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キヤノンとは

キヤノン(Canon)は、東京都大田区に本社を構える日本を代表する総合精密機器メーカーであり、光学技術・画像処理技術・精密機械技術を核として、オフィス、イメージング、医療、産業機器など幅広い分野で事業を展開している。1937年に精機光学研究所として創業し、国産初の35mmフォーカルプレーン式カメラを開発したことをきっかけに、長年にわたり独自の光学技術を磨き続け、世界的ブランドへと成長してきた。現在では約180以上の国と地域で事業を展開し、売上の多くを海外で稼ぐグローバル企業となっている。
キヤノンの最大の強みは、光学・画像処理技術の高さと、マスプロダクションが可能な精密製造技術である。これらを活かして、家庭向けから企業向け、さらには医療・半導体まで、用途の異なる製品を幅広く供給している。事業構造も時代に合わせて進化しており、かつてはデジタルカメラやプリンターが収益の柱であったが、現在では医療機器や産業機器、ネットワークカメラの比重が高まり、より安定した収益基盤を作りつつある。
事業内容は大きく4つに分かれる。
まず「イメージング事業」では、デジタル一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ、交換レンズ、ビデオカメラなどの光学機器を展開し、EOSシリーズやRFレンズなど強力なブランド力を持つ。プロフェッショナル向けの報道・スポーツ・映像制作領域でもトップシェアを持ち、カメラ分野での存在感は依然として非常に大きい。また近年は動画需要の拡大に合わせてシネマカメラなどの高付加価値分野にも注力している。
次に「オフィス事業」では複写機、レーザープリンター、多機能複合機などドキュメントソリューション関連の製品を提供。企業の業務効率化やデジタル文書管理の需要に応じてソフトウェアとの連携も強化しており、安定した収益の柱となっている。世界的にリモートワークが広がる中でも、企業向けの文書管理ニーズは一定水準を保っており、この分野はキヤノン全体の収益を下支えしている。
「メディカル事業」は成長分野として特に注力されており、CT、MRI、超音波診断装置、眼科医療機器など多岐にわたる医療ソリューションを展開している。医療画像処理技術はキヤノンの画像解析技術と相性が良く、医療DX領域でも存在感を高めている。高齢化が進む日本や世界の市場において、医療分野は今後も長期的に需要が拡大する見込みがあり、キヤノンの成長ドライバーとして期待されている。
また「産業機器・その他事業」では、半導体露光装置(ステッパー)、FPD露光装置、ネットワークカメラ、産業用プリンターなどを展開している。特に半導体露光装置は、微細化技術が求められる最先端領域での研究開発を進めており、世界的な半導体需要の拡大に合わせて存在感を高めている。さらにネットワークカメラ(防犯・監視用途)は、都市の安全対策や企業のセキュリティ需要の増加とともに成長が続き、近年はAI解析との組み合わせで競争力を強化している。
キヤノンはこれらの多角化した事業により、「光学 × ICT × 医療 × 産業」を融合した総合精密機器メーカーとして市場で独自の地位を確立している。製品ラインナップの広さに加え、業績が特定の製品に依存しすぎないバランスの取れた構造が強みで、長期的に安定した収益を生み出す体質が整っている企業である。
キヤノン 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(EPS) | 一株配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 21.12 | 3,513,357 | 281,918 | 302,706 | 214,718 | 205.4 | 100 |
| 22.12 | 4,031,414 | 353,399 | 352,440 | 243,961 | 236.7 | 120 |
| 23.12 | 4,180,972 | 375,366 | 390,767 | 264,513 | 264.2 | 140 |
| 24.12 | 4,509,821 | 279,754 | 301,161 | 160,025 | 165.5 | 155 |
| 25.12予 | 4,600,000 | 460,000 | 472,000 | 330,000 | 370.1 | 160 |
| 26.12予 | 4,700,000 | 480,000 | 492,000 | 347,000 | 389.1 | 160〜170 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 年度 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2022 | 262,603 | -180,820 | -146,844 |
| 2023 | 451,190 | -275,372 | -156,729 |
| 2024 | 606,831 | -297,322 | -225,996 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 8.9% | 7.8% | 4.8% | — | — |
| 2024 | 6.2% | 4.7% | 2.7% | 高値平均:20.5倍 安値平均:14.3倍 |
1.22倍 |
| 2025 | 9.7% | 9.6% | 5.6% | 予想PER:18.03倍 | — |
出典元:四季報オンライン
投資判断
キヤノンの収益性指標を見ると、営業利益率が2023年で約8.9%、2024年で約6.2%、2025年予想では約9.7%と、数%台で推移しており、かつての優良水準(10%以上)からやや低迷している印象を受ける。ROE(自己資本利益率)も2023年7.8%、2024年4.7%、2025年予想9.6%と振れ幅が大きく、資本を効率よく使えているとは言い難い状況だ。ROA(総資産利益率)も2023年4.8%、2024年2.7%、2025年5.6%と、総資産に対する収益力は依然として低めで、成長企業・高収益企業の指標水準とは距離がある。
バリュエーション面では、2024年実績でのPERが高値平均20.5倍・安値平均14.3倍、PBRが1.22倍という数字が提示されており、2025年予想でのPERが18.03倍という前提であれば、収益力の低下をある程度織り込んだ評価になっている可能性がある。ただし、収益率・効率性の改善が明確に実現していない段階でこのPER水準で買うには慎重さが求められる。
総合的に判断すると、キヤノンは「安定企業ではあるが成長期待がやや限定的」という位置づけにある。優れた光学技術・ブランド力・グローバル展開といった強みは明確であるものの、営業利益率やROEの低迷・変動が収益構造の懸念材料と言える。PER・PBRの水準が収益力の回復を前提とした評価であるとすれば、その回復が実際に確認できるまで、株価の伸び余地は限定的とみる方が現実的だ。
結論として、キヤノンへの投資は「成長重視で大きく上げを狙う」よりも、「ブランド・技術力を背景にした安定収益+配当+株主還元を期待する」ようなスタンスが適している。収益性が改善し、ROEが10%超に回帰する兆しが出れば、割安感が出てくる可能性もあるが、現時点では“収益改善待ち”のフェーズと捉えるのが妥当だろう。
配当目的とかどうなの?
キヤノンを配当目的で考えると、予想配当利回りは25.12期・26.12期ともに 3.63% と、かなり魅力のある水準になっている。日本株全体の平均配当利回りが約2%前後であることを踏まえると、キヤノンはそれを大きく上回っており「高配当株」として十分に成立する位置にある。
キヤノンは長年、カメラ・プリンター・オフィス機器などの安定した売上基盤を持ち、景気変動の影響を受けつつも、利益を確保しやすい事業構造を持っている。また、医療機器や半導体露光装置、ネットワークカメラといった成長分野にも投資を進めており、過度に業績が悪化しにくい点は配当株としての魅力につながる。実際、これまで大きな減配を繰り返す企業ではなく、安定的に配当を維持・増加させてきた歴史がある。
一方で、営業利益率やROE・ROAといった収益性指標は直近で低下した時期もあり、企業として劇的な成長を続ける“グロース株”というよりは、成熟した安定企業といった色合いが強い。そのため、株価の大幅な上昇を期待する銘柄というよりも、「高めの配当利回りを受け取りながら、ほどほどの株価成長を待つ」タイプの銘柄と考えるのが現実的だ。
特に2024年は利益が一時的に落ち込んだ影響で株価がやや抑えられ、その結果として配当利回りも相対的に高い状態が続いている。ただし2025年・2026年は利益の回復が予想されており、EPSが上向く前提であれば配当の持続性も高いと考えられる。現在の3.6%という利回りは、高配当株として見ても十分魅力的であり、配当目的の投資家にとっては検討に値する水準といえる。
総合すると、キヤノンは「大きく成長して株価を跳ね上げるタイプ」ではないものの、長期で安定した配当収入を得たい投資家にとって非常に相性が良い銘柄 だと言える。減配リスクが比較的低く、事業ポートフォリオもバランスが良いことから、安定性を重視した配当投資には向いている企業と判断できる。
今後の値動き予想!!(5年間)
キヤノンの現在値は4,400円。ここから今後5年間の株価を考える際に重要なのは、同社が「急成長を狙うグロース企業」ではなく、「安定収益と高い配当利回りを武器にした成熟企業」という点である。実際に営業利益率も数%台で推移し、ROE・ROAも大きく上下しやすい一方で、ブランド力と事業基盤の強さから業績の底は固く、大きく沈みにくい特性がある。ここでは、これまでの収益性の推移・予想PER・安定性を踏まえて3つのシナリオに分けて予測する。
【良い場合】
医療機器や半導体露光装置、ネットワークカメラといった成長分野が順調に伸び、オフィス機器も堅調に推移した場合、EPSは計画通りに成長し、PERも18〜20倍程度で評価される状態が続く。5年の中で何度か調整を挟みながらも、事業の多角化による安定成長が続くこのシナリオでは、株価は徐々に上値を切り上げ、5年後には 5,500〜6,200円 程度までの上昇が期待できる。特に半導体関連事業が改善すれば、大きな下支えとなり、6,500円を試す局面もあり得る。
【中間の場合】
最も現実的な着地点で、オフィス機器・カメラ・医療などの各分野が平均的に推移し、急成長はしないものの堅実な業績が続くケース。PERは15〜18倍あたりを中心に推移しやすい。この場合、株価は大きく跳ねることはないが着実に下値を切り上げながら推移し、5年後には 4,800〜5,300円 程度のレンジに収まる可能性が高い。高配当利回りが市場から評価され、配当を受け取りながらゆっくり株価が上がる展開で最も起こりやすいパターンだと言える。
【悪い場合】
世界的な景気減速や企業の設備投資縮小が重なり、オフィス機器やカメラの需要が鈍化し、産業機器も影響を受けた場合のシナリオ。EPSの成長が鈍ることでPERは12〜14倍程度に低下し、評価が抑えられる。この場合の株価レンジは 3,800〜4,300円 と、現在値を中心に上下する範囲にとどまる。キヤノンは安定企業であるため、極端な暴落シナリオは考えにくいが、成長力が減速すれば株価は伸び悩みやすい。
【まとめ】
キヤノンの5年間は、急騰を期待する銘柄というよりも「安定性+配当」を軸にしながら緩やかに株価が推移していくイメージが強い。良い場合で5,500〜6,200円、中間で4,800〜5,300円、悪い場合でも3,800〜4,300円程度に収まる見通しで、総じて大きなブレの少ない銘柄と言える。配当利回りが高く下値が固い一方、株価の大きな上昇も短期では期待しにくく、長期で安定して配当を受け取りながら資産形成をしたい投資家と相性が良いだろう。
この記事の最終更新日:2025年11月18日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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