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ジャストシステムとは

株式会社ジャストシステムは、日本語処理技術を中核とする老舗ソフトウェアメーカーであり、現在は教育事業を主軸に据えた高収益企業として位置づけられている。日本語入力システムATOKや日本語ワープロソフト一太郎で広く知られるが、近年は小中学生向けタブレット通信教育スマイルゼミが業績を牽引する主力事業となっている。2009年以降はキーエンスが筆頭株主となっており、資本関係・経営スタイルの面から「キーエンス系企業」として語られることが多い。JPX日経インデックス400の構成銘柄でもある。
同社は1979年に浮川和宣・初子夫妻によって創業された。創業当初は徳島を拠点とし、和宣が営業、初子がエンジニアとして開発を担う夫婦二人三脚の体制でスタートしている。1980年代に日本語ワープロソフト市場へ参入し、1985年に発売した一太郎が大ヒットしたことで、一躍国内有数のソフトウェアメーカーへと成長した。日本語処理に対するこだわりは強く、かな漢字変換ソフトATOKを通じて、日本語入力の精度や表記の統一性を高める取り組みを早くから進めてきた点が同社の技術的特徴である。
1990年代から2000年代前半にかけては、日本語処理技術に加え、独自ウィンドウシステムやXML関連技術など、基礎研究・先端技術への投資を積極的に行った。一時はLinux向けソフトや海外拠点の設立なども進めたが、XML文書編集システムxfyの販売不振などにより、2006年以降は業績が悪化し、複数期にわたって最終赤字を計上する厳しい局面を迎えた。この時期は研究開発投資が先行し、収益化が追いつかなかったことが財務悪化の主因となっている。
転機となったのが2009年のキーエンスとの資本・業務提携である。キーエンスが発行済株式の約44%を取得し筆頭株主となったことで、経営体制は大きく刷新され、創業者は経営の第一線から退いた。以降は、選択と集中を強め、採算性と収益性を重視した経営へと舵を切ることになる。この方針転換の中で本格的に育成されたのが教育事業である。
教育事業は、もともと官公庁や教育機関向けソフトに強みを持っていた同社の延長線上にある分野であり、2001年頃から段階的に参入してきた。2012年に発表されたスマイルゼミは、専用タブレットを用いた通信教育という点で先進性が高く、紙教材中心だった従来の通信教育とは一線を画した。学習内容がタブレット内で完結し、書く学習を重視した設計や、保護者が学習状況を把握できる見守り機能などが評価され、会員数は順調に拡大した。後発として大手教育会社が類似サービスを展開するようになったが、先行優位性と教材品質を背景に、現在も主要プレイヤーの一角を占めている。
一方、従来のソフトウェア事業では、ATOKを中心とした日本語入力関連サービスが継続収益を生んでいる。ATOKはWindowsやMacに加え、スマートフォン向けにも展開され、買い切り型からサブスクリプション型へとビジネスモデルを転換している。ただし、日本語ワープロ市場全体は縮小傾向にあり、官公庁や企業ではMicrosoft Wordが事実上の標準となっているため、一太郎を中心としたパッケージソフトの成長余地は限定的である。このため、ソフトウェア事業は安定収益源ではあるものの、会社全体の成長ドライバーという位置づけではなくなっている。
現在のジャストシステムは、スマイルゼミを核とする教育事業によって高い利益率と安定したキャッシュフローを確保しつつ、ATOKなどの技術資産を活かしてブランド価値を維持する構造となっている。研究開発力というよりも、サービスの完成度や継続課金モデルによる安定性を重視する点は、キーエンス系企業としての色合いが色濃く表れている。派手な成長や事業多角化を志向する企業ではないが、明確な柱を持ち、高収益体質を維持する堅実なソフトウェア・教育サービス企業としての評価が定着している。
ジャストシステム 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(円) | 一株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連20.3 | 36,503 | 13,084 | 13,106 | 9,287 | 144.6 | 10 |
| 連21.3 | 41,174 | 15,069 | 15,202 | 10,957 | 170.6 | 13 |
| 連22.3 | 41,676 | 17,166 | 17,316 | 12,165 | 189.4 | 16 |
| 連23.3 | 41,950 | 19,034 | 19,217 | 13,401 | 208.7 | 18 |
| 連24.3 | 40,985 | 17,041 | 17,384 | 11,636 | 181.2 | 20 |
| 連25.3 | 44,551 | 18,034 | 18,159 | 12,327 | 191.9 | 22 |
| 連26.3予 | 51,000 | 21,500 | 21,500 | 14,500 | 225.8 | 24〜26 |
| 連27.3予 | 54,000 | 22,100 | 22,100 | 14,900 | 232.0 | 26〜28 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(百万円) | 営業キャッシュフロー | 投資キャッシュフロー | 財務キャッシュフロー |
|---|---|---|---|
| 2023.3 | 16,805 | -3,852 | -1,027 |
| 2024.3 | 13,050 | -8,561 | -1,283 |
| 2025.3 | 15,022 | -27,132 | -1,283 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率(%) | ROA(%) | ROE(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.3 | 45.3 | 13.4 | 16.0 | – | – |
| 2024.3 | 41.5 | 10.6 | 12.3 | – | – |
| 2025.3 | 40.4 | 10.1 | 11.7 | 13.2〜25.5 | 2.92 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
ジャストシステムを、直近の業績と収益性指標から見ると、事業の安定性と高収益性は依然として非常に高い水準にある。
連24.3期から連26.3期予想にかけて、営業利益は170億円→180億円→215億円、純利益は116億円→123億円→145億円と着実な増益基調が続いており、売上規模の拡大に伴って利益水準も段階的に切り上がっている。特に連26.3期予想では、営業利益・経常利益ともに215億円と、利益成長が再加速する見通しになっている点はポジティブである。
一方で、収益性のピークアウト傾向も数字には明確に表れている。営業利益率は2023年の45.3%から2024年41.5%、2025年40.4%へと低下しており、依然40%超という非常に高い水準ではあるものの、緩やかな低下トレンドに入っていることは否定できない。同様に、ROEも16.0%→12.3%→11.7%、ROAも13.4%→10.6%→10.1%と下落しており、資本効率は明確に鈍化している。
バリュエーション面では、2025年実績ベースのPERが13.2倍〜25.5倍とレンジが広く、PBRは2.9倍となっている。ROEが11%台まで低下していることを踏まえると、PBR2倍台後半は決して割安とは言えず、むしろ高収益プレミアムを織り込んだ評価水準といえる。PERについても、下限水準であれば妥当感がある一方、高値平均ベースでは利益成長率と比較して割高に映りやすい。
以上を踏まえた投資判断としては、ジャストシステムは事業の質、利益水準、キャッシュ創出力が極めて高く、業績の安定性も強いが、収益性指標はピークアウトしており、株価にはすでに一定の期待が織り込まれている局面と判断される。このため、安値圏では中長期保有に耐える優良銘柄だが、PERが高値レンジに近い水準では積極的に買い上がる局面ではなく、押し目待ち・保有継続向きの銘柄という評価が妥当である。ジャストシステムは「高収益・低リスクだが、成長余地は限定的」という性格が数字から明確に読み取れるため、高配当や急成長を狙う投資よりも、安定利益を評価した中長期のコア保有向け銘柄として位置づけられる。
配当目的とかどうなの?
ジャストシステムを配当目的で見ると、正直なところ魅力はかなり薄い。連26.3期の予想配当利回りは0.46%、連27.3期でも0.50%と、いずれも1%に届かず、一般的に配当目的とされる水準からは大きく下回っている。高配当株として意識される3%前後と比べると、同じ資金を投じたときのインカムリターンは圧倒的に小さい。
配当額自体は毎期少しずつ増えているが、株価水準が高く、利益の多くを内部に留保する経営スタイルのため、利回りはほとんど上がらない構造になっている。営業利益率は40%前後と非常に高く、ROEやROAも二桁を維持しているが、その稼ぐ力が直接的に配当として還元されるわけではない。むしろ、高収益事業を回し続けることで企業価値を維持し、その結果として株価を支えるという考え方が強い企業といえる。
このため、生活費補填や定期的なキャッシュフロー確保を目的に配当株を探している投資家にとって、ジャストシステムは明確にミスマッチである。利回りが低いため、長期保有しても配当収入の実感は乏しく、同じ安定性を求めるのであれば、商社や通信、メガバンクなどの方が効率ははるかに良い。
一方で、配当を主目的にしないのであれば、見方は変わってくる。業績のブレは小さく、教育事業を中心としたストック型収益モデルを持ち、利益水準も高い。配当は少額ながら毎年出続ける可能性が高く、値崩れしにくい安定株としての性格は強い。配当はあくまでおまけで、保有の主眼は企業の安定性や収益構造に置くべき銘柄である。
結局のところ、ジャストシステムは「配当を取りに行く株」ではなく、「高収益で安定した事業を持つ企業を保有する株」であり、配当目的で選ぶと期待外れになりやすい。配当利回りを重視する投資家にとっては選択肢から外れるが、安定企業を長期で持ち、その過程で少額の配当を受け取る程度で満足できるなら、成立する銘柄だといえる。
今後の値動き予想!!(5年間)
ジャストシステムについて、現在株価5,130円前後を基準に見ると、創薬バイオや新興ITのように技術トレンドや研究開発投資の成否で業績が大きく振れる企業とは性格が大きく異なり、教育事業と日本語ソフトというニッチ分野に強みを持つ、安定収益型のソフトウェア企業と位置づけられる。日本語入力システムATOKや業務用ソフトを長年手がけてきた技術基盤を持ちながら、現在はタブレット通信教育「スマイルゼミ」を収益の柱とし、ストック型に近いビジネスモデルを構築している点が特徴である。キーエンスが筆頭株主という資本背景もあり、成長よりも収益性と安定性を重視した経営スタイルが色濃く表れている。この前提を踏まえ、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、スマイルゼミの会員数が想定以上に堅調に伸び、売上・利益ともに中期的な成長が続くケースを想定する。営業利益率は40%前後という極めて高い水準を維持し、ROEも11%台で下げ止まる。市場からは「日本株でも希少な超高利益率・安定教育ビジネス」としての評価が再確認され、バリュエーションはPER20倍前後まで許容される。この場合、株価は急騰こそしないものの、利益成長に沿って緩やかに水準を切り上げ、5年後には7,000円から8,000円程度を目指す展開が想定される。値動きは穏やかだが、右肩上がりが続く強気シナリオである。
中間のシナリオでは、業績は会社計画に近いペースで推移し、スマイルゼミの成長は続くものの、利益率は徐々に低下し、営業利益率は40%前後から30%台後半へと落ち着く。ROEも10%前後で安定し、高収益ではあるが成長企業としての評価はやや後退する。この場合、市場の評価はPER15〜18倍程度に収れんし、株価は大きなトレンドを描かず、上下を繰り返しながら緩やかに水準を切り上げる。5年後の株価は5,500円から6,300円程度となり、値上がり益は限定的だが、安定感のある推移となる中立的なシナリオである。
悪い場合のシナリオでは、少子化の影響や教育市場の競争激化により、スマイルゼミの成長が想定以上に鈍化するケースを想定する。売上は維持されるものの、コスト増や価格競争により営業利益率は30%台前半まで低下し、ROEも一桁台に近づく。事業の安定性自体は崩れないが、「高収益だが成長しない企業」という見方が強まり、PERは12〜14倍程度まで切り下がる可能性がある。この場合、株価は調整局面を迎え、5年後には3,800円から4,500円程度にとどまる弱気シナリオが想定される。ただし、財務体質とキャッシュフローの強さから、急落や長期低迷にはなりにくいと考えられる。
総合すると、現在株価5,130円前後を起点としたジャストシステムの5年間の値動きは、良い場合で7,000円から8,000円程度、中間で5,500円から6,300円、悪い場合でも3,800円から4,500円程度というレンジが想定される。急成長や株価倍増を狙うタイプの銘柄ではないが、営業利益率40%前後という異常な高収益と、教育事業を軸とした安定収益構造を背景に、値下がりリスクを抑えながら中長期で保有する投資と相性の良い銘柄、という評価になる。
この記事の最終更新日:2025年12月27日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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