株価
大日本印刷とは

大日本印刷は、日本最大級の総合印刷会社であり、現在は「印刷」という枠を大きく超え、情報・素材・エレクトロニクスの3領域で事業を展開する巨大企業へと進化している。もともとは出版印刷を中心とした伝統的な印刷会社だったが、時代の変化とともに高度な印刷技術、材料加工技術、情報処理技術を発展させ、スマートフォン、車載部品、バッテリー、パッケージ、内装材、デジタルマーケティングなど、幅広い産業に製品・技術を供給している。企業規模、研究開発力、設備投資力ともに国内印刷業界のトップであり、TOPPANホールディングスと並んで「世界最大級の印刷・情報ソリューションメーカー」として知られている。
DNPの事業は大きく「スマートコミュニケーション」「ライフ&ヘルスケア」「エレクトロニクス」の3つの柱で構成されている。
まず、スマートコミュニケーション事業では、出版印刷だけでなく、企業向けの販促物・カタログ・パッケージデザイン、マーケティング支援、デジタル広告、Webプロモーション、さらにはICカードやセキュリティカード、電子決済関連のカード製造など幅広いサービスを扱う。印刷会社の枠を超え、企業の顧客データ管理、DX推進、マーケティング最適化まで一貫してサポートできる体制を持つ点が強みだ。特に、ICカード・マイナンバーカード・金融カードなどのセキュア製品では国内最大手であり、社会インフラに深く関わる領域で確固たる地位を築いている。
次に、ライフ&ヘルスケア事業では、食品・日用品向けの包装材、透明バリアフィルム、飲料容器、医薬品・化粧品向けの高機能パッケージなどを展開。環境配慮型素材、リサイクル可能な包装材、紙ベースの新素材など、サステナブル領域での技術革新にも積極的だ。また、住宅向けの内装材・壁紙・建材なども取り扱い、生活産業の幅広い分野をカバーしている。この部門は景気の影響を受けにくく、DNPの基盤事業として安定した収益を生み出している。
エレクトロニクス事業は、近年のDNPの成長ドライバーとして特に注目されている領域。スマートフォン向けの光学フィルムや反射防止フィルム、ディスプレイ用カラーフィルター、電子部品のフォトマスク、さらには車載向けの光制御部材など、最先端の電子デバイスに欠かせない高機能部材を製造している。中でも、リチウムイオン電池に使われる「バッテリーパウチ材」は世界トップクラスのシェアを持ち、EV・蓄電池市場の拡大とともに今後大きな成長が見込まれている分野だ。
またDNPは、印刷技術を応用した新規事業にも積極的で、メタバース・VR関連コンテンツ、デジタルアーカイブ、電子書籍、防犯・情報セキュリティ、バイオ・医療関連素材など、次世代市場への布石を数多く打っている。印刷会社ながら、材料メーカー、電子部材メーカー、情報ソリューション企業としての側面も強く、非常に多面的な収益構造を持つことが特徴と言える。
総じて大日本印刷は、「老舗印刷会社」というイメージとは裏腹に、実際には先端領域に大きく踏み込み、国内素材メーカーやエレクトロニクス企業とも競合するレベルの技術力を持つハイブリッド企業である。安定事業と成長分野が組み合わさっているため、景気変動に対して強く、長期的に堅実な企業として評価されている。
大日本印刷 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(EPS) | 一株配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 23.3 | 1,373,209 | 61,233 | 83,661 | 85,692 | 160.7 | 32 |
| 24.3 | 1,424,822 | 75,450 | 98,702 | 110,929 | 221.6 | 32 |
| 25.3 | 1,457,609 | 93,612 | 115,920 | 110,682 | 238.9 | 38 |
| 26.3予 | 1,500,000 | 97,000 | 108,000 | 98,000 | 221.2 | 40 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 年度 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023 | 37,993 | -25,021 | -52,435 |
| 2024 | 72,553 | 18,355 | -118,696 |
| 2025 | 132,729 | -36,740 | -87,429 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 4.4% | 7.8% | 4.6% | — | — |
| 2024 | 5.2% | 9.5% | 5.6% | — | — |
| 2025 | 6.4% | 9.7% | 5.7% | 高値平均:11.7倍 安値平均:8.8倍 |
0.96倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
大日本印刷は、直近3年間で売上・利益ともに緩やかながら確実な成長を見せている。売上は2023年1兆3,732億円、2024年1兆4,248億円、2025年1兆4,576億円と一貫して増加しており、老舗印刷会社でありながら、事業領域を広げつつ堅実に市場を拡大している点が特徴だ。特に利益面の改善は明確で、営業利益は612億円 → 754億円 → 936億円、経常利益も836億円 → 987億円 → 1,159億円と順調に伸びている。純利益も856億円 → 1,109億円 → 1,106億円と高水準を維持しており、EPSは160円から238円へ伸びるなど、一株当たりの価値も着実に増加している。
こうした売上・利益の伸びを裏付けるのは、印刷事業から素材・エレクトロニクス事業へと比重を移してきたDNPの構造改革だ。従来の出版や商業印刷だけに頼らず、包装材、透明バリアフィルム、内装材、電子部材、バッテリーパウチ、光学フィルムなど、生活産業・エレクトロニクス分野の高付加価値領域へ積極投資してきた結果、利益率と資本効率の改善につながっている。
実際、営業利益率は4.4% → 5.2% → 6.4%と年々向上し、企業としての稼ぐ力がはっきりと高まってきている。ROEも7.8% → 9.5% → 9.7%と上昇し、優良企業の目安であるROE10%に手が届く水準まで改善。ROAも4.6% → 5.6% → 5.7%と着実に上がっており、総資産を効率よく利益につなげられる企業へ近づいている。
一方で株価指標を見ると、2025年のPERは高値平均11.7倍、安値平均8.8倍と落ち着いた水準にあり、PBRは0.96倍と1倍をわずかに下回っている。これは「資産価値に対して適正〜やや割安に放置されている」ことを意味しており、市場からの期待が高すぎないことが逆に魅力にもなっている。成熟した安定企業であり、なおかつ利益改善が続いているにも関わらず、過度なプレミアムが付いていない点は、割安感のある中長期投資対象として非常に魅力がある。
さらに、直近の営業キャッシュフローも3年連続で黒字を維持し、2023年3,799億円 → 2024年7,255億円 → 2025年1兆3,272億円と大きく改善している。これは、設備投資・新規事業投資をこなしながらも内部資金がしっかり回っている証であり、財務健全性の高さを示す材料だ。長期安定企業としての強みがキャッシュフローにもはっきり表れている。
まとめると、DNPは「旧来型印刷会社」というイメージとは異なり、素材技術・電子部材・生活産業を中心に、着実に成長できる収益基盤を築いた企業である。利益率・ROEの改善が続いており、このままエレクトロニクスや包装材料の成長が続けば、評価見直しが進む可能性も十分にある。一方で、急激な成長を期待するタイプではなく、配当と安定成長を組み合わせた“堅実なバリュー寄り銘柄”として扱うのが適切だろう。過度に割安でも割高でもない、実力に見合った株価で推移しているため、今後の成長ドライバーである電子部材・素材分野がしっかり伸びてくれば、長期的な株価上昇につながりやすい。
配当目的とかどうなの?
大日本印刷を配当目的で考える場合、予想配当利回りは26.3期で1.61%、27.3期も1.61%と、国内株全体の中では低めの分類に入る。日本株の平均利回りが2%前後、配当株として人気の銘柄が3〜4%台で推移していることを考えると、DNPは「高配当株」ではなく、どちらかと言えば“安定成長+低利回り”タイプの企業である。
利回りが高くない理由として、DNPは依然として設備投資が欠かせない事業構造を持っていることが挙げられる。特に成長ドライバーとなるバッテリーパウチ、光学フィルム、フォトマスク、電子材料などは、競争が激しく継続的な投資が必要なため、利益をそのまま配当に回しにくい。さらに包装材・生活産業素材などの事業も工場設備や研究開発が不可欠で、内部留保を積み上げながら強みを維持する必要がある。
とはいえ、DNPの配当は非常に安定しており、過去にも大きな減配をほとんど行っていない。業績が良い時期でもむやみに増配せず、悪い時期にも配当を維持する「保守的で安心感のある配当方針」を採用している。営業キャッシュフローも近年大きく改善し、財務体質が強固であるため、今後も配当が急に揺らぐ可能性は低いと考えられる。
また、PBRが0.96倍と帳簿価値に対して割安である点は、長期保有の安定感に寄与している。高配当ではないが、企業の体質の強さや将来の電子部材分野の成長を考えると、「利回りは低くても持っていて安心できる銘柄」という位置づけである。
総合すると、大日本印刷は「配当だけを目的に買う銘柄」ではなく、「安定した企業を長期で保有しつつ、将来的な評価見直しや株価上昇も狙うタイプ」の投資に向いている。利回り1.6%は物足りないが、安定性・財務健全性・事業基盤を評価し、低リスクで長期に保有したい投資家には相性が良い銘柄だと言える。
今後の値動き予想!!(5年間)
大日本印刷の株価は現在2,469.5円。過去数年で同社は「印刷会社」という枠を超え、電子部材、機能性フィルム、バッテリーパウチ、包装材など、付加価値の高い領域へ徐々に重心を移しつつある。売上は1.3兆円台から1.5兆円へと着実に拡大しており、営業利益も612億円 → 754億円 → 936億円と一貫して増加。営業利益率は4.4% → 5.2% → 6.4%と改善傾向にあり、ROEも7.8% → 9.5% → 9.7%と「老舗企業としてはかなり良い水準」まで成長している。財務の健全性も高く、営業キャッシュフローは3年連続でプラスを維持し、2025年には1,300億円超を生み出すほどの強さを見せている。
株価指標も非常に落ち着いており、2025年のPERは高値平均11.7倍・安値平均8.8倍、PBRは0.96倍と、資産価値に対しほぼ等価またはわずかな割安水準で放置されている段階。これは市場が急成長を期待していない一方で、財務体質と安定成長を評価しているという状態で、大きな過熱感もなく、逆に割安修正が起きれば株価が上に振れやすい環境でもある。
こうした状況を踏まえて、DNPの5年間の株価シナリオを整理すると、以下のように3パターンが考えられる。
【良い場合】
エレクトロニクス事業が高成長を続け、特にリチウムイオン電池向けバッテリーパウチ材、スマホ・車載向け光学フィルム、フォトマスクといった高収益領域が売上・利益に大きく貢献。EV市場やスマホの高機能化に連動して、利益率が7%台へ乗り、ROEも10〜12%へ改善。市場の評価は規律的なバリュー株から「成長性もある総合素材メーカー」へと変化し、PERは12〜15倍、PBRは1.0〜1.3倍まで水準訂正が進む。この場合、株価は 3,400〜4,200円 のレンジに達する可能性がある。利益の上振れと評価見直しがセットになったときに最も強く上昇しやすい。
【中間の場合】
包装材や生活産業向け素材が安定成長を続け、電子部材も堅調だが、爆発的な成長まではいかないシナリオ。営業利益率は6%前後、ROE8〜10%のレンジで安定し、市場評価は現状維持。企業としての堅実さが引き続き買われるが、割安修正の伸びしろは限定的。PER10〜12倍、PBR0.9〜1.0倍の範囲で推移しやすく、株価は 2,800〜3,200円 が中心値となる。現在値よりは上昇するが、勢いのある上昇は期待しにくいものの、安定した“ゆっくり上昇”が期待できる。
【悪い場合】
印刷・包装材分野での価格競争が激化し、電子部材需要が一時的に減速するケース。特にEV市場の調整やスマホ需要の弱含みが続くと、バッテリーパウチや光学フィルムの利益率が悪化し、全体の利益を押し下げる可能性がある。営業利益率は5.5%以下に低下、ROEも8%前後に下がると、市場は再び「割安株」という枠組みに戻す評価となり、PBR0.7〜0.9倍、PER9〜10倍に縮むリスクがある。この場合、株価は 2,000〜2,300円 程度で推移し、現在値から下振れする可能性が出てくる。ただし、財務が極めて強いため、急落よりも“ジリ下げ”型になりやすく、底堅さは維持されやすい。
【総合まとめ】
大日本印刷は「急上昇を狙う銘柄」ではなく、「業績改善による中期的な評価上昇を狙う堅実バリュー株」という位置づけが最も近い。現在値2,469.5円から見た5年間の想定レンジは、良い場合3,400〜4,200円、中間2,800〜3,200円、悪い場合2,000〜2,300円で、上も下も比較的読みやすい動きをする銘柄だ。事業内容の多角化と利益率の改善が続いており、長期保有で安定したリターンを求める投資家に向いている銘柄と言える。
この記事の最終更新日:2025年11月19日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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