株価
artienceとは

artience株式会社(アーティエンス)は、1896年創業の日本の化学メーカーで、旧社名は東洋インキSCホールディングス株式会社である。長年にわたり印刷インキを祖業として発展してきたが、現在では印刷分野にとどまらず、色材・機能材を核としたファインケミカル素材メーカーとして事業構造の高度化と多角化を進めている。
社名のartienceは「art」と「science」を組み合わせた造語であり、科学技術を基盤としつつ、付加価値や創造性を重視する企業姿勢を表している。持株会社体制のもとで事業運営を行っており、グループ全体としては色材・機能材、ポリマー・塗加工、パッケージ、印刷・情報の4つのセグメントを中心に事業を展開している。
色材・機能材分野では、顔料、着色剤、分散体などを基盤に、FPD向けカラーフィルター材料や電子材料用色材を展開している。特にディスプレイ、半導体、EV電池関連向けの分散体は成長分野として位置付けられており、電子・エネルギー分野への展開が同社の中長期的な成長ドライバーとなっている。ポリマー・塗加工分野では、樹脂、粘接着剤、フィルム、塗工材などを幅広く手掛けており、自動車、建材、エレクトロニクス、産業用途向けに高機能材料を供給している。特に接着剤や機能性樹脂は、パッケージ用途や工業用途で安定した需要を持ち、印刷関連事業に代わる収益基盤の一つとなっている。
パッケージ分野では、食品包装用インキや接着剤、ラミネート材料などを展開し、安全性や環境対応を重視した製品開発を進めている。環境負荷低減やリサイクル対応といった社会的要請への対応力も同社の強みの一つである。印刷・情報分野では、新聞・商業印刷用インキを中心に安定した事業基盤を維持しているが、印刷需要の構造変化を背景に、高付加価値製品へのシフトが進められている。
株主構成では凸版印刷が筆頭株主であり、同業のサカタインクスと資本提携関係にある点も特徴である。これにより、業界内での技術連携や事業安定性が一定程度確保されている。一方で、マレーシアのTOYO INK GROUP BHDとは資本・事業上の関係はなく、完全に別会社である。
国内には、埼玉、兵庫、静岡、滋賀、千葉などに製造所や工場を有しており、長年にわたって培われた製造技術と品質管理体制を強みとしている。海外においてもアジアや欧米を中心に事業を展開しており、グローバル市場での売上比率も高い。全体としてartience株式会社は、印刷インキメーカーとしての歴史を土台にしつつ、色材技術や高分子材料技術を横展開することで、ディスプレイ、EV電池、環境対応パッケージといった成長分野へ事業領域を広げている。印刷依存からの脱却と高機能素材企業への転換を進める過渡期にある点が、同社の現在の位置付けといえる。
artience 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株当り配当 DPS(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連22.12 | 315,927 | 6,865 | 7,906 | 9,308 | 171.5 | 90 |
| 連23.12 | 322,122 | 13,372 | 12,880 | 9,737 | 183.7 | 90 |
| 連24.12 | 351,064 | 20,414 | 21,008 | 18,540 | 352.5 | 100 |
| 連25.12予 | 355,000 | 19,700 | 19,000 | 16,000 | 335.4 | 100 |
| 連26.12予 | 380,000 | 24,000 | 24,000 | 17,000 | 356.4 | 100 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2022年12月期 | 4,262 | -5,645 | -8,102 |
| 2023年12月期 | 23,478 | -19,457 | -2,629 |
| 2024年12月期 | 26,964 | -10,172 | -14,975 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率(%) | ROA(%) | ROE(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年12月期 | 4.1 | 2.1 | 3.9 | – | – |
| 2024年12月期 | 5.8 | 3.9 | 7.0 | 13.1(高)/8.3(安) | 0.66 |
| 2025年12月期(予) | 5.5 | 3.3 | 6.1 | 10.99 | – |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の推移を見ると、売上高は2023年12月期が3,221億円、2024年12月期が3,510億円、2025年12月期予想が3,550億円、2026年12月期予想が3,800億円となっており、年ごとの伸びは大きくないものの、安定した増収基調が続いている。急成長ではないが、事業規模は着実に拡大している。営業利益は2023年が133億円、2024年が204億円と大きく改善しており、2025年予想では197億円とやや減少するものの、2026年予想では240億円まで再び伸びる想定になっている。2024年に一段階収益力が引き上がり、その後は高水準を維持しながら推移する構図といえる。
経常利益は2023年128億円、2024年210億円、2025年予想190億円、2026年予想240億円で、営業利益と同様に2024年が一つのピークとなり、いったん調整した後に再成長する見通しである。純利益も2023年97億円、2024年185億円、2025年予想160億円、2026年予想170億円と、利益水準自体は過去と比べて明らかに底上げされている。
収益性を見ると、営業利益率は2023年が4.1%、2024年が5.8%、2025年予想が5.5%であり、改善傾向にはあるものの、素材メーカーとしてはまだ中位レベルにとどまる。ROEは2023年3.9%から2024年7.0%へ上昇し、2025年予想では6.1%とやや低下するが、以前よりは明確に改善している。ROAも2023年2.1%、2024年3.9%、2025年予想3.3%と同様の動きで、資本効率は上向いているものの、なお高水準とは言い切れない。
バリュエーション面では、2024年実績PERは高値平均13.1倍、安値平均8.3倍、PBRは0.6倍台にとどまっている。2025年予想PERは10.9倍であり、利益水準を考えると市場評価はかなり抑えられている印象がある。PBRが1倍を大きく下回っている点からも、資産価値や収益改善の持続性に対して市場が慎重な姿勢を取っていることがうかがえる。
これらの数値だけで判断すると、artienceは高成長を期待して買う銘柄ではなく、収益改善が一巡した後の安定局面にある企業と位置づけられる。一方で、利益水準は明らかに底上げされており、PERやPBRを見る限り割高感はなく、むしろ慎重すぎる評価とも言える。営業利益率やROEが今後もう一段改善していくなら、評価見直しの余地はあるが、現時点では大きな株価上昇を狙うより、業績の安定性と割安感を評価して中長期で保有するタイプの銘柄と判断できる。
配当目的とかどうなの?
まず配当水準を見ると、1株当たり配当は2023年が90円、2024年が100円、2025年予想も100円、2026年予想も100円となっており、減配はなく、段階的に引き上げられた後は据え置きが想定されている。予想配当利回りは2025年12月期、2026年12月期ともに2.85%で、極端に低いわけではないが、高配当株と呼べる水準でもない。
業績とのバランスを見ると、2024年は純利益185億円と利益水準が大きく改善し、その後も2025年予想160億円、2026年予想170億円と高い水準を維持する見通しである。一方で配当額は100円で横ばいのため、配当性向は上昇しすぎておらず、無理のない水準に抑えられていると考えられる。この点では、業績悪化時にすぐ減配に追い込まれるような不安は小さい。
ただし、ROEは2025年予想で6.1%、ROAは3.3%と資本効率はまだ高いとは言えず、企業としては配当を大きく増やすよりも、事業基盤の強化や利益率改善を優先している段階と読み取れる。そのため、今後も急激な増配が続く可能性は高くない。
以上を踏まえると、artienceは配当目的「だけ」で選ぶ銘柄ではない。利回り2.85%は市場平均と比べてやや上程度で、インカム狙いとしての魅力は限定的である。一方で、業績の安定性と配当の持続性は比較的高く、減配リスクを抑えつつ中程度の配当を受け取りたい投資家には一定の適性がある。高配当株を求めるなら物足りないが、割安感のある株価水準で、業績改善を背景に安定配当を受け取りながら中長期保有する目的であれば、配当目的としても「可もなく不可もなく、安定志向向け」と判断できる。
今後の値動き予想!!(5年間)
artience株式会社について、現在株価3,500円前後を基準に見ると、創薬バイオや先端半導体のように研究開発の成否で業績が大きく振れる企業とは性格が異なり、印刷インキを祖業としつつ、パッケージ、機能性材料、電子材料へと事業領域を広げてきた堅実型の素材メーカーと位置づけられる。成熟産業に属する部分は多いものの、FPD向け色材やEV電池向け分散体といった成長分野を抱えており、業績は緩やかだが着実に底上げされている構造になっている。
直近の数値を見ると、2024年に営業利益・純利益が大きく改善し、2025年はいったん調整、2026年に再び増益という流れが想定されている。営業利益率は4%台から5%台後半へと改善してきたが、依然として高収益企業と呼べる水準ではなく、ROEも6%前後と資本効率は中低位にとどまっている。一方で、PERは10倍前後、PBRは1倍を大きく下回る水準にあり、成長力に対して市場評価はかなり慎重である。この前提を踏まえ、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、FPD向け色材やEV電池関連分散体が想定以上に拡大し、機能性材料の利益貢献が明確になる。営業利益率は6%台まで改善し、ROEも8〜9%程度へ上昇する。印刷依存からの脱却が評価され、市場からは「成熟素材だが構造改善が進む再評価銘柄」として見直される。この場合、PERは12〜14倍程度まで切り上がり、配当を受け取りながら株価も段階的に上昇し、5年後には5,000円から6,500円程度を目指す展開が想定される。急成長ではないが、評価修正を伴う上昇シナリオである。
中間のシナリオでは、業績は会社想定に近いペースで推移し、営業利益率は5〜6%台、ROEは6〜7%前後で安定する。成長分野は寄与するものの、全社を押し上げるほどのインパクトには至らない。評価面ではPER10〜12倍、PBR0.8倍前後に落ち着き、市場での位置づけは「割安感のある安定素材株」にとどまる。この場合、株価は大きなトレンドは描かず、配当を受け取りながら緩やかに水準を切り上げ、5年後の株価は4,200円から4,800円程度に収れんする中立的なシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、印刷・パッケージ分野の需要鈍化や原材料コストの影響が続き、成長分野の寄与も限定的にとどまる。営業利益率は5%前後で頭打ちとなり、ROEも6%程度から上がらない。この場合、市場は構造改善ストーリーを評価せず、PERは8〜9倍程度まで低下する。配当利回りは一定の下支えになるものの、株価の上値は重く、5年後でも3,000円から3,500円程度にとどまる、もしくは一時的に3,000円割れを試す弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価3,500円を起点としたartienceの5年間の値動きは、良い場合で5,000円から6,500円前後、中間で4,200円から4,800円、悪い場合で3,000円から3,500円程度といったレンジが想定される。サカタインクス同様、派手な成長株ではないが、利益水準の底上げと割安な評価を背景に、配当を受け取りながら中長期でじっくりリターンを積み上げていく投資と相性の良い銘柄、という評価になる。
この記事の最終更新日:2025年12月26日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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