株価
柿安本店とは

株式会社柿安本店は、三重県桑名市に本社を置く総合食品メーカーであり、精肉・惣菜・レストラン・食品・和菓子の5つの事業を柱として幅広い食品ビジネスを展開している。社名の「柿安」は、創業者の赤塚安次郎が柿栽培を行っていたことから地域で「柿の安さん」と呼ばれていたことに由来し、その名は現在では全国で知られるブランドとなっている。同社の歴史は非常に古く、1871年(明治4年)に赤塚が桑名で牛鍋屋を開業したことが起点となる。文明開化の流れに乗り、牛肉文化が日本に広まる中で早期に牛鍋店を立ち上げ、時代の変化を捉えた事業展開を行った。その際、創業者は「進取の気性」と「匠の技」を重んじ、牛肉の品質やタレの製法、店舗の空間づくりに徹底してこだわったと言われている。当時の店では、接客担当の従業員に矢絣の着物に深紅のたすきをかけさせるなど、江戸文化を感じさせる演出に力を入れていた点も特徴的で、単なる飲食店ではなく“雰囲気ごと提供する店づくり”を意識していたことがわかる。
1968年に株式会社化され「株式会社柿安本店」として再出発してからは、食品メーカーとしての事業拡大が加速した。特に精肉事業では生産・加工・販売を自社で一貫して行う体制を構築し、厳格な品質管理を象徴する「牛個体管理システム」を導入。導入血統の選定から飼育・肥育の管理まで徹底して行い、松阪牛をはじめとした高品質な牛肉の提供に注力している。牛肉以外にも、沖縄あぐー豚や鹿児島黒豚プリンシャスポーク、オリジナルブランド豚などの開発も行い、豚肉の付加価値向上にも取り組んでいる。また鶏肉では、一度絶滅した地鶏「天草大王」を復活させるなど地域資源の再生にも関与しており、「すくすく鶏」のようなこだわり鶏のブランド開発も進めている。
惣菜事業は全国の百貨店・駅ビル・ショッピングセンターなどのテナントを中心に展開しており、その場で調理工程を見せる実演販売が集客の柱となっている。百貨店惣菜売り場では数多くのブランドがひしめく中、調理のライブ感と高品質食材を武器に人気を確立している。レストラン事業では、松阪牛を使用したすき焼き・しゃぶしゃぶ・炭火焼などを提供する店舗を全国展開しており、「上海柿安」に代表される創作中華や、「炭火焼ハンバーグカキヤス」などの洋風メニュー業態も手掛け、多彩な飲食ブランドを展開している。特に松阪牛を中心とした高級業態はブランド力が強く、観光地や商業施設でも安定した集客を実現している。
食品事業では、同社の看板商品である「柿安 料亭しぐれ煮」が代表的な存在で、桑名地方に約250年前から伝わる伝統製法を継承して作られている。長い歴史を持つしぐれ煮は、柿安の味の象徴ともいえる商品であり、贈答品としても高い評価を得ている。また和菓子事業では、昔ながらの手作りを守る姿勢が特徴で、その起源は料亭で提供されていたわらび餅にさかのぼる。なめらかな食感と素朴な甘みが人気となり、店舗販売から事業として拡大。近年では百貨店や商業施設の和菓子売り場にも積極的に出店している。
総合すると、柿安本店は精肉の老舗としての歴史と技術を軸に、惣菜・レストラン・伝統食品・和菓子など多角的な食品事業を展開する企業である。百貨店での強い存在感、松阪牛ブランドを活かした外食、しぐれ煮など伝統商品の製造、手作り和菓子の育成など、多方面に強みを持つ点が特徴的。また、品質基準の高さと食文化に対するこだわりは、長い歴史を通して変わらない同社の根幹となっている。
柿安本店 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益EPS(円) | 一株配当DPS(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022/2 | 37,998 | 2,777 | 3,287 | 1,704 | 162.8 | 100(記念) |
| 2023/4 | 43,910 | 3,509 | 3,566 | 2,205 | 210.6 | 85 |
| 2024/4 | 37,052 | 2,200 | 2,233 | 1,400 | 133.7 | 85 |
| 2025/4(予) | 36,104 | 1,500 | 1,538 | 701 | 71.5 | 85 |
| 2026/4(予) | 36,400 | 1,500 | 1,550 | 850 | 88.7 | 85 |
| 2027/4(予) | 37,000 | 1,550 | 1,600 | 880 | 91.9 | 85 |
キャッシュフロー
| 年度 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023 | 2,547 | -699 | -1,054 |
| 2024 | 1,410 | -1,152 | -895 |
| 2025 | 1,746 | -2,954 | -905 |
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 7.9% | 12.9% | 10.1% | – | – |
| 2024 | 5.9% | 7.9% | 6.4% | – | – |
| 2025 | 4.1% | 4.6% | 3.6% | 高値平均:34.4 安値平均:24.6 |
1.76 |
投資判断
柿安本店の業績はここ数年で明確に悪化しており、同社の収益力や企業としての稼ぐ力が目に見えて低下している。特に2024年から2025年にかけての落ち込みは大きく、純利益は14億円から7億円へと半減し、営業利益も22億円から15億円へと30%以上の減少となった。これは一過性の要因というより、全社的な収益構造の弱まりが表れていると考えるのが自然で、2026年の会社予想でも業績回復の勢いは乏しく、利益は横ばい圏にとどまる見通しである。成長企業なら本来見込まれるはずの「翌年に向けた伸び」が感じられず、減益基調が続いている点は警戒ポイントといえる。
利益率の面でも状況は芳しくない。営業利益率はここ3年で 7.9% → 5.9% → 4.1% と階段状に低下しており、単に売上が伸び悩んでいるだけでなく、コスト構造そのものが悪化している可能性が高い。食品メーカー・外食・惣菜という事業構造上、一定の利益率低下は起こり得るが、4%台という数字は業界平均と比べても低い部類であり、効率よく利益を生み出せていない状態であることを示している。
さらに資本効率の指標であるROE・ROAも大きく悪化している。ROEは12%台から4%台へ急低下し、投資家から見ると「資本を使って利益を生み出す力」が劇的に弱まっている。ROAも10%→3.6%まで下がっており、総資産全体の収益性が低下していて、事業全体としての効率が明確に落ちていることがわかる。食品関連企業であっても、安定企業はROE 8〜10%前後を維持することが多いため、現状の柿安はそのラインを大きく下回ってしまっている。
本来であれば、こうした業績悪化が続けば株価も自然と割安になっていくものだが、柿安本店についてはそうなっていない。2025年の実績PERは 24〜34倍と、食品系の成熟企業として考えるにはかなり高い水準で、むしろ成長株並みの評価を受けている。PBRも1.76倍と、利益が落ち込んでいる状況を踏まえると割高感が強い。特にPER30倍台は「今後の高い成長を織り込んだ株価」といえるが、実態の業績は減益基調で、全く逆の方向に進んでいる。そのギャップは投資判断上の大きなリスクとなり得る。
総合的に見ると、柿安本店はブランド力や百貨店惣菜の強さ、高品質食肉の知名度などポテンシャルを持つ会社であるものの、直近の数値を見る限りでは、会社の利益体質が弱まり、成長力が停滞し、資本効率が悪化している。これに対して株価指標は割高圏にとどまっており、ストーリーとしても整合性が取れない状態である。投資する側から見れば、業績の底打ちや利益改善の兆しが出るまでは無理に飛びつく必要はなく、しばらく様子を見ることが妥当な判断と言える。
配当目的とかどうなの?
4月期の予想配当利回り(2026・2027年度)はともに3.21%で、食品系の中堅企業としては標準以上の数字に見えるし、配当金自体も85円と一定水準を保っているため、一見すると「安定した配当株」のように映るかもしれない。しかし、中身をよく見ると、現在の柿安本店を“配当目的で保有する”という選択はかなり不安があり、長期の配当投資として適しているとは言いにくい。
まず最大の問題は、利益の水準と配当のバランスが完全に崩れてしまっている点だ。EPSは2024年133円あったものが2025年には71円まで落ち込み、数字だけを見ればほぼ半減している。それにもかかわらず配当は85円を維持しているため、配当性向は実質100%を超える計算になってしまう。2026年と2027年の予想でもEPSは88円、91円ほどしか戻らず、配当性向は90%台が続く見通しだ。企業が安定して配当を出し続けるためには本来30〜50%程度の配当性向が理想的とされており、90%以上というのは明らかに無理をしている数字と言える。利益が減っているのに配当だけ維持するというのは、内部留保を削って配当を払っている状態であり、企業体力を削りながら株主還元をしている構図になってしまっている。
さらに、業績の悪化が続いていることも配当投資の観点では大きなリスク要因になる。営業利益は22億から15億へと大きく落ち込み、純利益も14億から7億へ半減し、そこからの回復も強くない。利益が伸びない企業は、どこかのタイミングで減配に踏み切らざるを得ないケースが多い。配当額だけを見て「高配当だ」と誤解されやすいが、それはあくまで“見かけ上”の話であって、利益の裏付けが弱い以上、安定した配当株とは言い難い。このまま業績が横ばいのまま進めば、今後配当が減らされたり、最悪場合は無理を続けて財務体質が悪化する可能性もある。
また、利回り3.2%という数字自体も、他の高配当株と比較すると特に優れているわけではない。同じ3%台ならNTT、三井住友、商社株など配当の安定性が高い企業が多く存在しており、安心感はそちらの方が圧倒的に上である。加えて柿安はPBR1.7倍、PERも24〜34倍と割高水準で取引されているため、株価が下がったときに配当利回りが上がる“高配当株特有の安全弁”のようなものも働きにくい。割高評価と利益減少が同時に起きている銘柄を配当目的で保有するのは、リスクだけが大きく、メリットはあまり大きくない。
こうした点を総合すると、柿安本店はブランド力こそあるものの、現状の配当は利益に対して重すぎ、持続性が高いとは言えない。配当が安定しているように見えても、それは企業努力で何とか維持しているだけで、EPSが改善しなければ限界が来る。配当目的で長期保有する銘柄としては、業績の安定性や配当余力に難があり、慎重に考えた方がよいタイプの企業だと判断できる。要するに、今の柿安を配当狙いで買うのはあまりおすすめできず、業績が底打ちして利益が再び安定してから考えるか、あるいはもっと安定した配当銘柄を選んだ方がリスクは小さいと言える。
今後の値動き予想!!(5年間)
柿安本店の現在株価は 2,644円で、今後5年間の値動きを考える上で重要なのは、同社が今まさに「業績悪化の渦中」にいるという点である。売上は横ばいだが、営業利益・純利益が落ち込み、利益率やROE、ROAも大きく低下している。その一方で株価は依然としてPER24〜34倍、PBR1.7倍前後という比較的高い水準で推移しており、業績に対して株価がやや過大評価されている構造になっている。この“業績の低迷”と“評価の高さ”のギャップが、今後の株価の上下どちらにも大きく振れる可能性を持つため、シナリオ別の予測が非常に重要になる。
まず、良いケースを考えると、惣菜事業や外食部門の回復が進み、特に百貨店の来客数が増える局面が訪れれば、柿安にとってはプラス材料となる。コロナ後の外食需要の戻りが完全に定着し、原材料価格も安定、為替の影響も薄れ、食品メーカー全体のコスト環境が改善した場合、営業利益率は5〜7%まで戻る可能性がある。また、同社が強みとする松阪牛ブランドのさらなる展開や、しぐれ煮など加工食品のEC強化、海外への出店などの成長戦略が軌道に乗れば、EPSは100円を超える水準に復帰することも考えられる。こうした業績回復が実現すれば、現在の割高な評価を維持したまま株価は素直に上昇し、5年後には3,200〜3,800円あたりまで上値が伸びる可能性がある。ただし、この強気シナリオはあくまでも「業績がV字回復すること」が前提であり、現状の数字を見る限り、実現難度は高めと言わざるを得ない。
次に、現実的な中間シナリオでは、売上は横ばいで推移し、利益も現状の水準から大きくは回復しないが、大きく落ち込みもしない状態が続く。食品メーカーや外食関連の多くが抱える人件費上昇や原材料価格の不安定さなどが改善しないまま続いた場合、営業利益率は4〜5%程度の低めで安定することになる。EPSも80〜90円程度にとどまり、配当は85円で維持するものの、配当性向は依然高く、財務改善にはつながりにくい。株価は悲観されすぎることもない代わりに、上がる材料も乏しく、結果的に目前の2,300〜2,800円あたりのレンジで長期間もみ合う展開が想定される。現在の株価2,644円はまさにこの“中間ゾーンの真上に乗っている”状態で、最も現実味のあるシナリオと言える。
最後に悪いケースを見てみると、惣菜売上の伸び悩みや、食材コストのさらなる上昇、外食業態の競争激化などで利益が下振れした場合、営業利益が10億円前後まで落ちる可能性がある。ROEが3%を切るような状態になれば、投資家の評価は急速に冷え込み、PERも15〜18倍程度の低水準に縮小していく。配当性向が100%を超える状態が長く続くと減配のリスクも生まれ、減配が起きれば株価はさらに売られやすくなる。悪材料が重なった場合、5年後の株価は1,600〜2,000円台まで下落する可能性があり、業績回復の道筋が見えなければ長期停滞することも考えられる。
このように、現在の柿安本店の株価は「良くも悪くもどちらにも振れやすい状態」にあり、強気シナリオが実現すれば株価の上昇余地はあるものの、現状の業績動向や収益性の低下を踏まえると、中間〜弱気寄りのシナリオの方が現実的に見える。特に配当性向が高すぎること、利益が落ち込んでいること、株価評価が高止まりしていることの3点はリスク要因であり、これらが改善されない限り、株価は上値を追うというよりは現状維持か、悪い場合は下方向に動く可能性が高い。
結論として、柿安本店の今後5年間の株価は、業績の回復が見えない限りは大きな上昇を期待しにくい一方、悪材料が増えると下押しリスクが強まるという構造にあり、現状は「中間シナリオの範囲内で動きやすい」と判断できる。長期投資としては慎重視すべき局面で、明確な業績改善が表れるまでは様子を見ながら対応した方が良い銘柄と言える。
この記事の最終更新日:2025年11月30日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

コメントを残す