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中越パルプ工業とは

中越パルプ工業株式会社は、富山県高岡市に主要拠点を構える中堅製紙メーカーで、王子ホールディングスの持分会社にあたる。製紙業界ではおおむね業界7位規模に位置し、王子製紙系としての安定した事業基盤と販売ネットワークを背景に、新聞用紙、印刷用紙、包装用紙を中心とした紙製品の製造・販売を行っている。昭和22年創業の総合紙パルプメーカーであり、戦後日本の紙需要拡大とともに成長してきた企業である。
事業の中核は、新聞用紙、印刷用紙、産業・包装用紙、特殊紙、製紙用パルプの製造である。新聞社向けの新聞用紙、出版・商業印刷向けの印刷用紙、段ボールや包装用途向けの産業用紙など、用途別に幅広い製品ラインアップを持ち、国内需要を中心に安定した供給体制を構築している。一貫生産体制を有しており、木材チップの調達からパルプ製造、抄紙工程までを自社で行うことで、品質管理とコスト管理の両立を図っている点が特徴である。
製造拠点としては、富山県高岡市の高岡工場および二塚製造部、鹿児島県薩摩川内市の川内工場を有しており、日本海側と南九州の立地を活かした生産体制を構築している。営業面では東京本社および大阪営業支社を拠点に、全国の顧客に対して製品供給を行っている。
近年の特徴として、環境配慮型経営への取り組みが挙げられる。紙づくりの基盤である森林資源を将来にわたり持続可能な形で利用することを重要課題と位置づけ、FSCやPEFCといった国際的な森林認証制度への対応に加え、同社独自の森林保全活動を進めている。日本国内では証明書付間伐材の積極的な集荷を行い、森林の循環利用を促進することで、森林保全と地域林業の維持に貢献している。
産業用紙分野では、間伐材を実際に配合した紙製品を展開しており、印刷用紙分野では、実配合以上の環境効果が得られるクレジット方式を採用した製品「里山物語」を提供している。これにより、実質的に100%間伐材使用と同等の効果を実現し、環境意識の高い顧客ニーズに対応している。
同社の環境戦略を象徴する取り組みとして、「竹紙」がある。1998年から国産竹を原料とした紙の研究・製造を開始し、2009年以降は環境配慮型製品として本格的な製造・販売を行っている。現在では、日本国内の竹を大量に活用する唯一かつ最大規模の企業となっており、放置竹林問題の解消、隣接する森林の保全、里山における生物多様性の維持、地域経済の活性化といった複数の社会課題の解決に寄与している。この竹紙事業は、単なる紙製品の枠を超えた社会的価値創出モデルとして位置付けられている。
また、近年は製紙事業に加え、発電事業の強化にも力を入れている。製紙工程で発生する黒液や木質バイオマスを活用したバイオマス発電により、エネルギーの自給率向上と収益源の多角化を進めている。紙需要が中長期的に縮小傾向にある中で、エネルギー事業を組み合わせることで、業績の安定化と環境負荷低減の両立を図る戦略といえる。
グループ体制としては、中越パッケージ、中越ロジスティクス、中越緑化、中越物産、中越テクノといった関連会社を通じて、包装、物流、資材、環境、技術支援など製紙事業を取り巻く周辺領域までカバーしている。これにより、単体の製紙会社にとどまらず、紙を軸とした総合的な事業運営を行っている点も特徴である。総じて中越パルプ工業は、王子ホールディングス系の安定した立ち位置を背景に、伝統的な製紙事業を基盤としつつ、環境配慮型製品とバイオマス発電事業を組み合わせることで、成熟産業の中でも持続可能性を意識した経営を進める中堅製紙メーカーである。
中越パルプ工業 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株当り配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連23.3 | 105,668 | 2,594 | 3,397 | 3,050 | 229.1 | 50 |
| 連24.3 | 107,826 | 6,172 | 6,820 | 3,701 | 285.9 | 60 |
| 連25.3 | 111,009 | 4,843 | 5,114 | 1,761 | 136.7 | 70 |
| 連26.3予 | 112,000 | 4,900 | 5,200 | 3,500 | 278.5 | 80 |
| 連27.3予 | 113,000 | 5,100 | 5,300 | 3,550 | 282.5 | 80〜90 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 2,662 | -5,124 | -4,795 |
| 2024年3月期 | 13,564 | -7,905 | -3,102 |
| 2025年3月期 | 10,360 | -6,013 | -6,012 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率(%) | ROE(%) | ROA(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 2.4% | 5.9% | 2.4% | – | – |
| 2024年3月期 | 5.7% | 6.6% | 2.8% | – | – |
| 2025年3月期 | 4.3% | 3.0% | 1.4% | 高値平均 8.7 / 安値平均 5.3 | 0.43 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず売上高を見ると、24.3期1078億、25.3期1110億、26.3期予1120億と、年々わずかではあるが増加している。製紙業という成熟産業において売上が維持・微増している点は評価でき、事業基盤自体は安定しているといえる。
一方、利益面を見るとやや不安定さが目立つ。営業利益は24.3期61億から25.3期48億へ減少し、26.3期予でも49億と完全な回復には至っていない。経常利益も24.3期68億から25.3期51億に落ち込み、26.3期予で52億と小幅回復にとどまる。純利益はさらに振れが大きく、24.3期37億から25.3期17億まで大きく減少し、26.3期予で35億と回復見込みではあるが、業績の安定感は強いとは言えない。
収益性を示す営業利益率は、2023年2.4%、2024年5.7%、2025年4.3%となっている。一時的に改善したものの再び低下しており、構造的に高収益体質に転換したとは判断しづらい水準である。製紙業界としては標準的だが、優位性を感じさせる数字ではない。資本効率を見ると、ROEは2023年5.9%、2024年6.6%、2025年3.0%と直近で大きく低下している。ROAも2023年2.4%、2024年2.8%、2025年1.4%と同様に悪化しており、資本や資産を使って利益を生み出す力が弱まっていることが分かる。特にROE3.0%は株主目線では物足りず、企業価値向上力が乏しい水準である。
バリュエーション面では、2025年の実績PERは高値平均8.7倍、安値平均5.3倍と低水準であり、PBRは0.4倍となっている。数字だけを見れば明確な割安株である。ただし、このPBR0.4倍は市場が将来の収益力やROEの低さを織り込んだ結果とも言え、単純な割安とは言い切れない。総合的に見ると、この銘柄は売上は安定しているものの、利益の振れが大きく、営業利益率・ROE・ROAはいずれも低下傾向にある。PERとPBRは確かに低いが、それを正当化できるだけの収益力や資本効率の改善が現時点では確認できない。
以上の数値だけから判断すると、この銘柄は成長を期待して積極的に買う局面ではなく、割安水準で放置されやすいバリュー株に分類される。業績が安定回復し、ROEが再び5%以上に戻る兆しが見えるまでは、株価の大きな上昇余地は限定的と考えるのが妥当である。現段階では「割安だが決め手に欠ける、中立寄りの評価」が適切な投資判断となる。
配当目的とかどうなの?
予想配当利回りは26.3期、27.3期ともに4.5%台と高水準である。国内株の中では十分に高配当といえる水準で、表面利回りだけを見ると配当目的としては魅力がある。特に低金利環境を前提にすれば、インカム収入を重視する投資家の目には入りやすい数字である。ただし、この利回りの背景を冷静に見る必要がある。直近の業績では売上は安定しているものの、利益は年によって大きく振れている。25.3期の純利益は大きく落ち込み、26.3期予で回復見込みとはいえ、安定して右肩上がりに利益を積み上げている企業ではない。配当の原資となる利益の安定性という点では、やや不安が残る。
資本効率を見ると、ROEは直近で3.0%まで低下しており、企業が稼いだ利益が株主資本に対して十分とは言いにくい。ROAも1.4%と低く、事業そのものの収益力は高いとは言えない。PBRが0.4倍にとどまっているのも、資産価値はあるが稼ぐ力が弱いという市場評価を反映したものと考えられる。営業利益率も過去数年で改善と悪化を繰り返しており、構造的に安定した高収益体質に転換したとは判断しづらい。このため、今後も同水準の配当が必ず維持されると断言できるほどの余裕があるわけではない。
以上を踏まえると、この銘柄の配当は、成長とともに安定的に増えていくタイプではなく、業績が一定水準を保っている間は高めに出すという性格が強い。株価の大きな上昇を狙う銘柄ではなく、値上がり益よりもインカムを優先する人向けである。総合的には、この銘柄は配当目的として一定の魅力はあるが、完全な放置型の長期インカム投資にはやや向かない。業績や配当方針を定期的に確認しながら保有することが前提となる銘柄であり、高配当であることを理解した上で、リスクを許容できる投資家向けの選択肢といえる。
今後の値動き予想!!(5年間)
現在の株価1,664.0円を起点に今後5年間を見据えると、中越パルプ工業は製紙業という成熟産業に属する中堅メーカーであり、急成長やテーマ性で株価が動くタイプではなく、業績の安定度と配当水準を軸に評価されやすい銘柄といえる。売上規模はおおむね横ばいから微増で推移しており、営業利益は40億円台後半から50億円前後の水準を維持している。営業利益率は4%前後と高水準ではないが、事業の安定性は一定程度確保されている。ROE・ROAは低下傾向にあるものの、PBR0.4倍台という低評価と4%台半ばの配当利回りが株価の下支えとなる構造を持っている。
良い場合のシナリオでは、紙需要の急減が起きず、価格転嫁やコスト管理が一定程度進み、営業利益が50億円前後で安定するケースを想定する。営業利益率は4%台を維持し、ROEも再び5%前後まで回復する。この場合、市場は過度な成長期待は織り込まないものの、安定配当銘柄としての評価を見直し、PBRは0.6~0.7倍程度まで是正される可能性がある。配当を受け取りながら株価もじわりと切り上がり、5年後には2,200円~2,600円程度まで上昇する展開が考えられる。
中間のシナリオでは、売上・利益ともに大きな成長も悪化もなく、現在の水準で横ばいに近い推移が続くケースを想定する。営業利益は45~50億円前後、営業利益率は4%前後で安定するが、ROEは3~4%台にとどまる。この場合、市場評価は大きく変わらず、PBRは0.4~0.5倍で推移しやすい。株価は現在値1,664.0円を中心に緩やかなレンジ相場となり、5年後の水準としては1,800円~2,100円程度が現実的な到達点になる。値上がり益よりも配当を積み上げる投資となる。
悪い場合のシナリオでは、紙需要の減少やコスト増により利益水準が再び悪化し、営業利益が30億円台まで落ち込むケースを想定する。ROEは3%を下回り、配当の持続性に対する警戒感が強まる。この場合、市場の評価はさらに慎重になり、PBRは0.3倍台まで低下する可能性がある。株価は一時的に1,200円前後まで下落し、その後も大きな回復には時間を要し、5年後でも1,300円~1,500円程度にとどまる展開が考えられる。
総合すると、現在値1,664.0円を起点とした中越パルプ工業の今後5年間の値動きは、良い場合で2,200円~2,600円前後、中間で1,800円~2,100円、悪い場合で1,300円~1,500円といったレンジが想定される。急成長や大きな株価上昇を狙う銘柄ではないが、低PBRと高めの配当利回りを下支えに、中長期で配当を受け取りながら保有する投資と相性の良い銘柄といえる。
この記事の最終更新日:2025年12月14日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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