株価
アスクルとは

アスクル株式会社は、東京都江東区豊洲に本社を置く、事務用品を中心とした通信販売会社であり、現在はソフトバンクグループ傘下のLINEヤフーの連結子会社である。創業当初は事務機器メーカーのプラスの子会社で、現在でもアスクルのプライベートブランド商品にはプラス製品が多く、またプラスの社内カンパニーであるジョインテックスのPB商品も広く取り扱っている。このため、歴史的にも現在も「プラスと密接に結びついたEC企業」という特徴を持つ。
アスクルという社名は「明日来る」という言葉を由来としており、その名の通り、翌日配達を強みとしたECサービスを築き上げてきた。翌日配送が可能なのは、大都市圏近郊に全国7箇所の大規模物流センターを整備しているためで、東京都江東区のDCMセンター、新砂センター、神奈川県横浜市のLogi PARK横浜など、主要都市に近い立地で高効率な物流を実現している。
アスクルはEC企業でありながら、小売店を排除せず、町の文具店などを「アスクルエージェント」として取り込む独自のモデルを採用している。メーカー直販で中間業者を排除する一般的なBtoB通販とは異なり、中間マージンが発生する仕組みをあえて残すことで、小売店との共存共栄を重視している点が大きな特徴である。役割分担としては、アスクルエージェントが新規顧客営業や代金回収などの顧客管理を担い、アスクル本部が商品受注・発送・問い合わせ対応などのオペレーションを担当する形になっている。
取扱品目は文具・事務用品を中核としつつも、食品、飲料、日用品、衛生用品、医療関連、オフィス家具など、オフィスで働く人が必要とする幅広い商品をカバーしている。BtoC向けとしては「LOHACO(ロハコ)」を運営し、一般消費者にも日用品や食品を届けるEC事業を展開している。ロハコは2013年に180億円の売上を目標としていたが初年度は21億円に留まったものの、翌2014年には121億円へ急成長し、Yahoo!(現LINEヤフー)との連携を活かしたBtoC領域での存在感を高めていった。
アスクルは、法人向けEC、個人向けEC、物流ネットワーク構築、オフィスソリューションなど、多方面に事業を展開する総合EC企業として成長しており、「翌日届く」「品揃えが圧倒的に豊富」「物流の効率性が高い」という点を強みに、法人市場と個人市場の両方をカバーし続けている。
アスクル 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 1株益(円) | 1株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連21.5 | 422,151 | 13,923 | 13,850 | 7,758 | 75.8 | 24.5 |
| 連22.5 | 428,517 | 14,309 | 14,270 | 9,206 | 90.8 | 31 |
| 連23.5 | 446,713 | 14,620 | 14,448 | 9,787 | 100.4 | 34(記念) |
| 連24.5 | 471,682 | 16,953 | 16,677 | 19,139 | 196.5 | 36 |
| 連25.5 | 481,101 | 14,004 | 13,816 | 9,068 | 95.5 | 38 |
| 連26.5予 | 500,000 | 11,000 | 10,500 | 6,600 | 73.7 | 38 |
| 連27.5予 | 520,000 | 14,500 | 14,000 | 9,100 | 101.6 | 38〜39 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023年5月期 | 20,131 | -22,929 | 10,232 |
| 2024年5月期 | 16,887 | -11,537 | -9,828 |
| 2025年5月期 | 12,908 | -16,579 | -9,649 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 3.2% | 15.2% | 4.3% | — | — |
| 2024 | 3.5% | 24.4% | 7.8% | — | — |
| 2025 | 2.9% | 11.6% | 3.9% | 14.1〜21.7 | 1.79 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
アスクルの業績をあらためて眺めていくと、この数年で売上は増えているものの、肝心の利益がはっきりと落ち込んでいることが分かる。連24.5では営業利益169億、純利益191億と高水準だったところから、翌25.5では営業利益140億、純利益90億へと半減に近い形になり、さらに26.5予では営業利益110億、純利益66億まで縮む見通しだ。売上だけ見ると4,716億 → 4,811億 → 5,000億と右肩上がりで、一見すると順調に見えるが、利益がここまで縮小しているということは、事業が大きく伸びているわけではなく「コスト負担が膨らんでいる」「収益性が落ちている」という構図が強い。
EPSも、196円 → 95円 → 73円と、3年で3分の1近くまで低下しており、企業としての稼ぐ力が弱くなっていることを如実に示している。営業利益率も低下傾向にあり、ROEも24%台から11%台へと急激に悪化しているため、この数字を見る限りでは「効率よく利益を生み出せている企業」という状態からは遠ざかっている。ROAも同様に鈍化しており、資産を活用して稼ぐ能力も落ちてきている。
さらに気をつけたいのは、こうした利益悪化にもかかわらず、株価の評価がそこまで下がっていないという点である。PERは14〜21倍の範囲にあり、これは利益がこの水準まで落ちている企業に対してはやや高めで、割安感はほとんどない。PBRも1.79倍と、純資産に照らしてみても特段安いとは言えない。株価だけが過去の勢いを引きずり、業績の悪化を十分に織り込んでいない可能性がある。
配当は38円で維持される見通しだが、純利益がこれだけ落ちてくると、配当負担が実質的に重くなっていくため、長期的に見れば「減配リスクがゼロではない」状態になりつつある。つまり、配当狙いで買うにも、不安が残るタイミングである。
こうした数字を総合すると、アスクルは今のところ「売上は伸びているが、利益は縮み続け、収益性が悪化している企業」という姿がはっきりと出ている。成長株としての魅力は薄れ、割安株としての魅力もなく、どちらの観点から見ても積極的に飛びつくタイミングではない。現状では、利益の底打ちや収益改善の兆しが見えるまでは慎重な姿勢が妥当で、強気に買い向かうよりは、様子見の方が合理的と言えるだろう。
配当目的とかどうなの?
アスクルの予想配当利回りは、連26.5・連27.5ともに2.70%となっており、日本株としては決して低すぎる水準ではないものの、いわゆる配当株として積極的に選ばれるほど魅力的な利回りでもない。現在の日本市場では3〜4%台の銘柄が多いため、アスクルの2.7%はやや中途半端な位置にあると言える。
問題は利回りだけでなく、その背景にある利益の下落傾向にある。純利益は191億から90億、さらに66億へと3年で大きく後退しており、EPSも196円から95円、そして73円へと半減以上している。利益がこれほど落ち込んでいるにもかかわらず配当は38円で据え置かれているため、配当性向が上昇し、企業としての負担が確実に重くなっている。この点は配当目的で投資する際に最も注意すべき部分だ。
利益が縮小している企業が配当を維持しているケースでは、将来的にどこかで減配が起きる可能性が高くなる。アスクルの場合、売上は伸びているものの収益性が悪化しており、現在の利益水準が底なのか、さらに悪化する余地があるのかも見えにくい。そのため、2.7%という利回りを狙ってリスクを取るべきかと言われると、判断は慎重にならざるを得ない。
さらに、配当投資では株価の安定性も重要だが、アスクルは利益が下がっている状況でPERが14〜21倍と割高感が残っているため、業績悪化を織り込む形で株価が下落した場合、配当で得られるリターンが簡単に打ち消されてしまうリスクがある。
総合すると、アスクルを配当目的で買う理由は現時点では強くない。利回りが特別高いわけでもなく、利益が落ちているタイミングで、配当維持の余力にも不安が残る。減配リスクも意識する必要があり、収益の回復が見えてくるまでは、より利回りが高く、利益が安定している銘柄を選ぶ方が安全性は高いと言える。
今後の値動き予想!!(5年間)
アスクルの現在値1,409円を起点にして、ここから5年間でどのように株価が動いていきそうかを考えると、まず真っ先に目につくのは業績の「売上は増えているのに利益が落ちている」という構図である。EPSは3年で196円から73円まで下がり、純利益も191億から66億へと縮小している。企業としての稼ぐ力が落ちている姿が数字の上にそのまま出ており、この点は今後の株価を考えるうえで避けて通れない。PERは14〜21倍の範囲にあり、本来なら利益が縮小していく企業に対してこのバリュエーションはやや割高気味で、株価には下方向への圧力が一定程度かかりやすい。
一方で、アスクルは法人向けECという巨大市場を背景にした事業基盤を持っており、売上だけを見ると毎年着実に伸びている。物流拠点の拡充も続けており、事業の「規模の成長」自体は止まっていない。問題は事業拡大とともに物流コストや人件費が増え、その増加分を利益に変換できていない点にある。これはすぐに改善できる性質の問題ではないため、利益が回復するかどうかは株価の中長期的な方向性を左右する最大のポイントと言ってよい。こうした前提を踏まえて、良い場合、中間、悪い場合で株価がどう動くかを整理すると、次のような姿が見えてくる。
良い場合では、物流効率化や経費削減が進み、EPSが100円前後まで戻るような利益回復が起きるケースだ。法人需要が強く、ロハコの収益改善が伴えば、PERは18〜22倍と高い評価になりやすい。5年後の株価は1,800〜2,200円あたりまで戻り、成長株とは言えなくても「安定上昇する銘柄」という立ち位置には戻れる。アスクルの場合、事業が崩れることは考えにくいため、利益さえ戻れば株価は素直に上を向きやすい。
中間の場合は、利益回復の決め手がなく、EPS70〜90円のレンジで横ばいを続けるパターンである。売上は増えるが、収益性が改善しないという今の流れがそのまま続く形だ。PERも15〜18倍程度に落ち着き、株価は1,400〜1,700円程度で推移しやすい。これは現在値と近い水準で、上下どちらにも大きく振れにくい「もっさりした値動き」になりがちだが、事業規模は拡大するため、長期保有でじわじわと戻っていく可能性もある。
悪い場合は、利益低下が止まらず、EPSが70円を割り込むような展開である。この場合、PERは12〜14倍の低評価に落ち込み、株価は1,000〜1,300円まで下がる可能性がある。利益が下がる企業に高いPERはつかないため、株価は素直に利益に連動して沈む。ただしアスクルの事業基盤は強く、ECの需要がすぐに崩れるわけではないため、極端に下がるというより「ゆっくり沈む」イメージに近い。
まとめると、アスクルの株価は「利益回復の有無」でほぼ決まる。売上は順調でも収益が伴っていない今の状態では急上昇は期待しづらい。良い場合には2,200円も見えるが、中間なら現状維持、悪い場合は1,300円前後までの調整もあり得る。5年というスパンで見ると、アスクルは上にも下にも大きく動く銘柄ではなく、収益改善のタイミングを待ちながらじわじわ推移するタイプと言える。
この記事の最終更新日:2025年12月3日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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