株価
新日本科学とは

株式会社新日本科学は、鹿児島県鹿児島市宮之浦町に本社を置く東証プライム上場企業であり、日本発で世界へと展開するグローバルバイオ企業である。同社は1957年に国内初の医薬品開発業務受託機関(CRO)として創業し、創薬の研究段階における安全性試験や薬効評価など、医薬品開発の基礎となる前臨床分野で長年にわたり専門性を築いてきた。1992年には臨床事業にも参入し、1999年には日本企業として初めて米国ワシントン州に大型の非臨床試験施設を設立するなど、早い段階からアメリカでの事業展開も進めてきた。2015年には臨床事業を会社分割し、世界的な臨床CROであるPPD社と合弁会社・新日本科学PPDを設立し、国際共同治験を中心とした臨床開発支援ビジネスを拡大している。
研究開発への取り組みも強く、1997年にはトランスレーショナルリサーチ部門を設置。独自の経鼻投与プラットフォーム技術「SMART(Simple MucoAdhesive Release Technology)」を開発し、大学発バイオベンチャーの支援にも積極的に携わってきた。同社が深く関与する WAVE Life Sciences Ltd. は2015年に米NASDAQ市場へ上場し、世界的製薬企業であるPfizerなどとライセンス契約に成功。さらに、SMART技術を応用して連結子会社・米国Satsuma社が開発した経鼻片頭痛薬が2025年4月に米国FDAから承認を取得するなど、創薬成果が実際に市場に結びつく段階にまで到達している。
また同社はバイオ分野にとどまらず、地域資源を活用した複合事業にも挑戦している。2004年に鹿児島県指宿市の広大なグリーンピア指宿を取得し、「メディポリス指宿」として再生。地熱発電や温泉発電などの再生可能エネルギー事業に加え、リゾートホテル「別邸 天降る丘」を中心としたホスピタリティ事業も展開し、地域創生と企業成長を両立させている。こうした事業の多角化は、医薬品開発支援企業としては非常に特徴的であり、経営の安定化にも寄与している。
さらに新日本科学の大きな強みとして、世界でも限られたCROしか持たない「実験用霊長類(NHP)の自社繁殖・供給体制」が挙げられる。これにより、世界的に供給が逼迫しがちな実験用NHPを安定的に確保でき、製薬企業の創薬研究の信頼性を高める重要な基盤となっている。この体制を背景に、新興創薬モダリティ(遺伝子治療、核酸医薬、細胞治療など)の前臨床研究において大手製薬企業から高い評価を受けるようになっており、包括的な創薬支援や分析受託、コンサルテーションの案件も増加している。
2026年3月期には、世界的なメガファーマ1社から「プリファードベンダー」の認定を取得しており、これにより同社の国際的な研究パートナーとしての地位は一段と強固になった。今後は、前臨床から臨床、創薬技術、さらには地域資源を活用した再生可能エネルギーまで、幅広い領域にまたがる独自の事業構造を活かし、「ダントツのCRO」としてのさらなる成長を目指している。
新日本科学 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 1株益(円) | 1株配(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 23.3 | 25,090 | 5,245 | 9,194 | 6,060 | 145.6 | 50 |
| 24.3 | 26,450 | 4,162 | 7,015 | 5,531 | 132.9 | 50 |
| 25.3 | 32,413 | 2,985 | 6,450 | 4,924 | 118.3 | 50 |
| 26.3予 | 33,300 | 3,600 | 5,950 | 3,600 | 86.5 | 50 |
| 27.3予 | 37,000 | 6,000 | 8,300 | 5,600 | 134.5 | 50 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023 | 4,004 | -5,930 | 6,266 |
| 2024 | 2,106 | -6,907 | 5,318 |
| 2025 | 7,035 | -11,691 | 5,914 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(高値平均 / 安値平均) | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 20.9% | 23.1% | 10.5% | – | – |
| 2024 | 15.7% | 16.2% | 7.2% | – | – |
| 2025 | 9.2% | 12.3% | 5.3% | 20.3倍 / 9.2倍 | 2.00倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
連24.3期の売上は264億、営業利益41億、経常利益70億、純利益55億と、CRO事業とメディポリス関連事業の収益が安定していた時期であり、高い利益水準を維持していた。しかし、連25.3期では売上が324億まで増加した一方、営業利益は29億へ低下しており、利益率の悪化が見られる。経常利益は64億、純利益49億と黒字ではあるものの、前期比で利益面の減速傾向が鮮明となった。
さらに連26.3期予想では、売上333億と増収見込みであるにもかかわらず、営業利益36億、経常利益59億、純利益36億と、利益水準が引き続き縮む方向にある。営業利益率の低下は、創薬支援事業における案件時期のズレや研究開発費用の増加、新たなモダリティ案件に対応するコスト負担などが背景にあると考えられる。
EPSも132円から118円、そして86円へと下方推移しており、利益の質が低下していることが確認できる。ROEとROAについても、過去の高水準から徐々に低下しており、資本効率は悪化傾向にある。PBRは2倍前後と決して割安水準ではなく、利益が減少する局面では評価が重くなりやすい。
ただ、同社には他社に真似できない強みがある。世界でも数少ない霊長類(NHP)の自社繁殖体制を持つCROであり、ワクチン・核酸医薬・遺伝子治療など最先端の創薬モダリティで欠かせない存在になっている。大手製薬からのプリファードベンダー認定も得ており、中長期では再び利益が伸びる可能性を持っている。
しかし短期的には、営業利益・純利益の縮小が続いている点を慎重に見る必要がある。利益回復の裏付けがまだ弱いため、現状では強気一辺倒で評価するのは難しい。事業内容は非常に魅力的だが、「増収減益」が続く局面では株価の上値は重くなりやすい。投資を検討する場合は、営業利益が反転上昇に向かう兆しや、新規案件の収益貢献が見えてくるかどうかが重要な判断材料となる。
総合すると、新日本科学は独自の強みを持つ成長ポテンシャルの高いCROだが、足元の利益低下が不安材料であり、短期評価はやや慎重、中期は改善次第で見直し余地あり、というバランス感のある投資判断となる。
配当目的とかどうなの?
新日本科学の配当利回りは、連26.3期・連27.3期ともに約2.74%と、東証プライムの平均利回りをやや上回る程度の水準にある。配当金は長期にわたって50円を維持しており、会社として株主還元を重視する姿勢は比較的安定している。ただ、利回りの数字だけを見ると突出して高いわけではなく、高配当銘柄として積極的に選ばれるタイプではない。どちらかといえば「そこそこの利回りと安定性を持つ中配当株」というポジションに近い。
同社の場合、配当の魅力度を判断するためには事業構造の特殊性も踏まえる必要がある。創業以来CROとしての研究支援を中心に展開してきた一方で、米国での非臨床事業、SMART技術による製剤開発、ハーバード大学系ベンチャーへの投資など、研究開発色の強い事業ポートフォリオを持つことが特徴である。さらにメディポリス事業として地熱・温泉発電やホテル運営を手がけている点もユニークで、同業他社にはあまり見られない多角化を進めている。
これらの事業は成長性を秘めている一方、研究開発の進捗や投資のタイミング、各事業の収益貢献度によって業績が大きく振れやすい。近年は増収ながらも利益が伸び悩む局面が続いており、EPSも低下していることから、現行の配当が長期にわたって確実に維持されるかどうかは、今後の利益推移に大きく影響される。特に連26.3期予想では純利益が前年から減少し、EPSも80円台に落ち込む見通しで、配当性向は高止まりしやすい構図となっている。
ただし、新日本科学はCROとしての競争力が強く、霊長類(NHP)の自社繁殖体制を持つ稀有な企業であることから、製薬企業との共同研究・包括契約が安定して獲得できる強みがある。さらに、米国Satsuma社によるSMART技術を用いた経鼻片頭痛薬がFDA承認を取ったことで、将来的なロイヤルティ収益が増える可能性もあり、利益面の回復余地も残されている。このように、短期的な業績変動はあっても、中長期的には事業構造の強みが作用し、配当の持続性を支える材料になる可能性もある。
今後の値動き予想!!(5年間)
現在の株価は1,820円で、ここからの5年間の値動きを考えるうえでは、同社が抱える独自性の高い事業構造、CRO事業、NHP(カニクイザル等の霊長類)繁殖供給体制、SMART技術を活かした製剤プラットフォーム、さらにはメディポリスの発電・ホテル事業といった多角化がどこまで安定的に利益へ結びつくかが重要となる。足元では増収ながら営業利益が伸び悩む状態が続いており、EPSも低下しているものの、Satsuma社による経鼻片頭痛薬のFDA承認や、大手製薬企業との包括契約など、未来につながる材料も出てきている。そのため、新日本科学の株価は「収益回復がいつ本格化するか」によって大きくシナリオが分かれる。
【良い場合】
CRO事業での大型受託案件が増加し、NHP供給体制の強みを背景に世界の製薬企業から引き合いが強まる。さらに、SMART技術を活用した製剤開発が進み、ロイヤルティ収入が中期的に拡大して利益の底上げにつながる。加えてメディポリス事業の地熱発電が安定収益化し、利益の柱が複数形成されると、市場からの評価も改善していく。営業利益率が再び15%台に戻り、ROEも20%近くまで回復する展開となれば、株価は見直し買いが入りやすくなる。この場合、5年後には2,600〜3,200円程度まで上昇する可能性がある。創薬関連のイベントが追い風になれば、それ以上の上振れもあり得る。
【中間の場合】
CROや創薬支援事業は堅調だが、利益率の大幅な改善には時間がかかり、営業利益率は10〜12%前後で推移する。SMART関連のロイヤルティ収入も増加するが急速とはいえず、メディポリス事業も安定はするものの大きな利益貢献には至らない。事業全体は緩やかに成長するものの、株価を力強く押し上げるほどの材料には乏しく、じわりとした上昇にとどまる。この場合、5年後の株価は1,900〜2,300円程度となり、現在値からは小幅な上昇にとどまる可能性が高い。安定配当が下値を支える一方、爆発的な成長も見込みにくいという中庸な展開になる。
【悪い場合】
CRO事業の受託環境が悪化し、主要顧客の開発投資抑制などが影響して案件獲得ペースが鈍化。NHP供給も世界的な規制強化や物流環境の変化により収益性が低下する可能性がある。また、創薬投資案件が期待ほど成果につながらず、SMART技術によるロイヤルティ収入も伸び悩むと、全体の利益水準がじわじわと低下する。メディポリス事業も固定費負担が重く、利益貢献が限定的なまま推移すると、市場からの期待が剥落して株価は下落圧力を受けやすい。この場合、5年後には1,300〜1,600円程度まで調整する可能性もある。
総合的に見ると、新日本科学は配当はそこそこ安定しており、独自技術と設備を持つ強みから中長期的な成長余地はあるものの、事業特性上、業績の振れ幅が大きくなりやすい。そのため株価の5年後は「創薬支援ビジネスがどこまで軌道に乗るか」によって大きく変わる銘柄だといえる。保守的に見れば中間シナリオが最も現実的で、業績回復が見えれば上値を狙える一方、成果が遅れれば調整が長引く可能性もある。
この記事の最終更新日:2025年12月1日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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