株価
イオンとは

イオンという企業を語るとき、よく「日本最大の小売グループ」という言葉が使われますが、実際のイオンはそれ以上に複雑で、日常生活のあらゆる場面に入り込んでいる巨大な生活インフラのような存在になっています。全国のどの地域へ行ってもイオンの看板を見かけるのは、単に店舗の数が多いからではなく、食品、日用品、医薬品、専門店、金融、さらには不動産や海外事業まで、多くの領域が有機的につながり、ひとつの大きなグループとして機能しているからです。
イオンの中核には、昔から親しまれてきた「イオン」や「イオンスタイル」といった総合スーパーがあります。生活に必要なものを一度に揃えられる利便性から、長年にわたって多くの家庭に利用されてきた存在ですが、商品数が多く、売り場面積も大きい分、利益率は決して高くありません。それでもイオンが国内最大の流通企業として成長し続けているのは、この総合スーパーを基盤としつつ、周囲にさまざまな事業を積み重ねてきた結果といえます。
そのひとつが食品に特化したスーパーで、「マックスバリュ」や「まいばすけっと」などのブランドは、日常的に利用される買い物の場として定着しています。特に都市部では、小型店の“ちょい買い需要”に応えることで着実に利用者を増やしており、安定した成長の土台になっています。
医薬品や日用品の分野では、「ウエルシア」を中心としたドラッグストア事業が大きな存在感を放っています。調剤薬局の併設店舗が多く、高齢化が進む日本では避けられない“生活必需インフラ”として定着しており、比較的利益率も高いため、イオンの収益に大きく貢献しています。
さらに、イオンを特徴づける存在として欠かせないのが金融事業です。「イオンフィナンシャルサービス(イオン銀行)」を通じて、銀行、保険、カード、電子マネーWAON、ローン、キャッシュレス決済などを手がけており、実はイオングループの中でも利益率の高い領域になっています。買い物から決済、金融サービスまで一貫して提供することで、顧客との接点を増やし、データを活かしたサービス展開が進んでいるのもイオンならではの流れです。
また、ショッピングモール開発を行う「イオンモール」や「イオンタウン」などの不動産関連事業も重要な存在です。テナントからの賃料収入は、景気の波を比較的受けにくい安定的な収益源であり、小売事業の変動をうまく補う役割を果たしています。多くの大型商業施設が地方の商圏を支えているように、イオンは小売事業だけでなく“町の生活インフラそのもの”としての役割を担っています。
海外にも積極的に進出しており、中国やアセアン諸国では小売だけでなくモール運営や金融事業も展開しています。人口が増え続けるアジア地域での事業は、将来的に国内以上の伸びしろが期待されており、イオンの次の成長物語の中心になる可能性もあります。
このようにイオンという企業は、ひとつの事業に依存するのではなく、生活に密着した複数の領域を束ね、それぞれが補い合う形で成り立っています。だからこそ、景気の変動にも強く、長期的に見れば安定して成長してきた理由がよく理解できます。
イオン 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(円) | 一株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連23.2* | 9,116,823 | 209,783 | 203,665 | 21,381 | 8.4 | 12 |
| 連24.2* | 9,553,557 | 250,822 | 237,479 | 44,692 | 17.4 | 12 |
| 連25.2* | 10,134,877 | 237,747 | 224,223 | 28,783 | 11.2 | 13.3(記念) |
| 連26.2予 | 10,600,000 | 270,000 | 250,000 | 40,000 | 14.4 | 13.7 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023 | 433,710 | -335,123 | 1,853 |
| 2024 | 368,487 | -508,876 | -15,867 |
| 2025 | 566,218 | -478,810 | 881 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 2.3% | 2.1% | 0.1% | ― | ― |
| 2024 | 2.6% | 4.2% | 0.3% | ― | ― |
| 2025 | 2.3% | 2.7% | 0.2% | PER:高値102.8倍 / 安値75.7倍 | PBR:6.47倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
イオンの決算数値を丁寧に見ていくと、この企業の本質がゆっくりと立ち上がってくる。売上だけを見れば10兆円を超える巨大グループで、日本の流通業界の中心に立つ存在であることは間違いない。ただ、その圧倒的な規模に対して利益の厚みは驚くほど薄く、営業利益は2097億円、2508億円、そして2377億円と、ここ数年は大きな変化がない。営業利益率も2〜2.6%前後で推移しており、数字だけ見れば“薄利のまま規模を支えている企業”という印象が強い。
しかしその一方で、経常利益は2036億円から2374億円、2242億円と大きな崩れはなく、純利益も特損の影響で多少上下しながらも、企業規模を考えればむしろ安定しているように見える。この落ち着きの背景には、イオンがただのスーパー企業ではなく、金融や不動産事業を内包する総合グループであるという構造がある。小売業だけであればこれほどの安定感は出ないが、モール事業からの安定収入やイオン銀行を中心とした金融部門の収益が大きく支えになり、結果的に企業全体としての利益が大きく揺れにくくなっている。
ROEやROAを確認すると、2〜4%台と数字は低く、資本効率の観点では物足りなく見えるかもしれない。ただ、これもイオンの“性質”を考えれば理解できる。大量の店舗、不動産、在庫、流通インフラを抱えるビジネスモデルは、どうしても資産が重くなり、効率が高まりにくい。数字だけを切り取ると弱点に見えてしまうが、むしろその膨大な資産が地域の生活インフラとして根付いており、需要が急減しないことこそがイオンの長所でもある。
PERが異常に高く見えるのも同じ構造が原因だ。2025年のPERは75〜102倍という、単体で見ると理解に苦しむ水準だが、これは利益が薄いため倍率が跳ね上がるだけで、成長期待で買われているわけではない。利益基準で評価すると数字が歪みやすい企業であり、PERが割高だからといって企業価値そのものが高すぎるという意味にはならない。
こうした数字の“見え方”と事業の“実態”にギャップがあるのがイオンという企業の特徴だ。規模は大きいが利益率は薄く、派手に伸びるタイプではない。しかし、金融・モール・ドラッグストアなど複数の事業が互いを補い合い、小売の厳しい局面でもグループ全体が大きく沈みにくい構造がある。短期間で株価が急上昇するようなタイプではなく、長い時間の中で徐々に積み重ねを見せる企業だという点が、決算を眺めていると自然と見えてくる。
数字の派手さで評価するよりも、企業そのものが持つ“巨大な生活インフラとしての安定感”をどう捉えるかで投資判断が変わる銘柄だと言える。数字だけでは掴めない部分に企業の実像があり、そこを理解できるかどうかが、イオンの投資判断の分かれ目になる。
配当目的とかどうなの?
イオンを配当目的で考えるとき、まず最初に目に入るのが配当利回りの低さだ。予想配当利回りは連26.2期で0.48%、連27.2期でも0.49%と1%にも満たない水準にあり、単純に「配当でリターンを得たい」という観点で見ると、正直いって魅力的とは言い難い。日本株の中には2〜5%台の銘柄が多数ある中で、この利回りだけを比較してイオンを選ぶ理由はほとんど見つからない。
ただ、イオンを表面的な“配当利回りだけ”で判断してしまうと、この企業の本質を見誤ってしまう。イオンは伝統的に配当よりも設備投資や店舗改装、物流改革、海外事業、ドラッグストアや金融子会社への投資など、事業基盤を長期的に育てる方向へ利益を回す企業で、株主還元よりも事業成長を優先する姿勢が明確だ。10兆円企業という規模を維持しながら、新しい業態や業務領域への挑戦を続けている点を考えると、低配当は“企業の性質そのもの”に近い。
また、小売企業の中でもイオンは特に店舗数が膨大で、資産も非常に大きいため、投資が必然的に多く必要になる。ショッピングモールの開発や改装には莫大な資金がかかり、その積極投資が将来の安定収益(テナント賃料やモール運営収入)を生み出している。この投資サイクルを維持することは、イオン全体の競争力を保つうえで欠かせないため、配当が低いのはある意味で“企業が健全に動いている証拠”とも言える。
さらに、イオンはグループ全体で見ると安定感のあるビジネスモデルだが、利益率が非常に薄い構造のため、配当性向を無理に高めれば企業の財務に負担がかかる。年によって特損が発生しやすい特性もあることから、“無理のない範囲で控えめな配当を維持する”という方針は、長期的な安全性を考えると合理的だともいえる。
とはいえ、投資家が「安定した配当を毎年しっかり受け取りたい」「配当利回りを投資判断の中心に置いている」という場合、イオンはどうしても選択肢から外れてしまう。配当目的で比較すれば、銀行株、商社株、通信株、ETFなど、よりリターンの高い銘柄は数多く存在する。
最終的にイオンは、“配当を求めて買う銘柄”ではなく、“巨大な生活インフラ企業の安定と事業成長に投資する銘柄”という位置づけになる。株主優待の存在や、長期的な企業成長の恩恵を狙う投資家にとっては選択肢となるが、配当収入を重視するスタイルとは方向性が少し違う。
まとめるなら、イオンは配当そのものを目的に購入するには向いていないが、生活インフラを支える巨大グループとしての安定性や長期的な成長力に魅力を感じるなら、保有する価値があるタイプの銘柄だと言える。
今後の値動き予想!!(5年間)
イオンの株価を今の2,820円から5年先まで想像してみると、この会社の性質がそのまま値動きに出てくるだろうという感触が強い。イオンは、どの地域でも生活に関わる存在で、食品スーパーやドラッグストア、ショッピングモール、金融など多くの事業を抱える巨大グループだ。その規模の大きさから、株価が急に跳ねたり急に落ちたりするタイプではなく、良くも悪くも「ゆっくりと動く会社」という印象がある。
まず、良い方向に進んだ場合のイメージだが、アジアで進めている海外事業やイオンモールの運営、そしてイオン銀行を中心とした金融事業が堅調に伸びていけば、全体としての収益がじわじわ積み上がってくる。イオンの場合、ほんの少しでも利益率が改善すると評価が変わりやすく、時間をかけて株価が見直される可能性がある。その流れが続いたとき、5年後には3,200円から3,600円くらいのところまで素直に上がっていく姿が想像できる。派手に弾けるわけではないが、ゆるやかに上を向く、そんな落ち着いた成長だ。
一方で、最も現実的なのは「中間」のシナリオだろう。イオンの国内事業は成熟していて、急伸することはないが、急激に崩れることもない。食品スーパー、ドラッグストア、モール、金融といった複数の柱がバランス良く機能しているため、全体としては安定感が強い。この状態が続くと、株価は今の近くで横ばいに推移しやすく、5年後も2,800円から3,000円あたりを行き来するイメージになってくる。大きく儲かるわけでもないが、大きく損をする雰囲気もなく、「ずっと同じ景色が続く」ような動きになりやすい。
悪い場合を考えると、消費の落ち込みや総合スーパー事業の不振、投資負担の増加などが重なり、利益が一時的に圧迫されることもあり得る。ただし、イオンは金融事業やモール運営といった景気の影響を受けにくい収益源を持っているため、全体が一気に崩れるタイプではない。悪材料が出ても、株価が大きく下に崩れていくというより、どこかで買い支えが入るような、そんな底堅さがある。これを踏まえると、悪いケースでも2,400円から2,600円のあたりが下限として意識されやすい。
総じて、イオンの株価は“劇的”という言葉とは縁がなく、良い時も悪い時も緩やかに進んでいく企業だと感じる。生活に密着した事業を幅広く抱えているため、派手さはなくても安定していて、極端な値動きが出にくい。5年という長めのスパンで見れば、今の位置から大きく飛び出すことも沈むこともなく、じわじわと時間とともに姿を変えていくような銘柄だと言えるだろう。
この記事の最終更新日:2025年11月21日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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