株価
電通総研とは

電通総研は、東京都港区に本社を置く電通グループの中核IT・コンサルティング企業であり、システムインテグレーション、コンサルティング、シンクタンクという3つの機能を一体で提供する点を最大の特徴としている。2024年1月1日にグループ再編に伴い、旧社名である電通国際情報サービス(ISID)から現社名へ変更しており、長年培ってきたブランドと実績を引き継ぎつつ、新たなフェーズに入った企業と位置づけられる。JPX日経インデックス400の構成銘柄にも選定されており、資本市場からも一定の評価を受けている。
同社はもともと電通と外資系企業との合弁会社として設立され、コンピュータネットワークを活用した遠隔情報処理サービスを主業務としてスタートした。その後、日本企業のIT化や業務高度化の進展とともに事業領域を拡大し、現在では単なる受託開発型のシステム会社ではなく、経営課題の整理から業務改革、IT戦略立案、システム構築、運用・保守までを一気通貫で担う存在へと進化している。
事業構造を見ると、電通グループ向けの案件が協業案件を含めて依然として大きな比重を占めている点が特徴である。電通グループという巨大な顧客基盤を持つことは、安定した受注と実績の積み上げにつながる一方で、依存度の高さがリスクとして見られることもある。ただし、実際にはグループ外向けの案件も着実に拡大しており、特に製造業や大手企業向けの高付加価値案件を中心に顧客基盤は広がっている。
強みとして際立つのが、製造業向けの設計・開発支援分野である。CAE、PLM、デジタルエンジニアリングといった領域において長年の実績と専門人材を有しており、自動車、電機、素材メーカーなど、研究開発や設計プロセスの高度化を求める企業から高い評価を受けている。この分野は単価が高く、顧客との関係も長期化しやすいため、同社の収益性と安定性を支える重要な柱となっている。
一方で、近年特に注目されているのが、人事管理や会計といった基幹業務分野における自社開発ソフトウェアの成長である。これらは従来の受託開発中心のビジネスモデルとは異なり、ライセンスや保守、クラウド提供を通じて継続収益を生みやすい。自社製品が育つことで、労働集約型ビジネスからの脱却が進み、利益率の改善や収益の安定化につながっている点は、中長期的に見て大きな意味を持つ。
電通総研グループ全体の事業コンセプトは、課題調査や提言を行うシンクタンク機能と、コンサルティングによる戦略立案、さらにシステムインテグレーションによる実装を循環させる点にある。単にITを導入するのではなく、社会や企業の進化を前提とした構想を描き、それをテクノロジーで現実の仕組みとして実装することを目指している。この点は、システムインテグレーターの枠組みを超えた存在としての差別化要因となっている。
拠点展開も特徴的で、本社のほかに関西、中部、豊田、広島といった製造業集積地や主要都市に支社を構えている。特に豊田支社の存在は、自動車産業との強い結びつきを象徴しており、地域密着型で高度な技術支援を行う体制が整えられている。グループ会社としては、電通総研IT、エステック、電通総研アシストなどを抱え、開発力、運用力、人材供給力を補完し合う構造となっている。
財務面では無借金経営を維持しており、財務体質は非常に健全である。大型のM&Aや過度な投資に依存せず、内部での人材育成とソリューション開発を重視する姿勢が、安定したバランスシートにつながっている。人材の質と知見の深さが競争力の源泉である同社にとって、財務の安定性は長期戦略を支える重要な基盤となっている。
総じて電通総研は、電通グループという強力な後ろ盾を持ちながらも、製造業向け設計開発支援や基幹業務ソフトの自社製品育成を通じて、独自のポジションを確立してきた企業である。高付加価値領域に特化し、コンサルティングから実装までを担える総合力と、無借金の健全な財務体質を併せ持つ点が特徴であり、短期的な流行に左右されにくい、息の長い成長が期待されるタイプのIT・コンサルティング企業といえる。
電通総研 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株当り配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 22.12 | 129,054 | 18,590 | 18,354 | 12,598 | 193.5 | 78 |
| 23.12 | 142,608 | 21,028 | 21,244 | 14,663 | 225.4 | 100 |
| 24.12 | 152,642 | 21,039 | 21,093 | 15,117 | 232.3 | 108 |
| 25.12予 | 165,000 | 23,000 | 23,500 | 16,200 | 249.0 | 116 |
| 26.12予 | 175,000 | 24,000 | 24,500 | 16,900 | 259.8 | 116〜121 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 22.12 | 11,914 | -3,132 | -5,419 |
| 23.12 | 13,046 | -2,359 | -6,702 |
| 24.12 | 23,721 | -11,886 | -7,982 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率(%) | ROE(%) | ROA(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 23.12 | 14.7 | 17.6 | 10.9 | ― | ― |
| 24.12 | 13.7 | 16.5 | 10.2 |
高値平均 26.3 安値平均 17.6 |
5.24 |
| 25.12予 | 13.9 | 17.7 | 10.9 | 30.9 | ― |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績規模と推移を見ると、連23.12の売上高は約1,426億円、営業利益は約210億円、経常利益は約212億円、純利益は約146億円である。連24.12では売上高が約1,526億円へ拡大した一方、営業利益は約210億円、経常利益は約210億円とほぼ横ばいで、純利益は約151億円と小幅な増加にとどまっている。売上は伸びているが、利益成長が一時的に鈍化している点がこの年の特徴といえる。
連25.12予では売上高が約1,650億円、営業利益が約230億円、経常利益が約235億円、純利益が約162億円と再び増益基調に戻る見通しであり、連26.12予でも売上高約1,750億円、営業利益約240億円、経常利益約245億円、純利益約169億円と、安定した拡大が続く想定になっている。全体としては、急成長ではないが、規模拡大とともに利益も積み上がっていく堅実な成長パターンである。
次に収益性と効率性を見る。営業利益率は2023年が14.7%、2024年が13.7%、2025年が13.9%で、やや低下した後に横ばいという推移である。IT・SI業界としては高水準だが、年々改善しているわけではなく、利益率の伸びは落ち着いている。一方でROEは2023年17.6%、2024年16.5%、2025年17.7%、ROAは2023年10.9%、2024年10.2%、2025年10.9%と、いずれも非常に高い水準を維持している。利益率の絶対水準よりも、資本効率と資産効率の高さによって収益力を確保している企業であることが、これらの数字からはっきり分かる。
次に市場評価を見ると、2024年の実績PERは高値平均で26.3倍、安値平均で17.6倍、実績PBRは5.2倍となっている。さらに2025年予想PERは30.9倍と、評価は一段と高い水準にある。ROEが17%前後と非常に高いことを考えれば高評価は妥当ともいえるが、PER30倍前後、PBR5倍超という水準は、将来の成長や高収益性がかなり織り込まれている状態であることも意味している。
これらを総合すると、電通総研は売上・利益ともに安定して拡大し、ROE・ROAが国内IT企業の中でもトップクラスという点で、事業の質は非常に高い。一方で、営業利益率が大きく上昇しているわけではなく、成長はあくまで堅実ペースであるにもかかわらず、PERやPBRはかなり高い水準にある。数値だけで判断するなら、企業としての実力は申し分ないが、株価はすでにその優秀さを十分に、あるいはやや先取りして織り込んでいる段階といえる。
投資判断としては、すでに保有している場合には、高い資本効率と安定成長を背景に中長期で保有する合理性はある。一方、新規で買いに行く場合には、業績が順調でも株価の上値余地は限定されやすく、調整局面や評価が一段落した局面を待つ姿勢が妥当になる。数値だけを見る限り、電通総研は「非常に優良だが割高ゾーンにある銘柄」という位置づけになる。
配当目的とかどうなの?
まず配当利回りを見ると連25.12予想が1.51%、連26.12予想も1.51%となっており、日本株全体の平均や高配当株と比べると明確に低い水準にある。インカムゲインを主目的とする投資では利回りそのものに物足りなさがあり、配当収入を安定的に積み上げたい投資家向きとは言いにくい。
一方で、利益水準そのものは高く純利益は150億円超の規模で安定しており、ROEは17%前後、ROAも10%前後と非常に高い。配当を出せない企業ではなくむしろ利益余力は大きいがその利益を高配当として還元するよりも、成長投資や内部留保を重視している姿勢が数字から読み取れる。その結果として、配当利回りは1%台に抑えられている。
評価面を見ると、PERは25~30倍前後、PBRは5倍超とかなり高い水準にあり株価は配当利回りではなく、成長性や資本効率の高さを評価して形成されている。仮に配当が維持・微増されたとしても株価が高い水準にある限り、利回りが大きく上昇する余地は限定的である。
以上を踏まえると、電通総研は配当を主目的に保有する銘柄ではない。配当はあくまで副次的なリターンであり、主な投資リターンは業績拡大と高いROEを背景とした株価の成長に置かれている。すでに保有している場合は、配当はおまけとして受け取りつつ中長期の企業価値向上を期待する位置づけになる。
結論として、配当目的だけで見ると魅力は弱い。インカム狙いよりも、成長性や資本効率の高さに賭けるキャピタルゲイン重視の銘柄であり、配当重視のポートフォリオに組み込む優先度は低いと判断できる。
今後の値動き予想!!(5年間)
電通総研の現在値は7,680円である。電通グループに属するITコンサルティング・システムインテグレーターとして基幹業務、製造業向け設計開発支援、コンサルティング、シンクタンク機能を融合した高付加価値ビジネスを展開している。営業利益率は14%前後とSI業界では高水準で、ROEは17%前後、ROAは10%前後と資本効率・資産効率の高さが際立っている。一方で、株価はすでに高い評価を受けており、PERは20倍台後半から30倍前後、PBRも5倍超とプレミアムが乗った水準にある。この状況を踏まえ、5年間の株価について良い場合・中間・悪い場合のそれぞれのレンジを想定する。
良い場合のシナリオでは、企業のDX投資が中長期的に拡大し電通総研が得意とする基幹システム、製造業向け設計・開発支援、自社ソフトウェア分野での受注が想定以上に伸びる展開を想定する。電通グループ向けに加え、グループ外案件の比重が高まり高収益案件の積み上げによって売上・利益成長が加速するケースである。営業利益率は13〜14%台を維持しつつ、ROEも高水準を保つことで成長企業としての評価がさらに強まる。この場合、PERは30倍台後半まで許容され利益成長と評価の維持が重なる形で株価は上昇し、5年後の株価は11,000円〜14,000円程度まで上昇する余地があると考えられる。
中間のシナリオでは、業績は予想どおり堅調に推移するものの成長はあくまで安定的なペースにとどまり、市場全体の評価も落ち着いた水準に収れんする展開を想定する。売上・利益は着実に伸び、ROE・ROAの高さは維持されるが評価倍率はPER25倍前後で横ばいとなる。この場合、株価は利益成長に応じて緩やかに上昇し、5年後の株価は8,500円〜10,000円前後が中心レンジになる可能性が高い。値動きは調整を挟みながらも、中長期ではプラス基調が続くイメージである。
悪い場合のシナリオでは、国内外のIT投資が減速し、価格競争の激化や受注環境の悪化によって利益成長が鈍化する展開を想定する。営業利益率がやや低下しROEも低下傾向に入る場合、市場は高評価を見直す動きに入る。この場合、PERは20倍台前半まで低下し、PBRも圧縮される可能性がある。業績の大幅悪化までは至らないものの、評価調整が進むことで株価は5,000円〜6,500円程度まで下落するリスクがある。ただし、無借金の健全な財務体質と安定したキャッシュフロー、高い付加価値ビジネスが下値を支えるため構造的な急落にはなりにくい。
総合すると、電通総研は5年間の中長期で見れば高い資本効率と安定した収益基盤を背景に株価の下支えは強い一方すでに高いバリュエーションを織り込んでいるため、値動きは評価とのせめぎ合いになりやすい銘柄といえる。良い場合には11,000円超〜14,000円水準、中間では8,500円〜10,000円前後、悪い場合でも5,000円台後半程度までのレンジで推移する可能性が高いと考えられる。配当利回りは1%台と低く、主なリターン源は配当ではなく業績成長と企業価値向上による株価上昇である。成長性と評価水準を理解したうえで、中長期視点で向き合うタイプの銘柄と位置づけられる。
この記事の最終更新日:2025年12月28日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

コメントを残す