株価
日本化薬とは

日本化薬は、火薬事業を起源とする日本有数の総合化学メーカーであり、現在は機能化学品、医薬品、自動車安全部品などを幅広く手がけている。本社は東京都千代田区に置き、化学技術を中核に「情報通信」「医療」「安全」の3分野を成長領域と位置づけて事業を展開している。
日本化薬の歴史は火薬事業から始まり、日本で初めてダイナマイトの製造に成功した企業として知られている。その後、染料や農薬といった薬品分野へ事業を広げ、時代の変化に合わせてファインケミカルや医薬品、機能材料へと事業領域を拡大してきた。現在では祖業である産業用火薬事業は、旭化成との折半出資による合弁会社カヤク・ジャパンが担っており、日本化薬本体は高付加価値分野へ経営資源を集中させている。
ファインケミカル事業では、半導体や電子材料分野向けの機能化学品を中核としている。代表的な製品であるフォトレジストは、紫外線硬化樹脂として半導体や電子部品の製造工程に不可欠な材料である。また、半導体封止材用エポキシ樹脂では世界市場の40%以上を占める高いシェアを持ち、日本化薬の技術力を象徴する分野となっている。DVD向け紫外線硬化型樹脂では世界シェア2位を誇り、さらに低誘電特性を持つマレイミド樹脂や、半導体の微細加工プロセス向け薬液など、高度な分子設計技術を活かした製品群を展開している。
ライフサイエンス事業では、医薬品分野、特に抗がん剤に強みを持つ。がん関連分野では世界有数のラインナップを誇り、約20種類の抗がん剤を販売している。膀胱がんの診断に用いられる蛍光薬剤アラグリオ、EGFR阻害薬のポートラーザ、有機ヒ素系抗悪性腫瘍薬ダルビアスなど、診断から治療まで幅広い領域をカバーしている点が特徴である。また、韓国のセルトリオンとバイオシミラーの共同開発を進めるなど、次世代医薬品分野にも積極的に取り組んでいる。
モビリティ・イメージング事業では、自動車向け安全部品の育成に力を入れている。エアバッグ用インフレータや、シートベルトを瞬時に引き込むマイクロガスジェネレーターの研究・開発・製造を行っており、特にマイクロガスジェネレーターは国内シェアトップを誇る。これらの製品は自動車の安全性能向上に不可欠であり、グローバルに供給されている。また、イメージング分野では液晶ディスプレイ向けの偏光フィルムや偏光板も手がけており、無機材料を用いた偏光板など独自性のある製品展開を行っている。
このほか、染料などの色素材料、農薬、各種触媒といった分野にも事業を展開しており、化学技術を軸にした多角的な事業構造を持っている。支社としては、東京都文京区に東部支社、大阪市中央区に西部支社を構え、医薬品事業を含めた営業・開発体制を整えている。
全体として日本化薬は、火薬を起源としながらも、現在では半導体向け機能化学品、抗がん剤を中心とする医薬品、自動車安全部品といった社会インフラや先端産業を支える分野に軸足を移した企業である。高成長一辺倒ではないものの、世界シェアを持つ製品群と技術力を背景に、安定性と専門性を併せ持つ総合化学メーカーとして独自のポジションを築いている。
日本化薬 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高 (百万円) |
営業利益 (百万円) |
経常利益 (百万円) |
純利益 (百万円) |
一株益 EPS (円) |
一株配当 DPS (円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 21.3期 | 173,381 | 15,194 | 16,538 | 12,574 | 73.6 | 30 |
| 22.3期 | 184,805 | 21,050 | 23,154 | 17,181 | 101.7 | 40 |
| 23.3期 | 198,380 | 21,505 | 23,025 | 14,984 | 89.4 | 45 |
| 24.3期 | 201,791 | 7,337 | 12,562 | 4,113 | 24.8 | 45 |
| 25.3期 | 222,584 | 20,401 | 22,266 | 17,508 | 107.2 | 60 |
| 26.3期(予) | 239,800 | 21,300 | 20,900 | 20,400 | 134.3 | 60〜65 |
| 27.3期(予) | 250,000 | 23,000 | 22,700 | 19,800 | 130.4 | 60〜65 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF (百万円) |
投資CF (百万円) |
財務CF (百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 20,039 | -15,158 | -7,950 |
| 2024年 | 23,242 | -19,409 | 3,823 |
| 2025年 | 25,530 | -27,313 | -4,756 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年 | 営業利益率 | ROA | ROE | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年 | 10.8% | 4.6% | 5.8% | ― | ― |
| 2024年 | 3.6% | 1.1% | 1.5% | ― | ― |
| 2025年 | 9.1% | 4.6% | 6.5% | 28.5(高) 23.1(安) |
0.96 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
日本化薬は、業績の回復力は確認できるものの、収益効率と評価水準を踏まえると慎重に見たい企業だと感じる。24.3期は売上高2,017億に対して営業利益73億、経常利益125億、純利益41億と、利益水準が大きく落ち込んだ年だった。営業利益率も3.6%まで低下しており、この時点では事業構造の弱さが数字にはっきり表れている。
一方で25.3期になると、売上高は2,225億に拡大し、営業利益は204億、経常利益222億、純利益175億と一気に回復している。営業利益率も9.1%まで戻っており、通常時の稼ぐ力は決して低くないことが分かる。26.3期予想でも売上高2,398億、営業利益213億、純利益204億と、高い利益水準の維持が見込まれており、業績面だけを見れば回復局面にある企業と言える。
ただし、収益性と資本効率を見ると評価は一段落ちる。営業利益率は2023年10.8%、2024年3.6%、2025年9.1%と推移しており、平時でも二桁に安定して届く水準ではない。ROEは5.8%、1.5%、6.5%と低く、ROAも4.6%、1.1%、4.6%にとどまっている。利益が回復しても、資本や資産を使って高いリターンを生み出せているとは言いにくく、効率性の面では物足りなさが残る。
評価面ではさらに慎重になる。2025年時点の実績PERは安値平均で23.1倍、高値平均では28.5倍とかなり高い。ROEが6%台の企業としては、このPER水準は割安とは言えず、むしろ回復期待をかなり織り込んだ評価に見える。一方でPBRは0.9倍と1倍を下回っており、資産面では過度な割高感はない。この点が、日本化薬が完全に売られない理由だろう。
全体を総合すると、日本化薬は「回復力はあるが、効率性は低めで、評価はやや高い」企業だと判断できる。25.3期、26.3期の利益水準が続けば業績不安は薄れるものの、ROEが6%台にとどまる限り、本来許容されるPERは15倍前後が妥当だと感じる。現状の20倍超という評価では、株価の上値余地は限定的になりやすい。
投資判断としては中立寄りが適切だと思う。安定性と回復力を評価して長期で保有する分には選択肢になるが、割安感や高い成長性を狙う投資には向きにくい。ROEが8%前後まで改善するか、株価調整によってPERが大きく下がる局面が来ない限り、積極的に買いに行く段階ではないという印象だ。
配当目的とかどうなの?
配当目的という視点で見ると、日本化薬は「悪くはないが、強く推せる高配当株でもない」という位置づけになる。26.3期、27.3期ともに予想配当利回りは3.54%と、市場全体で見れば平均よりやや高めの水準にある。極端に高配当ではないが、インカム目的として最低限の水準はしっかり満たしていると言える。安定企業としての顔を持つ日本化薬らしい配当水準だ。
キャッシュフローを見ると、営業CFは安定してプラスで推移しており、配当の原資そのものに不安は感じにくい。一方で、投資CFのマイナスが比較的大きく、成長投資や設備投資を継続していることが分かる。このため、配当余力が潤沢で「配当をどんどん積み増せる」段階にあるわけではない。
利益水準は25.3期、26.3期と高水準が見込まれているが、ROEは6%台にとどまっており、株主資本を使って高いリターンを生む企業とは言い切れない。そのため、配当は「高成長の果実」というより、「安定企業としての株主還元」という意味合いが強い。
総合すると、日本化薬は配当目的として「安心感はあるが、インパクトは小さい」銘柄だと感じる。3.5%前後の利回りを安定して受け取りながら、業績の回復や横ばい推移を見守るスタンスとは相性が良い。一方で、配当利回りそのものを最優先に考えるなら、5%前後の高配当銘柄の方が魅力は大きい。配当を主目的に据えるのであれば、「値上がり益を大きく狙う」というより、「下振れしにくい企業から安定した配当を受け取る」用途に向いた銘柄だと言える。
今後の値動き予想!!(5年間)
日本化薬は、現在株価1,690.5円を基準に見ると、高成長株というよりも、事業の回復力と安定配当を背景に評価される中堅の安定型・循環寄り銘柄だと位置づけられる。火薬を起源とし、現在は半導体向け機能化学品、抗がん剤を中心とする医薬品、自動車安全部品といった分野に事業を広げており、業績は景気や市況の影響を受けやすい一方で、回復局面ではしっかり利益を出せる体質を持っている。直近では営業利益率が9%前後まで戻り、ROEも6%台に回復してきているが、資本効率はなお高いとは言えず、市場評価は慎重な水準にとどまっている。今後5年間の良い場合、中間の場合、悪い場合の値動き予想を書いていきます。
良い場合のシナリオでは、半導体向けエポキシ樹脂など機能化学品が堅調に推移し、医薬品や自動車安全部品も安定的に収益を積み上げる展開を想定する。業績のブレが小さくなり、営業利益率が9〜10%程度で定着し、ROEも7%前後まで改善してくれば、「安定して稼げる総合化学メーカー」としての評価が進みやすくなる。この場合、現在0.9倍前後にあるPBRは1.1倍程度まで見直され、PERも過度な割高感が意識されにくくなる。5年後の株価水準は2,400円から2,800円程度が目安となり、配当利回り3.5%前後を維持しながら、値上がり益も期待できる強気寄りのシナリオとなる。
中間のシナリオでは、各事業は大きな成長も失速もなく推移し、利益水準は会社計画どおりで安定するケースを想定する。営業利益率は8〜9%程度、ROEは6%台で横ばいとなり、資本効率の改善は緩やかにとどまる。市場評価も大きく変わらず、PERは20倍前後、PBRは0.9〜1.0倍付近で落ち着く。この場合、配当利回り3.5%前後が株価の下支えとなり、5年後の株価は1,800円から2,100円程度と、現在値から緩やかな上昇にとどまる中立的なシナリオとなる。値上がり益よりも配当を積み上げながら保有する投資と相性が良い。
悪い場合のシナリオでは、半導体や自動車関連の市況が想定以上に弱含み、機能化学品や安全部品の収益性が低下する展開を想定する。営業利益率は7%前後まで落ち込み、ROEも5%台にとどまると、市場の評価は一段と慎重になる。配当は維持される可能性が高いものの、成長期待が後退し、PBRは0.8倍台まで低下することも考えられる。この場合、5年後の株価は1,200円から1,500円程度まで下落するリスクがあり、配当の魅力は残るものの株価面では厳しい弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価1,690.5円を起点とした日本化薬の5年間の値動きは、良い場合で2,400円から2,800円前後、中間で1,800円から2,100円、悪い場合で1,200円から1,500円といったレンジが想定される。大きな成長を狙う銘柄ではないが、世界シェアを持つ機能化学品と医薬品・自動車安全部品という分散された事業基盤を背景に、安定配当を受け取りながら回復局面を取り込む中長期投資と相性の良い銘柄と位置づけられる。
この記事の最終更新日:2025年12月21日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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