株価
日本酸素ホールディングスとは

日本酸素ホールディングスは、産業ガス分野で国内首位の地位を持つ大手企業グループを統括する持株会社であり、三菱ケミカルグループの連結子会社に位置づけられている。中核事業会社である大陽日酸をはじめ、産業ガス、医療、機器・エンジニアリング、エネルギー、家庭用品など多様な事業会社を傘下に持ち、産業インフラ型の事業構造を特徴としている。産業ガス分野ではエア・ウォーター、日本エア・リキードと並ぶ国内大手の一角を占めるが、その中でも国内シェアは首位であり、世界全体でも第4位規模の産業ガスメーカーグループとして知られている。
同社は2004年の統合以降、国内事業の安定した収益基盤を土台に、海外展開を積極的に進めてきた。特にM&Aを成長戦略の中核に据え、米国、欧州、アジア、オセアニアといった地域で事業基盤を拡大している。北米ではMatheson Tri-Gasを中心としたガス事業を展開し、半導体関連分野にも強みを持つ。欧州ではNippon Gasesグループを傘下に収め、スペイン、イタリア、ベルギーなど複数国で産業ガス事業を展開しており、地域分散による安定性を高めている。アジア・オセアニア地域でも、シンガポールやベトナム、フィリピン、タイ、台湾などで現地法人を展開し、新興国の産業需要を取り込んでいる。
国内事業では、大陽日酸が鉄鋼、化学、半導体、電子部品、食品、医療など幅広い産業分野に産業ガスを供給しており、オンサイト供給やバルク供給、シリンダー供給など多様な供給形態を通じて顧客との長期的な関係を構築している。これに加え、日酸TANAKAによる機器・エンジニアリング、日本液炭によるガス関連事業、アイ・エム・アイによる医療関連事業、大陽日酸ガス&ウェルディングによる商社機能、大陽日酸北海道による液体酸素製造、アストモスリテイリングによるエネルギー事業など、産業ガス周辺分野まで含めた総合的な事業体制を構築している。
また、日本酸素ホールディングスグループの特徴として、産業用途とは異なる分野であるサーモス事業を展開している点が挙げられる。ステンレス魔法瓶で知られるサーモス株式会社を傘下に持ち、家庭用品分野でもグローバルに事業を展開しており、産業ガスとは異なる収益源を確保することで事業ポートフォリオの安定化を図っている。
全体として、日本酸素ホールディングスは、産業ガスというインフラ性が高く景気変動に比較的強い事業を基盤に、M&Aを活用したグローバル展開を進めてきた企業である。国内首位という強固なポジションと、北米・欧州・アジアに広がる事業網を背景に、安定性と成長性を両立させた産業ガスグループとして位置づけられる。
日本酸素ホールディングス 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(単位百万) | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 一株益(円) | 一株当り配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 21.3 | 818,238 | 88,846 | 77,706 | 55,214 | 127.6 | 30 |
| 22.3 | 957,169 | 101,183 | 91,611 | 64,103 | 148.1 | 34 |
| 23.3 | 1,186,683 | 119,524 | 105,503 | 73,080 | 168.9 | 38 |
| 24.3 | 1,255,081 | 172,041 | 150,720 | 105,901 | 244.7 | 44 |
| 25.3 | 1,308,024 | 165,906 | 145,272 | 98,779 | 228.2 | 51 |
| 26.3予 | 1,310,000 | 194,000 | 171,500 | 118,000 | 272.6 | 58 |
| 27.3予 | 1,350,000 | 202,000 | 180,000 | 124,000 | 286.5 | 60〜64 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 23.3 | 187,959 | -98,073 | -54,430 |
| 24.3 | 215,980 | -124,654 | -110,072 |
| 25.3 | 235,147 | -142,926 | -73,287 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 10.0% | 10.0% | 3.3% | – | – |
| 2024 | 13.7% | 11.5% | 4.3% | – | – |
| 2025 | 12.6% | 10.0% | 4.0% | 20.2倍(高)/12.2倍(安) | 1.87倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
日本酸素ホールディングスは、売上規模が1兆円を超える世界有数の産業ガスメーカーであり、直近の利益水準も高位で安定している。2024年3月期の営業利益は約1,720億円、経常利益は約1,507億円、純利益は約1,059億円であった。2025年3月期は営業利益が約1,659億円、経常利益が約1,452億円、純利益が約987億円と一時的に減少しているが、2026年3月期予想では営業利益が約1,940億円、経常利益が約1,715億円、純利益が約1,180億円まで回復・拡大する見通しとなっている。
収益性を見ると、営業利益率は2023年の10.0%から2024年には13.7%まで上昇し、2025年は12.6%とやや低下するものの、依然として二桁前後の高い水準を維持している。産業ガスというインフラ型ビジネスでこの水準の営業利益率を確保している点は、同社の価格転嫁力や事業の付加価値の高さを示しているといえる。ROEは10.0%、11.5%、10.0%と安定して10%前後を維持しており、資本効率はグローバル大手として標準以上の水準にある。ROAも3.3%、4.3%、4.0%と改善基調にあり、総資産を活用した利益創出力は着実に高まっている。
一方で、バリュエーション面では2025年時点の実績PERが高値平均で20.2倍、安値平均で12.2倍とレンジが広く、PBRは1.8倍台と1倍を大きく上回っている。利益水準や収益性は高いものの、市場ではすでに一定の成長性と安定性が評価されており、エア・ウォーターなど国内同業と比べると割安感は小さい。
総合すると、日本酸素ホールディングスは営業利益・経常利益・純利益の絶対額が非常に大きく、営業利益率・ROE・ROAも安定した高水準を維持している点で、事業基盤の強さとグローバル競争力は明確である。一方で、PER・PBRはすでに一定のプレミアムを織り込んだ水準にあり、業績が安定的に推移した場合の上値余地は限定的になりやすい。大きな成長による株価の急騰を狙う銘柄というよりも、世界トップクラスの産業ガス企業としての安定性と中長期の着実な成長を評価し、やや高めの評価水準を許容できる投資家向けの銘柄と判断できる。
配当目的とかどうなの?
日本酸素ホールディングスは、配当は年々増配傾向にあり、2026年3月期で予想配当利回り1.24%、2027年3月期でも1.28%と、安定的ではあるものの水準自体はかなり低い。営業利益・純利益ともに1,000億円規模を安定して稼ぎ、財務体質も強固であるため、減配リスクは小さく、配当の継続性という点では非常に安心感のある銘柄といえる。
ただし、利回りが1%台前半にとどまっている点から、配当収入を主目的とする投資には明確に向いていない。インカムゲイン狙いであれば、同じ化学・産業ガス関連でも利回り3〜5%クラスの銘柄が多数存在するため、日本酸素ホールディングスを選ぶ必然性は薄い。実際、配当額は増えていても、株価水準が高く、PBRも1倍後半と評価が進んでいるため、利回りは構造的に低く抑えられている。
総合すると、日本酸素ホールディングスは「配当が少ないわけではないが、株価に対しては低利回り」という典型的な大型優良株であり、配当目的単独での投資対象としては物足りない。あくまで世界的産業ガス企業としての安定成長や業績拡大を主軸に据え、結果として配当も受け取るという位置づけの銘柄であって、高配当株投資の代替として選ぶ銘柄ではない、という評価になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
日本酸素ホールディングスは、産業ガス国内首位の大陽日酸を中核とする持株会社であり、三菱ケミカルグループ傘下のグローバル産業ガス企業である。産業ガス事業を基盤に、医療、半導体、エネルギー、エレクトロニクス分野へ幅広く展開しており、北米、欧州、アジア、オセアニアと世界各地に事業基盤を持つ点が特徴である。国内ではエア・ウォーター、日本エア・リキードと並ぶ大手だが、シェアでは首位に位置し、海外展開の進捗度合いでも優位性がある。サーモス事業など消費者向け事業も抱えることで、事業ポートフォリオの分散が進んでいる。現在の株価は4,655円で、この価格帯を起点に、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、半導体、医療、エネルギー関連向けのガス需要が世界的に堅調に推移し、北米・欧州での設備投資が着実に回収段階へ進む展開を想定する。営業利益は2,000億円規模まで拡大し、営業利益率も12%前後を維持する。ROEは10%台を安定的に確保し、グローバル産業ガス大手としての評価が一段と高まることで、市場ではプレミアム評価が継続する。PBRは2倍前後、PERも18〜20倍で安定し、この場合、株価は緩やかに上昇し、5年後には5,800円から6,500円程度まで上昇する展開が考えられる。急成長ではないが、安定成長を背景とした強気シナリオである。
中間のシナリオでは、産業ガス需要は底堅いものの、世界景気の影響や設備投資負担により利益成長は緩やかにとどまるケースを想定する。営業利益は1,700〜1,900億円程度で推移し、営業利益率は11〜12%前後、ROEは10%前後に落ち着く。配当は増配基調を維持するものの、成長期待は限定的となり、市場評価も現状水準を大きく上回らない。この場合、株価は現在値4,655円を中心に上下しながら推移し、5年後の水準は4,800円から5,400円程度に収まる可能性が高い。大型安定株として現実的なシナリオといえる。
悪い場合のシナリオでは、世界的な景気減速や半導体投資の停滞が長期化し、産業ガス需要の伸びが鈍化する展開を想定する。営業利益は1,500億円台まで低下し、営業利益率も10%前後まで下落する。ROEやROAは低下し、成長期待の後退から市場評価は慎重になる。PBRは1.4〜1.6倍、PERは12〜14倍程度まで調整され、この場合、株価は現在値4,655円から下落し、5年後には3,800円から4,300円程度まで下げる展開も想定される。
総合すると、現在株価4,655円を起点とした日本酸素ホールディングスの5年間の値動きは、良い場合で5,800円から6,500円前後、中間で4,800円から5,400円、悪い場合で3,800円から4,300円といったレンジが想定される。急激な値上がりを狙う銘柄ではないが、世界分散された事業基盤と安定したキャッシュフローを背景に、ディフェンシブ性と中長期の緩やかな成長を重視する投資家向けの銘柄と位置づけられる。
この記事の最終更新日:2025年12月18日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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