益回復による増配余地”があることだ。2024年の赤字から、2025年には営業利益1,435億円、純利益1,127億円まで急回復しており、業績の改善スピードは極めて速い。今は配当よりも事業投資や財務改善を優先しているため配当利回りは低いが、利益が安定し設備投資サイクルが一段落した局面では、今後増配してくる可能性は十分にある。
ただし、IHIの事業構造は景気や受注動向に大きく影響されやすく、業績の振れ幅も大きい。したがって、高配当を安定して受け取りたい投資家にとっては不向きであり、安定的な配当収入を重視する場合は他の高配当銘柄のほうが優先される。一方で、業績が劇的に改善している現在のIHIは、値上がり益(キャピタルゲイン)を狙う投資家に向いており、配当はあくまで“おまけ程度”と考えるのが現実的である。
総合すると、IHIは配当利回りでは魅力は弱く、配当目的で買う銘柄ではないが、業績の成長に応じた将来的な増配期待はある企業と言える。ただし「配当を軸に投資判断をする銘柄」ではなく、「業績回復と株価の上昇を狙いに行く銘柄」である点を理解しておく必要がある。
今後の値動き予想!!(5年間)
IHIの現在値2,910円から、今後5年間の株価推移をシナリオ別に考えるます。
まず「良い場合」では、航空エンジン事業の需要回復が本格化し、防衛関連の大型案件の受注が継続して拡大するケースだ。2025年に営業利益1,435億円まで急回復した勢いを維持し、ROEも20%台をキープできれば、市場はPER15〜18倍を許容する可能性がある。その場合、株価は およそ4,500〜5,300円 のレンジまで上昇するシナリオが想定され、中期的には株価が2倍近くまで伸びる展開も十分あり得る。特に航空エンジンの市況が強い時期には、さらに上振れる可能性もある。
「中間の場合」は、2025年の急回復後、利益が安定成長に移行するシナリオだ。営業利益やROEはやや落ち着きつつも高水準を維持し、航空エンジンの市況とインフラ関連の堅調な受注で、緩やかな業績成長が続くパターンである。この場合、市場の評価もPER10〜13倍あたりで落ち着くと考えられ、株価は 3,200〜3,800円前後 のゾーンで安定的に推移していく。現在値(2,910円)よりは上向きだが、爆発的な伸びは期待しづらい現実的なシナリオとなる。
最後に「悪い場合」は、航空エンジンの需要が鈍化したり、防衛案件がタイミングの影響を受けて受注が伸びなかったり、あるいは大型プラント案件で採算悪化が発生するケースだ。IHIは事業の性質上、外部環境の変化に左右されやすく、悪材料が重なった場合には利益が大きく落ち込むリスクもある。ROEが5%前後まで低下し、市場からの評価もPER6〜8倍に沈むと、株価は 2,100〜2,600円 のレンジまで調整する展開も想定される。長期保有を前提としても、下振れ局面は重くなる可能性がある。
総合すると、IHIは業績の回復力は強いが、事業リスクも大きい“振れ幅の大きい銘柄”であるため、株価も上下に動きやすい傾向がある。ただし、業績回復が続くなら現在値2,910円は割安寄りの位置にあり、長期で見れば「中間〜良いシナリオの線が強い」と考えられる。中期的な成長余地は十分あるため、押し目を拾いながら保有するスタイルが相性の良い銘柄と言える。
この記事の最終更新日:2025年11月16日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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