株価
ダイセルとは

ダイセル株式会社は、車載部品向けを中心とした高機能樹脂(エンジニアリングプラスチック)を事業の柱とする日本の大手化学メーカーである。自動車用途に加え、液晶ディスプレイ向けフィルム材料やエアバッグ用基幹部品なども展開しており、最終製品の安全性や性能を支える重要部材を幅広く供給している。本社は大阪市北区大深町および東京都港区港南に所在し、JPX日経インデックス400の構成銘柄の一つである。
同社は1919年にセルロイド製造企業8社の合同により大日本セルロイド株式会社として設立され、昭和初期にはセルロイド製品で世界市場を席巻した。その後、事業領域の拡大に伴い社名を変更し、2011年に現在の株式会社ダイセルとなった。創業以来のセルロース化学を基盤に、有機合成化学、高分子化学、火薬工学など多様な技術分野を融合させながら事業を発展させてきた点が特徴である。
事業面では、タバコ用フィルターで日本唯一のメーカーであり、世界でも高いシェアを持つほか、自動車用エアバッグのインフレーターでは国内トップ、世界でも上位のシェアを有している。特に機械式インフレーターは世界で唯一の生産メーカーであり、高い技術的優位性を持つ分野となっている。また、液晶ディスプレイの基幹部品である偏光板保護フィルム向けに、酢酸セルロースを供給しており、この分野では富士フイルムとの関係が深い。富士フイルムは同社の主要株主の一社でもあり、事業面での結びつきが強い。
株主構成面では三井グループ各社が名を連ねており、三井グループおよび最勝会グループに属する企業でもある。こうした企業グループとの関係を背景に、安定した事業基盤と長期視点の経営を行っている。事業内容は、セルロースカンパニー、有機合成カンパニー、CPIカンパニー、特機・MSDカンパニー、新規事業などで構成され、基礎素材から高付加価値製品までを一貫して手がけている。自動車、安全、電子、生活関連分野など幅広い用途に製品を供給している点が特徴である。
また、同社独自の生産革新手法である「ダイセル方式」を確立している。これはプロセス産業特有の課題に対応した生産改革であり、受注から納品までの工程を徹底的に見直し、操作負荷やムダを排除することで、大幅な原価低減と生産性向上を実現した。モデル工場である網干工場では、製造原価の約2割削減、生産性3倍、要員6割削減といった成果を上げ、安定操業を実現している。この手法はグループ内外にも展開され、他の大手化学メーカーにも採用されているほか、横河電機と連携して外部企業向けのビジネスにも発展している。
総じてダイセルは、高機能樹脂やセルロース系材料、エアバッグ関連部品といったニッチかつ高付加価値分野で強固な競争力を持ち、生産革新による高効率なオペレーションを強みとする化学メーカーである。安定した事業基盤と技術力を背景に、自動車・電子・安全分野を支える重要な素材メーカーとして位置づけられる。
ダイセル 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連21.3 | 393,568 | 31,723 | 34,683 | 19,713 | 65.2 | 32 |
| 連22.3 | 467,937 | 50,697 | 57,291 | 31,254 | 104.1 | 34 |
| 連23.3 | 538,026 | 47,508 | 52,035 | 40,682 | 138.9 | 38 |
| 連24.3 | 558,056 | 62,393 | 68,396 | 55,834 | 197.6 | 50 |
| 連25.3 | 586,531 | 61,011 | 62,320 | 49,480 | 181.4 | 60 |
| 連26.3予 | 583,000 | 47,000 | 48,000 | 50,200 | 192.1 | 60 |
| 連27.3予 | 600,000 | 54,000 | 56,000 | 46,000 | 176.1 | 60 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(百万円) | 営業CF | 投資CF | 財務CF |
|---|---|---|---|
| 2023 | 26,847 | -44,093 | 19,956 |
| 2024 | 76,729 | -55,374 | -52,373 |
| 2025 | 93,406 | -47,869 | -48,855 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROA | ROE | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 8.8% | 5.3% | 13.7% | ― | ― |
| 2024 | 11.1% | 6.6% | 15.5% | ― | ― |
| 2025 | 10.4% | 6.0% | 13.7% |
8.2倍(高値平均) 5.4倍(安値平均) |
0.97倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績規模を見ると、連24.3の売上高は5,580億、営業利益は623億、経常利益は683億、純利益は558億である。連25.3では売上高が5,865億に増加した一方、営業利益は610億、経常利益は623億、純利益は494億と減少している。連26.3予では売上高5,830億、営業利益470億、経常利益480億、純利益502億とされており、売上は横ばい圏、営業利益と経常利益は明確に低下局面に入っていることが分かる。純利益については26.3予でやや持ち直す想定だが、利益水準全体としては24.3をピークに一服している。
次に収益性を見ると、営業利益率は2023年8.8%、2024年11.1%、2025年10.4%となっている。24年にかけて改善した後、25年はやや低下しており、10%前後での安定推移という評価になる。化学メーカーとしては悪くない水準だが、高付加価値型として市場を強く惹きつけるほどの水準ではない。ROEは13.7%、15.5%、13.7%と推移しており、24年に一時的に上昇したものの、その後は元の水準に戻っている。ROAも5.3%、6.6%、6.0%と同様の動きで、資本効率・資産効率ともに改善トレンドが定着しているとは言い切れない。
市場評価を見ると、2025年の実績PERは高値平均8.2倍、安値平均5.4倍と極めて低い水準にある。実績PBRは0.9倍で、1倍を下回っている。ROEが13.7%あるにもかかわらずPBRが1倍割れである点から、市場は同社を成長企業としてではなく、成熟した安定企業として慎重に評価していることが読み取れる。一方で、この評価水準は将来の成長期待がほとんど織り込まれていない状態とも言える。
これらの数値を総合すると、ダイセルは売上規模が安定し、一定水準の利益を継続的に生み出す力を持つ一方で、利益成長や資本効率の大幅な向上は期待されていない企業像が浮かび上がる。営業利益率、ROE、ROAはいずれも「及第点以上」ではあるが、右肩上がりの成長局面にあるとは言えない。一方で、PER5倍台から8倍台、PBR1倍割れという評価は明確に低位であり、業績がさらに大きく悪化しない限り、株価の下値余地は限定的と考えられる。
以上から、この数値だけを前提に判断するなら、ダイセルは高成長を狙う投資対象ではなく、割安水準に置かれた安定収益型の銘柄と位置づけられる。強い上昇余地を期待する局面ではないが、評価の低さと利益水準の安定性を考慮すると、中長期で保有する前提であれば検討余地のある銘柄であり、投資判断としては中立からやや前向き、守り寄りのスタンスが妥当と考える。
配当目的とかどうなの?
結論から言うと、ダイセルは配当目的にはかなり向いている銘柄である。連26.3、連27.3ともに予想配当利回りは4.3%と高水準で、同水準が2年連続で見込まれている点から、会社として一定の配当維持姿勢があることが読み取れる。
利益水準を見ると、連26.3予でも純利益は502億と大きく、営業利益や経常利益は減少傾向にあるものの、赤字転落や急激な悪化を示す数値ではない。売上高も5,800億円前後で安定しており、事業の土台は崩れていない。この業績規模で配当利回り4%超を維持できている点は、インカム投資として大きな強みである。
収益性を見ると、営業利益率は10%前後、ROEは13%台、ROAは6%前後で推移している。いずれも突出した成長企業の水準ではないが、成熟企業としては十分に安定した数字であり、配当を継続するための利益創出力は確保されていると判断できる。ROEが13%台あるにもかかわらずPBRが0.9倍にとどまっている点は、市場評価が低く、結果として配当利回りが高く見える構造になっている。
PERを見ると5.4倍から8.2倍とかなり低く、成長期待はほぼ織り込まれていない。このため、株価が大きく上昇する局面は想定しにくいが、逆に言えば評価調整による急落リスクも限定的である。配当目的の投資では、株価の大幅な上昇よりも、減配リスクの低さと利回りの安定が重要になるため、この評価水準はむしろ好ましい。
以上の数値だけで判断すると、ダイセルは高成長株ではないが、安定した利益水準と高い配当利回りを両立しており、典型的なインカムゲイン向け銘柄と位置づけられる。配当を重視し、株価変動はある程度許容しつつ、長期で現金収入を得たい投資家にとっては適した銘柄である。一方で、値上がり益を大きく狙う投資には向かず、あくまで配当中心での保有を前提に考えるのが妥当である。
今後の値動き予想!!(5年間)
ダイセルは、車載用途を中心とした高機能樹脂(エンジニアリングプラスチック)や、エアバッグ用インフレーター、液晶ディスプレイ向けフィルム材料などを主力とする大手化学メーカーである。セルロース化学を源流としながら、自動車の安全部品や電子材料といった高付加価値分野で確固たる地位を築いている。売上規模は5,800億円前後で安定しており、高成長型ではないものの、一定の利益水準と4%を超える高い配当利回りを背景に、安定収益・高配当型の性格が強い企業である。現在の株価1,387円を起点に、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、自動車の安全規制強化や車両生産の安定回復を背景に、エアバッグ関連部品や高機能樹脂の需要が底堅く推移する展開を想定する。生産効率の改善や高付加価値製品比率の上昇により、営業利益率は10%前後で安定し、ROEも13〜14%水準を維持する。利益は横ばいから緩やかな回復基調となり、高配当を継続しながら財務の安定性が再評価される。この場合、市場評価はPER8倍前後から10倍程度まで切り上がり、PBRも1倍台を回復する可能性がある。配当を受け取りながら評価修正が進むことで、5年後の株価は1,800円から2,100円程度まで上昇する展開が考えられる。高配当と安定収益が評価される強気シナリオである。
中間のシナリオでは、自動車・電子材料向け需要は概ね横ばいで推移し、業績は会社計画どおりに進むものの、大きな上振れ材料も出ないケースを想定する。営業利益率は9〜10%台、ROEは12〜13%台で安定し、配当は60円水準を維持する。市場評価はPER6〜8倍、PBR1倍前後で落ち着き、株価は配当利回りを意識した水準で推移する。この場合、5年後の株価は1,400円から1,600円程度となり、値上がり益は限定的だが、配当を受け取りながら保有する安定型のシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、世界的な景気減速や自動車生産の停滞、原材料コストの上昇などが重なり、主要製品の需要が弱含む展開を想定する。営業利益率は再び1桁台に低下し、ROEも10%前後まで落ち込む。この場合、市場の評価は一段と慎重になり、PERは5倍台、PBRも1倍を下回る水準にとどまる可能性がある。株価は高配当による一定の下支えはあるものの、5年後の株価は1,000円から1,200円程度まで下落する展開も考えられる。配当は維持されても、評価面では守りに入る弱気シナリオである。
総合すると、現在株価1,387円を起点としたダイセルの5年間の値動きは、良い場合で1,800円から2,100円前後、中間で1,400円から1,600円、悪い場合で1,000円から1,200円といったレンジが想定される。高成長株ではないが、自動車安全部品や高機能材料という安定需要分野を背景に、高い配当利回りを享受しながら中長期で保有するインカム重視型の銘柄として位置づけられる。
この記事の最終更新日:2025年12月20日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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