株価
森六とは

森六株式会社は、樹脂加工製品と化学品商材を二本柱とする、日本でも最古参に位置づけられる化学系企業グループである。創業は1663年と非常に古く、阿波国、現在の徳島県で藍染めの原料となる藍や、その肥料である干鰯の商いを始めたことが起点になっている。時代の変化とともに事業内容を変えながらも、商いを途切れさせることなく続けてきた点が、この会社の大きな特徴と言える。
現在は東京都港区に本社を置き、国内外に20社以上の関連会社を持つ企業グループとして展開している。事業の中核は大きく二つあり、一つは自動車向けを中心とした樹脂成形部品を製造する生産事業、もう一つは幅広い分野の化学品を取り扱うケミカル事業である。メーカーとしてのものづくりと、商社としての調達・販売機能を併せ持つ点が、森六の事業モデルの根幹になっている。
生産事業では、四輪・二輪自動車向けの樹脂成形部品や外装部品、機能部品などを手がけており、特にホンダ向けの製品比率が非常に高い。全体の約9割がホンダ関連とされており、ホンダとの長年の取引関係が事業の基盤を支えている。1958年にスーパーカブの泥除けを樹脂化したことが転機となり、自動車部品メーカーとしての道を本格的に歩み始めた。その後、国内では鈴鹿工場や関東工場を整備し、海外ではアメリカを皮切りにアジアや中国へと生産拠点を広げてきた。現在では売上の約7割を海外が占めるまでになっており、海外生産の拡充が進んでいる。
一方のケミカル事業では、ファインケミカル、コーティング材料、電機・電子材料、生活材料、自動車材料など、非常に幅広い分野で化学品を取り扱っている。特定の製品や業界に強く依存するのではなく、長年にわたり築いてきた取引ネットワークを活かし、多様な顧客ニーズに応えることで安定した収益を確保してきた。商社機能を持つことで、市況変動に応じた柔軟な対応ができる点も、この事業の強みである。
沿革を振り返ると、江戸時代には藍商として全国へ販路を広げ、明治期には海外進出にも挑戦し、パリ万国博覧会への出品なども行ってきた。その後、合成染料や工業薬品へと取り扱い品目を広げ、1916年には株式会社化して化学品商社としての体制を確立した。戦後には塩化ビニールを扱い始め、そこから樹脂事業へとつながっていく。こうした時代ごとの変化に合わせた事業転換が、長寿企業であり続けている理由の一つだと感じられる。
2008年には持株会社体制へ移行し、事業を分社化してきたが、2025年には再び組織を再編し、森六株式会社としてグループを統合した。これは事業間の連携を強め、より機動的な経営を行う狙いがあると見られる。
全体として森六株式会社は、急成長を目指す企業というよりも、長い歴史と取引基盤を背景に、安定性を重視して事業を積み重ねてきた会社である。ホンダ向け依存度の高さや自動車業界の景気変動といった課題はあるものの、樹脂加工と化学品という二つの柱を持つことで事業のバランスを取っている。創業400年を目前に控え、派手さはないが、堅実に社会の中で役割を果たし続けてきた企業だと言える。
森六 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(単位百万) | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 一株益(円) | 一株配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 21.3期 | 155,460 | 5,672 | 5,595 | 375 | 22.7 | 50 |
| 22.3期 | 128,842 | 2,846 | 2,965 | 4,259 | 258.9 | 94 |
| 23.3期 | 142,019 | 1,335 | 1,596 | 1,346 | 86.3 | 100 |
| 24.3期 | 145,638 | 5,706 | 6,183 | 3,022 | 201.0 | 100 |
| 25.3期 | 146,174 | 4,135 | 2,204 | -7,814 | -532.4 | 105 |
| 26.3期(予) | 131,000 | 3,500 | 2,800 | 1,800 | 126.1 | 115 |
| 27.3期(予) | 180,000 | 6,200 | 5,200 | 3,300 | 231.2 | 135〜140 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(百万円) | 営業CF | 投資CF | 財務CF |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 9,495 | -5,311 | -5,310 |
| 2024年 | 14,764 | -6,630 | -7,221 |
| 2025年 | 9,348 | -3,751 | -6,407 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年 | 営業利益率 | ROA | ROE | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年 | 0.9% | 1.0% | 1.9% | ― | ― |
| 2024年 | 3.9% | 2.1% | 4.0% | ― | ― |
| 2025年 | 2.8% | -6.3% | -12.3% | 18.9(高) 14.1(安) |
0.51 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
森六は、売上規模自体は大きいものの、利益の安定性と収益効率に課題を抱えた企業だと感じる。24.3期は売上高1,456億、営業利益57億、経常利益61億、純利益30億と、数字だけを見れば一定の利益水準を確保していた。しかし25.3期になると、売上は1,461億とほぼ横ばいで推移したにもかかわらず、営業利益は41億、経常利益は22億へと減少し、最終的には純利益がマイナス78億と大きな赤字に転落している。この点から、利益構造が非常に不安定で、外部環境や一時的な要因に左右されやすい体質であることがうかがえる。
26.3期については、売上高1,310億、営業利益35億、純利益18億と黒字回復が予想されている。ただし、これは24.3期の水準と比べると明確に低く、好調期に戻るというよりは、赤字から持ち直す段階にとどまっている印象が強い。売上が減少する中で利益率も高くないため、力強い回復という評価はしにくい。
収益性を見ると、営業利益率は2023年が0.9%、2024年に3.9%まで改善したものの、2025年には2.8%へと再び低下している。もともと高い利益率を出せる事業構造ではなく、少し環境が悪化するとすぐに収益が圧迫される企業だと感じられる。利益率が安定して積み上がっていくイメージは現時点では持ちにくい。
資本効率の面ではさらに厳しい。ROEは2023年1.9%、2024年4.0%と低水準にとどまり、2025年にはマイナス12.3%まで悪化している。ROAも同様に、2025年はマイナス6.3%となっており、資本や資産を使って十分な利益を生み出せていない状態がはっきりと表れている。一時的な赤字の影響が大きいとはいえ、投資家から見れば評価を下げざるを得ない数字である。
こうした業績を背景にした評価を見ると、2025年時点のPBRは0.5倍と低く、資産価値だけを基準にすれば割安に見える。一方で、PERは安値平均でも14.1倍、高値平均では18.9倍と、利益が不安定な企業としては決して低い水準とは言えない。この点から、市場は「資産はあるが、安定して稼げない会社」と見ており、評価を慎重に抑えている状況だと感じられる。
全体を通して考えると、森六は典型的な業績変動の大きい企業であり、安定成長や高い資本効率を期待する投資には向かない。26.3期に黒字へ戻る見込みはあるものの、営業利益率が3%前後にとどまり、ROEが再びプラスで安定する姿が見えてこない限り、株価が大きく見直される可能性は低いだろう。
投資判断としては、割安感だけを理由に積極的に買いに行く局面ではなく、慎重に様子を見るべき段階だと考える。資産バリューを重視し、長い時間軸で業績の安定化を待てる投資家であれば検討余地はあるが、効率性や成長性を重視する投資スタイルには適さない。少なくとも、営業利益率が安定して3%台後半以上に定着し、ROEがプラスで推移するようになるまでは、距離を取るのが無難だと判断する。
配当目的とかどうなの?
配当目的という観点で見ると、森六はかなり評価が分かれるタイプの銘柄だと思う。26.3期の予想配当利回りは5.07%、27.3期は5.96%と、数字だけを見ると明確に高配当水準に入っている。市場全体で見ても5%超の利回りは希少で、インカム狙いの投資家にとっては一見すると非常に魅力的に映る。特に27.3期の6%近い利回りは、純粋な利回りランキングで見れば上位に来る水準だ。
ただし、この配当利回りは「安心して持てる高配当」かというと、そこには注意が必要だと感じる。25.3期には純利益がマイナス78億と大幅な赤字を計上しており、業績の振れ幅はかなり大きい。26.3期、27.3期は黒字回復を前提にした配当予想だが、利益水準自体は過去の好調期と比べるとまだ低く、余裕をもって配当を出している印象は強くない。
営業利益率は2〜3%台にとどまり、ROEも直近ではマイナスまで落ち込んでいる。こうした収益性・資本効率の水準を見る限り、配当の源泉となる「稼ぐ力」は決して強いとは言えない。そのため、現在の高配当は、安定成長の結果として積み上がったものというより、「業績回復を前提にした株主還元姿勢」による部分が大きいと考えられる。
一方で、PBRが0.5倍前後と低く、財務的な余力が一定程度あることも事実で、短期的にすぐ減配に追い込まれるような危うさは今のところ感じにくい。高配当を維持することで株価の下支えを狙う経営姿勢は読み取れる。その意味では、株価が大きく上がらなくても、配当を受け取りながらじっくり保有するという戦略は成り立つ。
総合すると、森六は「配当目的としては魅力はあるが、安心感は高くない」銘柄だと言える。業績が想定どおり回復すれば、5%前後の利回りを享受できる一方、再び業績が崩れれば減配リスクも現実的に存在する。安定配当株として腰を据えて持つというよりは、業績回復局面を前提にした高配当バリュー枠として割り切って付き合う銘柄、という位置づけがしっくりくる。
配当だけを目的にするなら、より利益率やROEが安定している銘柄の方が安心感は高い。一方で、「高い利回りを取りつつ、業績が立ち直れば評価見直しも期待する」というスタンスであれば、森六は十分に検討余地のある銘柄だと思う。
今後の値動き予想!!(5年間)
森六は、樹脂加工製品を中心とする自動車部品事業と、幅広い化学品を取り扱うケミカル事業を二本柱とする老舗の化学系企業である。樹脂成形部品では二輪・四輪向けの外装部品や機能部品を主力とし、特にホンダ向けの比率が高い点が事業の大きな特徴となっている。一方、ケミカル事業ではファインケミカル、電機・電子材料、コーティング材料などを扱い、商社機能と技術提案力を併せ持つことで安定した取引基盤を築いている。事業構造は分散されているものの、自動車生産や市況の影響を受けやすく、高成長というよりは景気循環型の企業体質である。現在の株価2,265円を起点に、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、自動車生産が安定的に推移し、海外拠点を含めた樹脂成形部品事業の稼働率が改善する展開を想定する。加えて、ケミカル事業が底堅く利益を確保することで、全社としての収益のブレが小さくなる。営業利益率は3%台後半まで回復し、ROEもプラス圏で安定してくると、市場からは「高配当かつ業績が落ち着いた企業」として再評価されやすくなる。この場合、現在0.5倍前後にあるPBRが0.7倍程度まで見直され、5年後の株価は3,000円から3,500円程度まで上昇する展開が考えられる。高成長ではないが、割安修正と配当評価が進む強気寄りのシナリオである。
中間のシナリオでは、自動車関連需要は大きく伸びないものの、大きく崩れることもなく推移し、ケミカル事業が引き続き業績の下支えとなるケースを想定する。営業利益率は2〜3%台にとどまり、ROEも低水準ながらプラスを維持する。市場評価はPBR0.5〜0.6倍程度で落ち着き、高配当が株価の下支え要因となる。この場合、株価は大きなトレンドを描かず、5年後の株価水準は2,000円から2,600円程度と、現在値近辺での推移が想定される。値上がり益よりも配当収入を重視する中立的なシナリオである。
悪い場合のシナリオでは、自動車生産の減速やコスト負担の増加により、樹脂成形部品事業の採算が悪化する展開を想定する。ケミカル事業は一定の安定性を保つものの、全社の利益水準は再び大きく振れ、営業利益率は2%を割り込む。ROEも低迷し、配当の持続性に対する不安が意識されるようになると、市場の評価は一段と慎重になる。この場合、PBRは0.4倍台まで低下し、5年後の株価は1,500円から1,800円程度まで下落する可能性がある。高配当である点は残るものの、冴えない値動きが続く弱気シナリオである。
総合すると、現在株価2,265円を起点とした森六の5年間の値動きは、良い場合で3,000円から3,500円前後、中間で2,000円から2,600円、悪い場合で1,500円から1,800円といったレンジが想定される。高成長株ではないが、樹脂加工製品と化学品という異なる収益源を持つ事業基盤と高配当を背景に、極端な下振れリスクは比較的限定されやすい銘柄であり、配当を受け取りながら中長期で保有することを前提とした企業と位置づけられる。
この記事の最終更新日:2025年12月21日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

コメントを残す