株価
伊藤ハム米久ホールディングスとは

伊藤ハム米久ホールディングス株式会社は、日本の食肉業界を代表する大手グループであり、伊藤ハムと米久という2社の老舗食品メーカーの経営統合によって誕生した持株会社である。日本の食肉加工業界では、日本ハムに次ぐ第2位の規模を持ち、ハム・ソーセージの分野では長年にわたって国内トップクラスの地位を維持している。三菱商事を筆頭株主とする三菱系の企業であり、その資本力やグローバルネットワークを背景に、国内外で幅広い事業展開を行っている点が特徴的である。
経営統合の構想が公表されたのは2015年9月15日で、業界2位の伊藤ハムと7位の米久が共同持株会社を設立することで合意したと発表した。この統合は当時の業界に強いインパクトをもたらし、日本ハムをトップとする業界勢力図を再編する動きとして大きな注目を集めた。同年11月6日には両社の社長が共同会見を行い、統合後の社名を「伊藤ハム米久ホールディングス」とすること、そして社長に米久の宮下功氏、会長(代表権なし)に伊藤ハムの堀尾守氏が就任することが正式に明らかにされた。
2016年4月1日、ついに経営統合が実施され、伊藤ハム米久ホールディングス株式会社が正式に発足した。本社は東京都目黒区に置かれているが、傘下企業である伊藤ハム(兵庫県西宮市)と米久(静岡県沼津市)の本社所在地は統合後もそのまま維持されている。統合により、両社の連結売上高は単純合算で6,300億円を超える規模となり、プリマハムを抜いて業界2位の座を確固たるものとした。食品業界で数千億規模の企業が統合する例は多くなく、当時の国内食品業界における大規模再編の象徴ともいえる出来事であった。
また、同社は三菱商事が筆頭株主として厚い支援を行っており、安定した財務基盤を持つ点も大きな特徴である。伊藤ハム自体はかつて三和銀行系の企業グループ(三水会・水曜会)に所属していた経緯があるが、現在の伊藤ハム米久ホールディングスも水曜会には加盟しており、旧三和系の文化をある程度継承している。一方で、三和グループの親睦組織であるみどり会には加盟しておらず、三菱商事とも三和系とも関係を持ちながら、独自の企業グループとしての立ち位置を築いている。
事業面では、加工食品と食肉事業の両輪で安定した収益構造を持つ。ハム・ソーセージ、ベーコン、ウインナーといった加工肉製品はもちろん、牛肉・豚肉・鶏肉の生肉や加工肉の流通も手掛ける総合食肉グループとして強みを発揮している。傘下にはニュージーランドのアンズコ(ANZCO Foods)もあり、海外の食肉資源を直接確保できる点は他社にはない大きな武器である。これにより、国内外の食肉調達網を強化し、価格変動や供給リスクへの耐性を高めている。
総じて、伊藤ハム米久ホールディングスは、日本の食肉業界の中で圧倒的な規模とブランド力、そして強力な調達・製造・販売網を持つ企業であり、生肉から加工品までを一貫して扱える総合食肉メーカーとして、安定した存在感を維持している。経営統合を経て生まれたシナジー効果も徐々に顕在化しており、国内食品企業の中でも非常に“基盤の強い企業”として位置付けられる。
伊藤ハム米久ホールディングス 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | EPS(円) | 配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2023/3 | 922,682 | 22,994 | 26,044 | 16,975 | 294.1 | 120 |
| 2024/3 | 955,580 | 22,336 | 26,036 | 15,553 | 273.2 | 125 |
| 2025/3 | 988,771 | 19,576 | 20,750 | 13,097 | 230.9 | 145 |
| 2026/3(予) | 1,050,000 | 27,500 | 28,500 | 18,100 | 318.9 | 320(記念) |
| 2027/3(予) | 1,080,000 | 29,000 | 30,000 | 19,000 | 334.8 | 145〜155 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 年度 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023 | 3,947 | -22,926 | -6,844 |
| 2024 | 29,392 | -16,014 | -13,278 |
| 2025 | 10,016 | -20,642 | 7,468 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 2.4% | 6.3% | 3.8% | – | – |
| 2024 | 2.3% | 5.4% | 3.3% | – | – |
| 2025 | 1.9% | 4.5% | 2.8% | 高値平均:15.9 安値平均:13.0 |
1.13 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
伊藤ハム米久ホールディングスの業績を確認すると、食品メーカーの中でも売上規模は大きく、9千億〜1兆円規模の巨大企業である一方、収益性は比較的低く、営業利益率が2%前後で推移している点が特徴になっている。2024年から2025年にかけては、売上は増えているものの、営業利益・経常利益・純利益はいずれも減少しており、収益力が一時的に落ち込んでいる状況が見て取れる。ただし、2026年の会社予想では利益が大きく改善する見通しで、営業利益は前期比40%近い回復が見込まれている点は評価できる。
ROEやROAを見ると、6%台から4%台まで低下しており、資本効率や総資産効率は弱含みで推移している。食品大手はもともとROEが高いわけではないが、それでも5%割れは魅力が弱まるラインで、企業としての収益性が年々少しずつ後退している点は注意が必要である。一方で純利益が2026年に181億円へ回復する予想が本当に実現するのであれば、ROEも多少は改善する可能性があり、今が底に近いとみることもできる。
バリュエーションの面では、PERが13〜15倍の範囲で推移しており、食品大手としては割高でもなく、極端に割安でもない“標準的な評価”になっている。ただ、PBRは1.13倍と比較的低めで、資産価値に対してそこまで過大評価されているわけではない。業績悪化の割に株価は落ち着いており、安定性のある大手食品メーカーらしい市場評価と言える。
配当面では2026年に記念配当を含めて320円というかなり大きな数字が出ているが、これは一時的な要素が強く、継続性は期待しにくい。通常配当は145〜155円ラインが基準で、配当利回りとしては2.5〜3%程度になる計算で、食品メーカーとしては標準的。記念配当を除けば特段の高配当株ではないものの、EPSが増えれば将来的に配当余力が増す可能性は残る。
総合すると、伊藤ハム米久HDは安定した売上規模と強固なブランド力を持つ一方で、収益性が低く、ROE・ROAも弱含みで、突出して魅力的な収益構造とは言いにくい。ただし2026年以降に利益が持ち直す予想があることから、今の株価水準13〜15倍PERであれば、悲観するほど割高というわけでもなく、確実性の高い食品大手を適正価格で買える銘柄という位置付けになる。
投資判断としては、強烈な成長株ではないが、食品業界の中では比較的手堅く、業績回復が見えるなら中期的に報われやすい銘柄。ただし営業利益率の低さとROEの弱さを考えると、積極的に買いたい“攻めの銘柄”ではなく、あくまで安定性を重視した“守りの銘柄”としてポートフォリオに組み込むのが妥当といえる。
配当目的とかどうなの?
伊藤ハム米久ホールディングスを配当目的で検討する場合、まず目につくのが2026年3月期の予想配当利回りが5.56%という非常に高い数字で、一見すると魅力的な高配当株に見える点である。ただし、この5.56%という利回りは、記念配当を含めて320円という“特別な一時的配当”が前提になっており、持続的な配当水準とは言い難い。翌2027年3月期には配当予想が145〜155円に戻り、利回りも2.52%まで一気に低下してしまう。つまり、2026年の高利回りは特別要因による“単発の高配当”であって、長期で配当収入を狙う配当投資家向けの継続的なメリットとは異なる。
配当目的で考える場合に重要なのは「配当が長期で続くのかどうか」「安定した利回りが維持できるのか」であり、一時的に5%を超えても翌年に2%台まで落ちてしまう銘柄は、配当株としての安定性が弱い。伊藤ハム米久の場合、通常配当は145〜155円が基本ラインで、これは現在の株価水準から見ると2.5%程度の利回りに相当する。2.5%という利回り自体は低くはないが、配当株の世界で“魅力的な高配当”と呼ばれるのは3.5%〜5%クラスであり、2%台半ばでは特別割安でもなければ、高配当とは言いにくい水準である。
もう一つ重要なのは、配当を支える利益の動きである。伊藤ハム米久HDの利益は2024年から2025年にかけて減少し、翌年2026年だけ大きく回復する予想になっている。しかしその回復がどの程度確度が高いのか、加工食品や食肉事業の収益性がどこまで持ち直すのかは、不確実な部分が残る。特に、食肉メーカーは原材料価格・為替・需給の影響を強く受け、利益が安定しにくい業態であるため、毎年安定したEPSが出るタイプの企業とは異なる。配当性向は通常で50〜60%程度と適正範囲にあるが、ROEが4〜6%台と低めで、資本効率に乏しいことも配当余力を大きく伸ばしにくい要因になっている。
また、競合する食品大手(日本ハム、丸大食品、プリマハム)は総じて配当利回り2〜3%台で、食品業界はもともと“高配当業界”ではない。伊藤ハム米久だけが突出して高配当というわけでもなく、2026年の高い配当は単なる記念配当であり、長期保有でその水準が続くわけではない点が、配当目的で買う場合の最大の注意点となる。
結論として、伊藤ハム米久HDは「2026年だけ高配当がもらえる単発イベント株」として見るなら魅力があるが、長期で安定した配当を受け取りたい配当投資家には向かない。翌年には利回りが2%台へ落ち、食品メーカーとしての収益構造も大きく変動するため、典型的な“長期の配当株”とは言えない。配当利回りだけで判断すれば2026年は強く見えるが、配当の持続性という観点では安定性に欠けるため、純粋な配当目的で買うには慎重な判断が必要である。
もし安定した高配当株を探すなら、同利回り帯ならNTT、三菱商事、三井住友FG、KDDIなどの方が配当の継続性・利益体質ともに上回るため、配当目的での投資としてはそちらがより適している。
今後の値動き予想!!(5年間)
伊藤ハム米久ホールディングスの現在株価は 5,750円で、今後5年間の株価を考えるうえでポイントとなるのは、同社の業績構造が「急成長でもないが、急落するタイプでもない」という、典型的な“食品大手の安定銘柄”であることだ。売上規模はすでに1兆円近く、業界2位という巨大な地位を確立しており、ハム・ソーセージ市場では国内トップ級のシェアを持つ。その一方で営業利益率は2%前後と低めで、食品業界特有の薄利多売構造から大きく抜け出すのは難しい。これにより、株価が大きく跳ね上がるような爆発的成長は期待しにくいが、同時に事業基盤がしっかりしているため、急激な業績悪化による株価崩壊も起こりにくいという特性を持つ。
まず、良い方向に進んだ場合のシナリオを考えると、2026年の業績予想で示されている営業利益275億円、純利益181億円という水準が継続的に実現できるかどうかが鍵になる。食品メーカーにとって最も大きな変動要因である原材料価格(特に牛肉・豚肉の輸入価格)が落ち着き、調達コストが適正化されれば利益率の改善が進む可能性はある。さらに、グループに属するニュージーランドのアンズコ社は、海外の食肉調達を安定させる重要な役割を果たしており、世界的な食肉需給が落ち着けば利益貢献が高まる。加えて、国内市場では中食需要の増加が続いており、加工食品やレトルト商品、業務用食品が順調に伸びれば収益ベースは強化される。これらの条件がそろうと、PERが16〜18倍で評価され、株価は5年後に6,500〜7,200円へとジリジリ上昇していくシナリオが見える。食品株は急騰こそしないが、安定して伸びる局面が続けば着実に株価が積み上がる。
次に、最も現実味のある“中間シナリオ”について考えると、売上は1兆円前後を維持しつつも、営業利益率は2〜2.5%程度で落ち着き、利益はゆっくりと増減を繰り返しながら横ばいで推移する姿が想定される。食品メーカーのコスト環境は、原材料価格、物流費、人件費といった外部要因に強く左右されるため、爆発的な改善もなければ急激な悪化も起こりにくい。こうなると株価は業績に合わせたレンジ内での動きになり、PERの評価も12〜15倍程度で安定する。結果として、株価は5,200〜6,000円の間で長期的に推移しやすく、今の5,750円という株価はこのレンジの中心に位置している。つまり、現在の株価は極端に割高でも割安でもなく、「食品大手としての標準的な適正価格」に当たると言える。この中間シナリオは最も確率が高く、食品大手らしい安定した値動きが続く展開になる。
最後に、悪い方向へ進んだ場合の弱気シナリオでは、原材料価格の再高騰や為替の不安定さが続き、調達コストが重くのしかかるケースが想定される。特に牛肉は価格変動が大きく、海外市況が悪化すると利益率は簡単に1%台にまで落ち込むことがある。中食市場の競争激化、PB商品の増加、外食企業との競合強化などが影響すれば、利益は再び130億円前後まで縮小する可能性がある。ROEが4%台に低下したまま改善しない状況が続けば、市場は成長力の低さを織り込み始め、PERが10〜12倍あたりに収縮してしまう。これらが重なると株価はゆるやかに下がる傾向となり、5年後には4,200〜5,000円台まで調整する可能性がある。食品メーカーは財務体質が比較的堅いとはいえ、利益率が低い企業はコスト上昇の影響を受けやすく、悪材料が連続すると下値をじわじわ切り下げるリスクがある。
こうした3つのシナリオを総合すると、伊藤ハム米久HDの株価は、爆発的な上昇を狙うような攻撃的な銘柄ではなく、業績が堅調なら緩やかに上昇、業績が横ばいなら現状維持、悪化すればじり安という典型的なディフェンシブ株の動きになりやすい。現在の株価5,750円は、強気と弱気のちょうど中間に位置しており、業績次第で上にも下にも動く余地があるが、食品業界の特性を考えると最も現実的なのは“横ばい〜微増”の中間シナリオと言える。
この記事の最終更新日:2025年11月30日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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