株価
ラクスルとは

ラクスル株式会社は、ネット印刷、ノベルティ、店舗や事務所向け資材のネット通販を中心に、広告・マーケティング分析や支援までを手掛けるインターネット関連サービス企業である。英語表記はRAKSUL INC.で、日本におけるシェアリングエコノミー型ビジネスの代表的な企業の一つとされている。
同社の中核となるサービスは、印刷・広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」である。全国の印刷会社が保有する印刷機の非稼働時間に着目し、その空き稼働をオンライン上で集約・活用することで、低価格かつ短納期の印刷サービスを実現している。チラシ、冊子、パンフレット、ポスター、名刺など幅広い印刷物を取り扱い、印刷だけでなく新聞折込やポスティングなど、配布までを一気通貫で提供できる点が特徴である。印刷機の稼働率が約4割程度にとどまっているという業界構造を逆手に取り、自社で大規模な印刷工場を持たずにコストを抑えるビジネスモデルを構築している。
このモデルは、企業の遊休資産を活用するシェアリングエコノミーの発想に基づくものであり、創業者である松本恭攝はミスミの「持たざる経営」を参考にしたと語っている。設備投資を最小限に抑えつつ、ITとデータを活用して需給を最適化することで、価格競争力とスケールメリットを両立している点がラクスルの大きな特徴である。
印刷事業に加えて、ノベルティやオリジナルグッズ分野では「ラクスル グッズ・ノベルティ」を展開している。これは、オリジナルTシャツや名入れカレンダーなどの販促グッズを、デザイン制作から印刷、発注までインターネット上で完結できるプラットフォームであり、企業の販促活動やイベント用途を中心に利用が広がっている。
物流分野では「ハコベル」を展開しており、運送会社の空き時間や空車情報を活用して荷主とマッチングすることで、物流の効率化とコスト削減を図っている。慢性的な人手不足や非効率が課題となっている物流業界に対し、ITを通じた構造改革を目指すサービスである。
広告・マーケティング分野では、連結子会社であるノバセル株式会社を通じて事業を展開している。ノバセルは、独自の広告手法と広告効果測定ツールである「ノバセルアナリティクス」を活用し、テレビCMを中心とした広告の企画、制作、放映、分析までを一気通貫で提供している。これにより、従来は効果測定が難しかったテレビCMを運用型広告として扱い、広告投資の最適化を支援している。
関連会社としては、連結子会社に株式会社ハンコヤドットコム、ノバセル株式会社、株式会社ラクスルファクトリーなどを有し、印刷・広告・販促領域を中心に事業基盤を広げている。評価面では、2015年に米Red Herring誌が選定する世界で最も革新的なテクノロジーベンチャーを表彰する「Red Herring Top Global 100」に選出され、国内でも2019年に第5回日本ベンチャー大賞で経済産業大臣賞を受賞するなど、多くの実績を積み重ねてきた。
全体としてラクスルは、印刷、物流、広告といった巨大だが非効率が残る産業を対象に、ITとデータを活用したプラットフォーム型ビジネスで構造改革を進めてきた企業である。短期的には投資負担が先行しやすい一方、利用者の拡大とデータの蓄積が進めば進むほど競争優位が強まる構造を持っており、中長期的な成長余地を備えたインターネットサービス企業と位置づけられる。
ラクスル 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株配当 DPS(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 21.7(単) | 30,261 | 220 | 130 | 160 | 2.8 | 0 |
| 22.7(連) | 33,980 | 462 | -167 | 1,021 | 17.7 | 0 |
| 23.7(連) | 41,018 | 1,765 | 1,168 | 1,329 | 22.9 | 0 |
| 24.7(連) | 51,121 | 2,523 | 2,041 | 2,118 | 36.3 | 1.7 |
| 25.7(連) | 61,950 | 3,819 | 3,462 | 2,702 | 46.6 | 3 |
| 26.7(予) | 77,000 | 4,800 | 4,600 | 3,200 | 55.2 | 4.25 |
| 27.7(予) | 85,000 | 5,200 | 5,000 | 3,400 | 58.6 | 4.25〜4.5 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023.7 | 2,902 | 297 | -2,238 |
| 2024.7 | 2,705 | -6,930 | 5,671 |
| 2025.7 | 4,992 | -2,184 | -4,258 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率(%) | ROA(%) | ROE(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.7 | 4.3 | 4.0 | 10.5 | ― | ― |
| 2024.7 | 4.9 | 4.8 | 14.9 | ― | ― |
| 2025.7 | 6.1 | 6.0 | 18.7 | 18.1〜31.1 | 7.34 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の推移を見る。ラクスルは売上高が2024.7期511億、2025.7期619億、2026.7期予770億と、明確な高成長を続けている。年率で見ても2桁成長が継続しており、事業規模の拡大スピードはかなり速い。
営業利益は2024.7期25億、2025.7期38億、2026.7期予48億と順調に増加している。経常利益も2024.7期20億、2025.7期34億、2026.7期予46億と同様の成長を示しており、利益水準そのものが着実に切り上がっている。純利益は2024.7期21億、2025.7期27億、2026.7期予32億と拡大しており、黒字定着と利益成長のフェーズに入っていることが数字から確認できる。
収益性を見ると、営業利益率は2023.7期4.3%、2024.7期4.9%、2025.7期6.1%と着実に改善している。ただし水準としては依然として一桁台であり、高収益企業と呼べる段階にはない。規模拡大とともに利益率を引き上げていく途上にある段階といえる。
資本効率では、ROEが2023.7期10.5%、2024.7期14.9%、2025.7期18.7%と急速に改善している点が目立つ。ROAも2023.7期4.0%、2024.7期4.8%、2025.7期6.0%と上昇基調にあり、利益成長に伴って資本効率が大きく向上している。特にROE18%台は、成長企業としては非常に高い水準である。
一方でバリュエーションを見ると、2025.7期の実績PERは高値平均31.1倍、安値平均18.1倍、実績PBRは7.3倍である。ROE18.7%を考慮すれば高PBRには一定の合理性があるものの、絶対水準としてはかなり高い評価が付いている。営業利益率がまだ6%台にとどまる中で、この評価は将来の利益率改善と成長継続を強く織り込んだものといえる。
以上を総合すると、ラクスルは売上・利益ともに高い成長を続け、営業利益率、ROE、ROAはいずれも改善基調にあり、事業フェーズとしては「拡大と収益化が同時に進んでいる段階」にある。一方でPER・PBRは高水準で、現時点では割安感はなく、むしろ将来成長を前提とした評価がすでに株価に反映されている。
結論として、ラクスルは割安株ではなく、「高成長を続けることが前提となる成長株」と判断できる。成長が続き利益率がさらに改善すれば評価は正当化されるが、成長鈍化や利益率の停滞が見えた場合には、評価調整が起きやすい水準でもある。安定性よりも成長ストーリーを重視し、中長期での事業拡大を信じて向き合う投資家向けの銘柄、という位置づけになる。
配当目的とかどうなの?
配当目的という観点でラクスルを見ると、結論から言えば配当を主目的に保有する銘柄ではない。予想配当利回りは26.7期、27.7期ともに0.00%であり、実質的に無配が続く前提となっている。一般的に配当目的で評価されやすい2.5〜3.0%以上とは大きな差があり、インカム狙いの投資先としての魅力はないと言ってよい。
一方で、業績面を見ると純利益は2024.7期21億、2025.7期27億、2026.7期予32億と着実に拡大しており、利益が出ていないから配当できない状況ではない。ROEも2025.7期には18%台まで上昇しており、資本効率は高い水準にある。無配が続く理由は業績不安ではなく、成長投資を最優先する経営方針にあると判断できる。
営業利益率はまだ6%台と高収益企業には達していないものの、売上成長とともに改善基調にあり、今後も事業拡大やプラットフォーム強化、物流・広告分野への投資が続くと考えられる。この局面で配当を出さないのは、企業としては合理的な選択とも言える。ただし、評価面ではPBRが7倍台、PERも高値では30倍超と、将来の成長を強く織り込んだ水準にある。その中で無配という点は、配当を重視する投資家にとっては心理的なハードルが高い。株主還元は当面、配当ではなく企業価値の拡大、すなわち株価上昇に委ねる形となる。
以上を踏まえると、ラクスルは安定配当を受け取りたい投資家や、インカムを積み上げたい投資家には明確に向かない。一方で、売上成長と利益率改善が続くことを前提に、将来的な事業価値の拡大や株価上昇を狙うスタンスであれば、保有の意味はある。結論として、ラクスルは配当を取りにいく銘柄ではなく、成長投資を続けるプラットフォーム企業としての将来性に賭ける銘柄であり、配当目的単独で選ぶ対象ではない、という判断になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
ラクスルは、現在株価1,910.0円を基準に見ると、安定配当やディフェンシブ性を評価する銘柄というよりも、ネット印刷・ノベルティ・物流・広告といった複数のプラットフォーム事業を束ね、売上成長と利益率改善を同時に狙う成長志向のインターネットサービス銘柄と位置づけられる。営業利益率はまだ一桁台だが、年々改善しており、ROEも10%台から18%台へと上昇している。一方で配当は実質無配であり、インカムよりも将来の企業価値拡大を重視する中長期向きの銘柄である。この前提を踏まえて、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、ネット印刷やノベルティ事業の規模拡大が続くと同時に、物流のハコベルや広告支援のノバセルが収益面で本格的に寄与する展開を想定する。売上成長は年率2桁を維持し、規模拡大に伴う固定費吸収が進むことで営業利益率は8〜10%程度まで上昇する。ROEも20%前後まで高まり、市場では「高成長プラットフォーム企業」としての評価が一段と強まる。この場合、PERは25〜30倍程度が許容されやすくなり、5年後の株価水準は3,000円から3,800円程度が目安となる。配当は期待できないものの、値上がり益を狙う強気寄りのシナリオとなる。
中間のシナリオでは、各事業は拡大を続けるものの、競争環境の影響で利益率の改善は緩やかにとどまるケースを想定する。営業利益率は6〜7%程度、ROEは15%前後で推移し、市場評価も現状水準に近い形で落ち着く。PERは18〜22倍程度に収まり、株価は業績成長に合わせて緩やかに上昇する。この場合、5年後の株価は2,200円から2,700円程度と、現在値から中程度の上昇にとどまる中立的なシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、競争激化や市況悪化により売上成長が鈍化し、利益率改善も停滞する展開を想定する。営業利益率は5〜6%前後にとどまり、ROEも10%台前半まで低下すると、市場の成長期待は後退する。評価は慎重となり、PERは12〜15倍程度まで切り下げられる可能性がある。この場合、5年後の株価は1,200円から1,600円程度まで下押しされるリスクがあり、値動きの厳しい弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価1,910.0円を起点としたラクスルの5年間の値動きは、良い場合で3,000円から3,800円前後、中間で2,200円から2,700円、悪い場合で1,200円から1,600円といったレンジが想定される。配当を目的に保有する銘柄ではなく、売上成長と利益率改善が続くことを前提に、企業価値の拡大による値上がりを狙う中長期投資と相性の良い銘柄と評価できる。
この記事の最終更新日:2025年12月22日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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