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トリケミカル研究所とは

株式会社トリケミカル研究所は、山梨県上野原市に本社を置く、先端半導体製造向けの高純度化学材料を専門とする研究開発型化学メーカーである。臭化水素をはじめとする半導体用高純度化学材料の研究開発・製造・販売を主力事業としており、量産型ではなくニッチな化学材料を少量多品種で供給する点に特徴がある。JPX日経中小型株指数の構成銘柄の一つである。
同社は先端半導体の微細化・高性能化に伴い求められる、新規かつ高純度な化学材料の分野に特化している。顧客は主に国内外の半導体メーカーや材料メーカーであり、製造プロセスに深く組み込まれる材料を扱うため、採用後は長期取引になりやすい事業構造を持つ。製品は少量生産が中心である一方、品質要求水準が極めて高く、精製技術、分析技術、品質管理体制そのものが参入障壁となっている。
事業展開としては、海外との連携も積極的に進めている。韓国では半導体材料大手との合弁会社であるSK Tri Chem Co., Ltd.に35%を出資しており、韓国半導体メーカー向けの供給体制を構築している。また、日本エア・リキードとの合弁会社である株式会社エッチ・ビー・アールも関連会社として展開している。海外子会社としては、台湾にTri Chemical Electronic Materials Taiwan Inc.、中国にTri Chemical Laboratories China Inc.を有し、アジア半導体市場への対応力を高めている。韓国には水原市に事務所を構え、現地顧客との技術対応や営業活動を行っている。
国内では、生産能力と研究開発体制の強化を目的として山梨県内に新工場を整備しており、先端半導体向け材料の安定供給と新製品開発を同時に進めている。半導体業界ではAI、車載、データセンター用途の拡大を背景に高性能化ニーズが継続しており、それに伴って新規化学材料の開発要求も高まっている。同社はこうした環境を成長機会と捉えている。
研究開発体制では、開発部を中心に、生産技術部、製造部、営業部が密接に連携する体制を構築しており、顧客ニーズを迅速に製品開発へ反映できる点が強みである。今後5年間で新製品10件の開発を目標として掲げており、高収益体質を維持しながら、半導体産業全体の技術革新やエネルギー効率向上への貢献を目指している。
製品分野は多岐にわたる。Si半導体向け材料では、スマートフォン、車載、AI関連機器向け半導体製造に使用される高純度化学材料を提供している。コーティング用材料分野では、超硬工具や部品寿命の長期化、パーティクル削減に寄与する高純度薬品を製造している。光ファイバー分野では、光ファイバー母材材料や各種添加剤の製造・開発を行い、通信インフラ分野の高度化を支えている。さらに、化合物半導体や酸化物半導体向け材料、超伝導用材料といった先端分野にも対応している。
特殊試薬分野では、As特殊試薬、特殊溶媒、希釈ガスや溶液調整などを手掛け、研究開発型企業でありながらコンサルティング型の化学会社として顧客の要望に応えている。少量小分け充填、バルブ付き容器への移充填、試薬の溶液調整など、使用環境に応じた柔軟な対応を行い、安全に試薬を使用するための提案やコンサルティングも提供している。また、製品販売にとどまらず、成膜試験、各種分析サービス、容器や部品の提案、配管洗浄などのサービスも展開しており、半導体製造工程全体を支援する付加価値の高い事業を構築している。
全体としてトリケミカル研究所は、先端半導体製造向けという極めて専門性の高い分野で、少量高付加価値の化学材料を武器に成長してきた企業である。半導体市況の影響を受けやすい側面はあるものの、高い技術力と顧客密着型の開発体制を背景に、長期的には先端半導体の進化とともに成長余地を持つニッチトップ型の化学メーカーと位置づけられる。
トリケミカル研究所 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株配当 DPS(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連23.1 | 13,803 | 3,504 | 6,186 | 4,832 | 148.7 | 30 |
| 連24.1 | 11,246 | 1,947 | 3,276 | 2,470 | 76.0 | 30 |
| 連25.1 | 18,905 | 5,256 | 6,583 | 4,961 | 152.7 | 35 |
| 連26.1(予) | 23,000 | 5,500 | 6,530 | 4,800 | 147.7 | 35 |
| 連27.1(予) | 26,000 | 6,100 | 7,100 | 5,000 | 153.9 | 35〜40 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023.1 | 6,392 | -1,557 | -1,703 |
| 2024.1 | 2,972 | -1,781 | -1,858 |
| 2025.1 | 3,675 | -3,116 | -1,620 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率(%) | ROA(%) | ROE(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.1 | 25.3 | 15.0 | 18.6 | ― | ― |
| 2024.1 | 17.3 | 7.7 | 8.9 | ― | ― |
| 2025.1 | 27.8 | 13.4 | 15.7 | 18.4〜36.7 | 2.39 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の推移を見る。売上高は2024.1期112億、2025.1期189億、2026.1期予230億、2027.1期予260億と急回復から拡大局面に入っている。2024.1期は市況悪化の影響が強く出たが、その後は明確な増収基調であり、事業環境の回復が数字に反映されている。
営業利益は2024.1期19億、2025.1期52億、2026.1期予55億、2027.1期予61億となっており、利益水準の戻りは非常に速い。経常利益も2024.1期32億から2025.1期65億、2026.1期予65億、2027.1期予71億と高水準で安定している。純利益は2024.1期24億、2025.1期49億、2026.1期予48億、2027.1期予50億で、2025.1期に一気にピーク水準近くまで回復している。
収益性を見ると、営業利益率は2023.1期25.3%、2024.1期17.3%、2025.1期27.8%である。2024.1期に大きく落ち込んだ後、2025.1期には過去水準を上回るレベルまで回復しており、本業の収益力は極めて高い。市況変動の影響は大きいが、回復局面では非常に稼ぐ力を持つ企業であることが確認できる。
資本効率では、ROEが2023.1期18.6%、2024.1期8.9%、2025.1期15.7%、ROAが2023.1期15.0%、2024.1期7.7%、2025.1期13.4%となっている。こちらも営業利益率と同様に2024.1期を底に急回復しており、資本効率の高さが戻っている。特にROE15%台、ROA13%台は製造業としては非常に高い水準である。
一方でバリュエーションを見ると、2025.1期の実績PERは高値平均36.7倍、安値平均18.4倍とレンジが非常に広い。実績PBRは2.3倍であり、ROE15.7%を考慮すると理論的には説明可能だが、決して割安な水準ではない。市場は成長期待を強く織り込む局面と、半導体市況への警戒を強める局面を行き来している状態といえる。
以上を総合すると、この銘柄は業績・収益性・資本効率のいずれも2024.1期を底に力強く回復しており、数字だけを見れば極めて優秀なファインケミカル企業である。一方で、PER・PBRはすでに高水準にあり、特に好調時には過熱気味の評価が付く傾向がある。
結論として、トリケミカル研究所は割安株ではなく、「高収益・高効率だが、市況と評価変動が大きい成長寄り銘柄」と判断できる。業績拡大が続く局面では株価の上振れ余地がある一方、半導体市況の調整局面では評価が急速に縮むリスクも大きい。強い収益力を評価してタイミングを見て入る銘柄であり、安定保有よりも業績サイクルを意識した投資と相性が良い、という投資判断になる。
配当目的とかどうなの?
配当目的という観点でトリケミカル研究所を見ると、結論から言えば配当を主目的に保有する銘柄ではない。予想配当利回りは連26.1期、連27.1期ともに1.37%と低水準であり、一般的に配当目的で評価されやすい2.5〜3.0%以上と比べると、インカム狙いとしての魅力はかなり限定的である。数字だけを見る限り、配当を安定的に積み上げていくタイプの銘柄とは言いにくい。
一方で業績面を見ると、純利益は2024.1期24億から2025.1期49億へと大きく回復し、2026.1期以降も48〜50億規模で推移する見通しとなっている。EPSも150円前後で安定しており、配当水準そのものは十分に利益でカバーされている。このため、配当の安全性は高く、短期的に減配リスクが高い状態ではない。配当が低いのは業績不安ではなく、研究開発投資や設備投資を優先する企業姿勢によるものと判断できる。
営業利益率は2025.1期に27.8%まで回復し、ROE15.7%、ROA13.4%と収益性・資本効率は非常に高い。その割に配当利回りが1%台にとどまっている点は、この会社が株主還元よりも成長投資を重視する成長志向の企業であることを示している。実際、PBRは2.3倍と高く、低配当・高PBRという組み合わせは、配当目的の投資家にとって効率が良いとは言えない。
以上を踏まえると、トリケミカル研究所は安定配当を長期で受け取りたい投資家や、利回り重視でインカムを積み上げたい投資家には向かない。一方で、半導体向けニッチ材料という成長分野で高い収益力を持つ企業として、業績拡大による株価上昇を主軸に考え、配当は副次的に受け取るというスタンスであれば意味のある保有対象となる。結論として、トリケミカル研究所は配当を取りにいく銘柄ではなく、高収益・高成長を背景にした値上がり益を狙う銘柄であり、配当はあくまでおまけという位置づけになる。配当目的単独で選ぶ対象ではない、という判断になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
トリケミカル研究所は、現在株価2,540.0円を基準に見ると、安定型の配当銘柄というよりも、先端半導体向けニッチ化学材料で高い技術力と収益力を発揮する、成長寄りの高収益ファインケミカル銘柄と位置づけられる。臭化水素をはじめとする高純度材料を少量多品種で供給し、顧客の製造プロセスに深く入り込むビジネスモデルを持つ。営業利益率は市況の影響を受けながらも20%超の高水準を維持できる力があり、ROE・ROAも回復局面では非常に高い。一方で配当利回りは1%台にとどまり、インカムよりも業績成長と株価変動を重視する投資家向けの銘柄である。この前提を踏まえて、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、AI・車載・データセンター向けを中心に先端半導体需要が中長期的に拡大し、新工場の稼働や海外JVの効果が業績に順調に寄与する展開を想定する。高付加価値材料の比率が高まり、営業利益率は25%前後で安定、ROEも15%前後を維持する。この場合、市場では「高収益な半導体材料の成長企業」として再評価が進み、PERは25〜30倍程度が許容されやすくなる。5年後の株価水準は4,000円から5,000円程度が目安となり、値上がり益を主軸とした強気寄りのシナリオとなる。
中間のシナリオでは、半導体市況は循環的な波を繰り返しつつも、全体としては緩やかな成長にとどまるケースを想定する。売上高と利益は会社計画に沿って拡大するものの、成長期待が過度に高まる局面はない。営業利益率は20〜23%程度、ROEは12〜14%前後で推移し、市場評価も現状近辺に落ち着く。PERは15〜20倍程度で推移し、株価は業績の伸びに合わせて緩やかに上昇する。この場合、5年後の株価は2,800円から3,400円程度と、現在値から緩やかな上昇にとどまる中立的なシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、半導体設備投資の調整が長期化し、先端分野の投資回復が遅れる展開を想定する。数量減の影響で利益率は20%を下回り、ROEも一桁台に低下する。市場の評価は慎重となり、成長期待が後退することでPERは10〜12倍程度まで切り下げられる可能性がある。この場合、5年後の株価は1,700円から2,100円程度まで下押しされるリスクがあり、値動きの厳しい弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価2,540.0円を起点としたトリケミカル研究所の5年間の値動きは、良い場合で4,000円から5,000円前後、中間で2,800円から3,400円、悪い場合で1,700円から2,100円といったレンジが想定される。配当を主目的に保有する銘柄ではないが、先端半導体向けニッチ材料という成長分野での高い競争力を背景に、業績拡大と市況回復による値上がりを狙う中長期投資と相性の良い銘柄と評価できる。
この記事の最終更新日:2025年12月21日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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