株価
商船三井とは

商船三井(MOL)は、明治期にルーツを持つ日本最大級の総合海運会社で、世界中に巨大な海上輸送ネットワークを展開している。保有・運航する船隊規模は国内トップクラスで、ドライバルク船、タンカー、LNG船、自動車船、フェリー、RORO船、そして世界規模のコンテナ輸送網など、多様な分野で世界の物流を支える存在となっている。
同社の基盤でもあるドライバルク船部門では、鉄鉱石・石炭・穀物といった基礎資源を世界中で大量輸送しており、日本やアジア諸国の電力・製鉄産業に欠かせない役割を果たしている。特に鉄鉱石輸送ではブラジルや豪州との長距離輸送に強みがあり、安定した輸送力を背景に世界的な資源物流の一部を担っている。
また、LNG・LPG輸送を中心としたエネルギー輸送部門は近年急速に存在感を増しており、世界的な脱炭素の流れの中で長期契約を軸に安定収益を生み出している。LNG船やFSRU(洋上で気化設備を持つ特殊船)、さらには新エネルギー運搬向けの次世代船の開発にも取り組んでおり、商船三井の将来の柱として期待されている分野だ。
コンテナ輸送については、グローバル大手の「ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)」に出資しており、アジア—北米—欧州のメガルートを中心に世界規模で輸送サービスを展開している。コンテナ市況の波は大きいものの、ONEの規模と効率性は業界でも存在感が強く、市況が良い局面では非常に大きな収益を生み出す特徴がある。
自動車船部門では、日本の自動車メーカーが世界へ輸出する完成車の輸送を長年支えており、RO-RO船(自動車運搬船)を多数保有。北米、欧州、アジアなど世界各地へ向けた安定輸送の実績は国内海運会社の中でもトップクラスで、自動車産業と強く結びついたビジネスモデルを展開している。
さらに、フェリー・内航船事業、港湾ターミナル運営、ロジスティクス事業、海洋資源開発、洋上風力などの新領域まで広く事業範囲を広げている点も商船三井の特徴だ。特に洋上風力やカーボンニュートラル関連では船舶の専門知識が大きく活きるため、成長テーマとして投資家からも注目されている。
環境対応にも積極的で、LNG燃料船・メタノール燃料船の導入、CO₂削減技術の研究、風力推進装置の搭載など、脱炭素社会に向けた技術開発にも取り組んでいる。海運業界は環境規制の強化が進む領域であり、商船三井が環境投資を積極化している点は長期的な競争力に直結する。
総じて商船三井は、市況に左右されやすい海運業界の中でも、多様な船種・幅広い収益源・グローバル規模のネットワークを強みに、安定性と成長性をバランス良く兼ね備えた企業だと言える。海運特有の利益の波はあるものの、長期契約(特にLNG)に支えられた収益の安定性や、世界経済に直結する輸送需要の大きさが同社の存在感を支えている。
商船三井 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高 (百万円) |
営業利益 (百万円) |
経常利益 (百万円) |
純利益 (百万円) |
EPS (円) |
配当 (円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連23.3 | 1,611,984 | 108,709 | 811,589 | 796,060 | 2,204 | 560 |
| 連24.3 | 1,627,912 | 103,132 | 258,986 | 261,651 | 722.9 | 220 |
| 連25.3 | 1,775,470 | 150,851 | 419,703 | 425,492 | 1,187 | 360 |
| 連26.3(予) | 1,731,000 | 106,000 | 170,000 | 200,000 | 582.6 | 175 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 (百万円) |
営業CF | 投資CF | 財務CF |
|---|---|---|---|
| 2023 | 549,925 | -281,995 | -281,709 |
| 2024 | 314,202 | -355,239 | 49,725 |
| 2025 | 360,499 | -450,803 | 117,060 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(高値/安値) | PBR(実績) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 6.7% | 41.3% | 22.3% | – | – |
| 2024 | 6.3% | 11.1% | 6.3% | – | – |
| 2025 | 8.4% | 15.8% | 8.5% | 1.7倍 / 1.2倍 | 0.58倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
商船三井の直近4年間の業績推移を見ると、この企業が典型的な「海運市況サイクル株」であり、業績の波が非常に大きいことがはっきり読み取れる。連23.3の純利益は 7,960億円という“歴史的な特需”水準で、コロナ期の運賃高騰による例外的な利益だった。一方でその翌年の連24.3では純利益が 2,616億円 まで急減しており、市況が平常化したときの収益は大きく縮むという、典型的な海運株のリスクがそのまま出ている。
直近の連25.3では純利益は 4,254億円 と持ち直しており、営業利益、経常利益ともに増加している。これは不定期船やエネルギー輸送(LNG・自動車船)の運賃が堅調だったことが大きく、市況が完全に悪化しているわけではないことを示している。しかし、連26.3予では再び純利益が 2,000億円 まで落ちる見通しで、やはり安定的な利益確保は難しい。
財務指標を見ても特徴がはっきりしている。ROEは 41.3% → 11.1% → 15.8% と乱高下しており、事業の安定性よりも市況要因で利益が振れるタイプの企業であることがわかる。ROAも同じく 22.3% → 6.3% → 8.5% とバラつきが大きい。
特筆すべきはバリュエーションで、2025年度ベースの実績PERは 高値平均1.7倍 / 安値平均1.2倍 と極端に低い。PBRも 0.58倍 と大きく割安で、株価水準だけを見れば「超低バリュー株」に分類される。ただしこれは市場が“安定収益が続かない”と判断している証拠でもあり、単純に割安だから買いとは言えない部分がある。
総合すると、商船三井は短期的な市況回復局面では強いが、業績の上下が激しく長期的な安定成長を求める投資には向きにくい企業と言える。景気や海運運賃が良い時期には大きく跳ねる可能性があるが、逆に市況悪化時には利益・株価とも急落するリスクが高い。
PER・PBRが極めて低い点は魅力だが、これは「常に割安で放置されやすい業界」でもあるため、割安放置が続く可能性も高い。したがって、商船三井は 「市況の波を利用して短中期で狙う」タイプの銘柄であり、長期でじっくり持つ銘柄ではない という評価になる。
配当目的とかどうなの?
商船三井の予想配当利回りは 連26.3で4.53%、連27.3でも4.53% と、表面上の利回りだけを見るとかなり魅力的な水準に入っている。5%近い利回りは高配当株としても十分に注目されるレベルで、現時点だけ見れば「高利回り銘柄」に分類される。
ただし、海運株の配当は他業種と違い、業績次第で大きく変動しやすい という点に注意が必要だ。商船三井は連23.3に過去最大の利益を出した際には配当も560円まで跳ね上がったが、市況が悪化した連24.3では220円まで急減している。翌年は360円に戻ったものの、直近の連26.3予では175円と再び減配の見通しとなっており、毎年安定して配当を享受するタイプの銘柄ではない。
つまり、商船三井は「業績が良い年には非常に高配当になるが、悪化すれば大幅に減る」という、波の大きな配当銘柄 であるということ。銀行や通信のように毎年安定して一定額を払う企業とはまったく性質が異なる。
また、PBR0.58倍という超割安水準や、高ROEの年があることから一見すると長期保有向けにも見えるが、肝心の利益が市況任せで不安定なため、配当目的の長期投資としてはリスクがかなり高い。特に市況が悪化すると配当が半分以下になるケースも珍しくなく、配当金で生活を安定させたい投資とは相性が悪い。
総合すると、商船三井は 「高利回りを狙う短期~中期の配当狙いには向くが、安定配当を求める長期投資には不向き」 という評価になる。運賃市況が好調なタイミングで保有していると非常に強いが、市況次第で簡単に減配が起こる点は絶対に理解しておく必要がある。
今後の値動き予想!!(5年間)
商船三井の現在の株価(4,408.0円)から今後5年間の株価を考える上で何より大事なのは、この企業が典型的なサイクル産業であり、業績が世界の海運市況に大きく左右されるという点だ。景気が良い時は急激に利益が膨れ上がるが、一度悪化すると業績が大きく縮み、株価もそれに合わせて大きく揺れる。そのため、5年先の株価は「良い場合」「普通の場合」「悪い場合」でまったく違う景色になる。
まず良い場合は、世界の物流が堅調に伸び、特に自動車船やLNG輸送の需要が高水準で続き、運賃が高止まりするケースだ。このシナリオでは商船三井は再び高収益体制に入りやすく、ROEが20%前後まで戻る可能性もある。また市場が過度に低評価していた海運株に資金が戻り、PBRが0.8〜1倍近くまで正常化する動きが出れば、株価は現在の4,408円から大きく上に動く。利益の急回復と評価の見直しが同時に起きれば、5年後の株価は7,000〜8,500円といった水準も十分に現実的になる。特需でなくても、「普通に市況が良い」だけでこれくらいの株価水準は狙えるので、良い場合は分かりやすく大幅上昇が期待できる。
次に普通の場合。これは景気が特別強くも弱くもなく、市況が安定しているケースで、商船三井の利益が2,000〜3,000億円あたりで落ち着くパターンだ。自動車船やエネルギー輸送が下支えになるため大幅赤字にはなりにくいが、特需のような急成長も望めない状態。こうなると市場は構造的な低評価を続け、PER3〜5倍、PBR0.5〜0.7倍といった“割安のままの評価”から抜け出しにくい。結果として株価は大きく動かず、5年後も4,500〜6,000円程度の範囲で推移する可能性が高い。現在の4,408円から多少は上がるものの、劇的な上昇はなく、横ばい〜緩やかな上昇にとどまるのが普通の場合だ。
そして悪い場合は、世界景気が後退し、海運運賃が急落するパターン。物流停滞や中国・欧米の景気失速が重なると、海運株は真っ先に売られる。商船三井の利益も大きく縮み、配当も半減し、投資家はリスク回避で資金を引き上げやすい。こうなるとPBRが0.4倍台まで下がることは普通にあり得て、株価は純資産を大きく割り込んだ状態で数年低迷する。悪い場合の5年後の株価は2,800〜3,500円くらいまで落ちる可能性が高く、景気敏感株らしい厳しい展開になる。
総合して考えると、商船三井は「良い場合は非常に強く、悪い場合は非常に弱い」という極端な値動きを示す銘柄だと言える。安定成長を続ける企業ではなく、あくまで市況の波に乗って利益と株価が強く動くタイプで、長期の安定投資よりも、市況や景気に合わせて短期〜中期でタイミングを取るスタイルの方が向いている。現在の株価4,408円は指標的に見ればかなり割安だが、割安のまま数年放置される可能性もあるため、そこを理解した上で投資判断をする必要がある。
この記事の最終更新日:2025年11月22日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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