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ウイングアーク1stとは

ウイングアーク1stは、帳票・文書管理ソフトと企業内データ活用支援を中核とする、国内では数少ない「業務基盤系ソフトウェア」に強みを持つ企業である。派手なBtoC向けITや短期成長型のSaaSとは異なり、企業活動の根幹に関わる帳票・データ活用分野を長年にわたり押さえてきた点が最大の特徴と言える。
事業の出発点は帳票基盤であり、主力製品であるSVFは、請求書や納品書、各種業務帳票を出力・管理するための事実上の標準ソフトとして、多くの企業システムに組み込まれている。2020年時点で累計導入社数は約2万6千社に達し、帳票ソフト市場では出荷金額ベースで約7割という圧倒的なシェアを持つ。この高いシェアは単なる販売力ではなく、基幹システムや業務フローに深く組み込まれていることによる「入れ替えにくさ」が背景にあり、結果として極めて安定したストック収益を生み出している。
帳票分野に加えて、同社は早い段階から企業内データ活用の重要性に着目し、BI・データ分析領域へ事業を拡張してきた。Dr.Sumは大量データを高速処理できるデータベース型BIとして評価され、MotionBoardは経営層から現場まで直感的に使えるダッシュボードとして浸透している。これらの製品は単体で導入されるだけでなく、帳票データや基幹系データと連携することで、企業全体の情報活用基盤を構成する役割を担っている。
近年では、SVF CloudやMotionBoard Cloudといったクラウドサービスの比率も高まり、従来のライセンス販売に加えて、月額・年額課金によるサブスクリプション収益が着実に積み上がる構造になっている。さらに、invoice AgentによるOCR・書類整理、電子帳簿保存法やインボイス制度対応といった制度改正への対応力も強みで、法制度対応という「なくならない需要」を確実に取り込んでいる点も事業の安定性を高めている。
経営面では、かつてMBOを実施し非公開化した後、2021年に再上場している。この過程で短期的な株価や外部評価に左右されにくい経営体制を経験しており、再上場後も成長投資と株主還元のバランスを重視する姿勢が明確である。現在は総還元性向50%を掲げており、ソフトウェア企業としては比較的高い還元姿勢を示している点も特徴の一つとなっている。
事業ポートフォリオを見ると、帳票基盤という「守りの強い領域」と、BI・データ活用という「成長余地のある領域」を併せ持っている構造になっている。帳票分野は急成長こそ見込みにくいものの、法制度や業務インフラとしての必須性から安定性が高い。一方で、データ活用分野はDXの進展とともに中長期的な成長が期待でき、両者が組み合わさることで、業績の振れが比較的小さいビジネスモデルが形成されている。
また、単なるソフト販売にとどまらず、BIコンサルティングや第三者データ提供、小売業向け情報活用ソリューションなど周辺領域にも展開しており、既存顧客との関係を深めながらアップセルを狙える点も強みである。メディア事業としてUpdataブランドのカンファレンスやYouTubeチャンネルを運営している点も、データ活用分野でのプレゼンス向上という観点では意味を持っている。
総じてウイングアーク1stは、短期的なテーマ株や爆発的な成長を狙うタイプの企業ではないが、企業活動の基盤を支えるソフトウェアを押さえ、強い市場シェアとストック型収益を背景に、安定成長と高収益を両立してきた企業である。再上場後は株主還元も意識した経営にシフトしており、派手さはないものの、業務インフラ系IT企業として中長期で価値を積み上げていくタイプの会社、という位置づけになる。
ウイングアーク1st 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高 (百万円) |
営業利益 (百万円) |
経常利益 (百万円) |
純利益 (百万円) |
一株益(EPS) (円) |
一株配当 (円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 21.2 | 18,285 | 3,207 | 3,153 | 2,452 | 79.5 | 24 |
| 22.2 | 19,833 | 5,986 | 5,910 | 4,352 | 132.3 | 42.6 |
| 23.2 | 22,349 | 5,945 | 5,860 | 4,401 | 129.5 | 43.1 |
| 24.2 | 25,752 | 7,309 | 7,304 | 5,411 | 158.1 | 78.7 |
| 25.2 | 28,708 | 8,216 | 8,253 | 5,929 | 172.0 | 104 |
| 26.2(予) | 31,500 | 9,000 | 9,000 | 6,400 | 184.6 | 104 |
| 27.2(予) | 34,000 | 10,500 | 10,500 | 7,400 | 213.5 | 104〜120 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF (百万円) |
投資CF (百万円) |
財務CF (百万円) |
|---|---|---|---|
| 23.2 | 6,870 | -1,020 | -3,730 |
| 24.2 | 7,840 | -1,600 | -4,462 |
| 25.2 | 8,196 | -1,657 | -4,802 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 23.2 | 26.6% | 12.7% | 7.0% | — | — |
| 24.2 | 28.3% | 13.8% | 8.2% | — | — |
| 25.2 | 28.6% | 14.1% | 8.6% |
高20.6倍 安11.1倍 |
2.75倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず利益の規模と推移を見ると、24.2期の営業利益は73億円、純利益は54億円。25.2期には営業利益82億円、純利益59億円へと着実に増えており、26.2期予想では営業利益90億円、純利益64億円、27.2期予想では営業利益105億円、純利益74億円まで伸びる見通しになっている。成長率は急拡大型ではないが、毎年しっかりと増益を積み重ねている点が特徴で、業績の再現性は高いと感じる。売上の拡大と利益の伸びが素直に連動しており、無理のない成長パターンに見える。
収益性に目を向けると、営業利益率は2023年が26.6%、2024年が28.3%、2025年が28.6%と非常に高い水準で推移している。30%近い利益率を安定して出せている点は、ソフトウェア企業の中でもかなり優秀で、価格競争に巻き込まれにくい事業構造を持っていることが数字から分かる。一方でROEは12.7%から14.1%、ROAは7.0%から8.6%へと緩やかに上昇しており、資本効率は高すぎず低すぎず、あくまで堅実な範囲に収まっている。過度にレバレッジをかけず、安定性を重視して利益を積み上げている印象を受ける。
バリュエーションを見ると、2025年実績PERは高値平均で20.6倍、安値平均で11.1倍と幅があり、成長期待が強い局面と慎重な局面で評価が大きく振れる銘柄であることが分かる。PBRは2.7倍程度で、営業利益率の高さを考えると極端に割高とは言いにくい。市場がこの会社を「派手な成長株」ではなく、「高収益で安定したソフトウェア企業」として評価している水準に見える。
これらを総合すると、この銘柄は短期間で株価が何倍にもなるタイプではないが、事業の質が高く、利益を安定的に積み上げていける企業だと判断できる。高い営業利益率が示す競争力と、抑制の効いた資本効率、そして現実的なバリュエーションを考えると、過度な期待が先行している感じは少ない。成長のスピードよりも、安定性と収益力を重視する投資家にとって、じっくり保有しやすい銘柄という印象が強い。
結論としては、爆発力よりも安定感を評価するタイプの投資向きで、業績に沿ってゆっくりと価値が積み上がっていく銘柄だと考える。配当も含めたトータルリターンを意識しながら、中長期で構える投資と相性が良い、そんな位置づけになる。
配当目的とかどうなの?
結論から言うと、配当目的としては「十分に検討対象になる水準」です。まず予想配当利回りを見ると、26.2期・27.2期ともに2.95%となっており、日本株全体で見れば平均よりやや高め、少なくとも低配当とは言えない水準にあります。インカム目的の投資家が最低ラインとして意識する2.5%前後は明確に超えており、配当だけで見ても一定の魅力があります。
次に利益とのバランスを見ると、営業利益は24.2期で73億円、25.2期で82億円、26.2期予想で90億円、27.2期予想で105億円と、安定して増加しています。純利益も同様に右肩上がりで、配当を維持・継続するための原資には余裕があると判断できます。利益が横ばいや減少局面で無理に配当を出している形ではなく、業績に裏付けられた配当である点は安心材料です。
キャッシュフローの面でも、営業CFが毎年しっかりとプラスで積み上がっており、その一部を財務CFとして安定的に外へ出している構図になっています。これは一時的な配当ではなく、継続的な株主還元を前提とした動きと読み取れます。配当の持続性という観点では、かなり健全な部類です。
一方で、利回りが3%弱という水準は、高配当株と呼ばれる4〜5%クラスには届きません。そのため、配当利回りだけを最大化したい人や、下落耐性を高配当でがっちり固めたい人にとっては、やや物足りなさは残ります。ただし、その分、営業利益率が25%超と非常に高く、事業の安定性と成長余地があるため、「配当+緩やかな成長」を両立できる点が特徴になります。
総合すると、この銘柄は、毎年安定した配当を受け取りたい人や、利回りは3%前後あれば十分と考える人、減配リスクの低さを重視したい人、配当と値上がりの両方を狙いたい人といった配当投資スタンスとは相性が良いです。一方で、とにかく利回りを最優先したい人や、短期で高配当を取り切りたい人というタイプには向きません。結論としては、この銘柄は純粋な高配当株ではないものの、安定配当を軸に中長期で安心して持ちやすい「インカム寄りの安定成長株」と評価できます。配当目的としても十分に成立する銘柄です。
今後の値動き予想!!(5年間)
ウイングアーク1stは、現在株価3,520.0円を基準に見ると、急拡大を狙うハイパーグロース株というよりも、帳票・文書管理と企業内データ活用という業務基盤分野を中核に、安定した成長と高い収益性を両立するソフトウェア企業と位置づけられる。営業利益率は26〜28%台と国内ソフトウェア企業の中でも極めて高水準を維持しており、価格競争に陥りにくい強い事業基盤を持つ点が大きな特徴である。
一方でROEは12〜14%台と穏やかで、過度なレバレッジをかけず、財務の安定性を重視した経営スタイルが読み取れる。配当利回りは3%前後と一定水準を確保しており、成長性とインカムのバランスを重視する中長期向きの銘柄である。この前提を踏まえて、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、電子帳簿保存法やインボイス制度対応を背景とした帳票・文書管理需要が底堅く推移し、加えてBI・データ活用分野でのクラウドサービス利用が着実に拡大する展開を想定する。既存顧客へのアップセルが順調に進み、売上・利益ともに計画どおり成長、営業利益率は25%超の高水準を維持する。安定した収益力を背景に市場では「高収益・安定成長型ソフトウェア企業」としての評価が維持され、PERは18〜22倍程度が許容されやすい。この場合、利益成長と評価の安定が両立し、株価は緩やかに切り上がる。5年後の株価水準は5,000円から6,000円程度が目安となり、配当を受け取りながら着実な値上がりを狙える強気寄りのシナリオとなる。
中間のシナリオでは、帳票・データ活用需要は引き続き堅調に推移するものの、成長ペースは徐々に落ち着き、売上は安定成長にとどまるケースを想定する。営業利益率は25%前後、ROEは13%前後で安定し、収益構造に大きな変化はない。市場評価も現状水準を大きく上回ることはなく、PERは14〜18倍程度で推移する。この場合、5年後の株価は4,000円から4,800円程度と、現在値から緩やかな上昇にとどまる中立的なシナリオとなる。配当と値上がり益を合わせたトータルリターンを重視する投資と相性が良い。
悪い場合のシナリオでは、IT投資の抑制や競合激化、人件費上昇などにより、成長が想定を下回る展開を想定する。営業利益率は20%台前半まで低下し、ROEも10%台前半にとどまる。市場の評価は慎重となり、PERは12倍前後まで切り下がる可能性がある。この場合、5年後の株価は2,800円から3,300円程度にとどまり、高収益企業ではあるものの成長期待の後退が重荷となる弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価3,520.0円を起点としたウイングアーク1stの5年間の値動きは、良い場合で5,000円から6,000円前後、中間で4,000円から4,800円、悪い場合で2,800円から3,300円といったレンジが想定される。爆発的な成長を狙う銘柄ではないが、帳票・データ活用という企業活動の基盤分野を押さえた高収益体質と、安定した配当を背景に、成長とインカムの両立を意識した中長期投資と相性の良い銘柄と評価できる。
この記事の最終更新日:2025年12月22日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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