株価
コーセーとは

コーセーは東京都中央区日本橋に本社を置く日本を代表する総合化粧品メーカーである。化粧品の製造・販売を中核事業とし、スキンケア、メイクアップ、ヘアケア、ボディケアなど幅広い分野で事業を展開している。日本の化粧品大手の一角として百貨店や専門店での対面販売を原点にしながら、現在ではドラッグストア、コンビニ、ECといった多様な販売チャネルを持ち、価格帯も高級品から普及価格帯まで幅広くカバーしている点が特徴である。
企業メッセージとして掲げる「美しい知恵 人へ、地球へ」は、単に美を追求するだけでなく美にまつわる知恵や技術を人々の暮らしや社会、さらには地球環境の未来に役立てていくという姿勢を示している。行動憲章は創業者である小林孝三郎の座右の銘「正しきことに従う心」であり、これは創業以来の企業精神の根幹としてコンプライアンス経営や企業倫理を重視する姿勢の基盤となっている。
コーセーは創業当初から美容部員による店舗での対面販売を重視し、「良い商品を、良いお店で、きちんと売る」という考え方を大切にしてきた企業である。こうした販売姿勢はブランド価値の維持や顧客との信頼関係構築に寄与しており、現在でも百貨店向けの高級ブランド事業では重要な競争力となっている。一方で、時代の変化に合わせて販売チャネルを拡大し、量販店やコンビニ向け商品、通販・ECなどにも対応することで安定した売上基盤を築いている。
製品開発の面では化粧品業界において先駆的な役割を果たしてきた。業界初の美容液やパウダーファンデーションのカテゴリーを確立したほか、夏用リキッドファンデーションや水あり・水なし両用の2ウェイファンデーションを開発するなど、ファンデーションとスキンケア分野を中心に高い技術力を培ってきた。こうした研究開発力は現在の主力ブランド群の競争力の源泉となっている。
海外展開にも早くから積極的で1960年代後半には中国、香港、韓国などアジア市場へ進出している。特に中国市場ではインバウンド需要の変化や関税政策の影響を受けながらも、現地向けの商品設計や価格戦略の見直し、リブランディングを進めることで安定した売上基盤を再構築してきた。主力ブランドである雪肌精は中国市場に合わせた容量や単価の調整を行い、現地消費者に受け入れられる形へ進化している。
中長期的な経営戦略としては、新規事業と海外事業拡大を軸とする成長ドライバーへの注力、セレクティブブランド事業とコンシューマーブランド事業を柱とした基幹ブランドの収益拡大、コスト競争力や保有資産の効率向上による経営基盤の強化という三つの基本戦略を掲げている。高級スキンケアに強みを持つアルビオンや2014年に買収した米国のタルト社は子会社として業績に貢献しており、グローバルブランドポートフォリオの重要な一角を担っている。
ブランド戦略の面ではコスメデコルテ、雪肌精、ジル・スチュアートなど、明確な世界観を持つ多数のブランドを展開している点が特徴である。特にジル・スチュアートでは、コーセーの社名を前面に出さないアウト・オブ・ブランド戦略を採用し、独立したブランド価値の構築に成功してきた。こうした多層的なブランド展開により、年齢層や購買チャネルの異なる顧客を幅広く取り込んでいる。
また、コーセーは健康経営や働き方改革にも積極的に取り組んでおり、経済産業省から健康経営優良法人として複数年にわたり認定を受けている。これは人材を重要な経営資源と位置づけ、長期的な企業価値向上を目指す姿勢の表れとも言える。
総合するとコーセーは、強い研究開発力と歴史あるブランド資産、多様な販売チャネル、そして早期からの海外展開を背景に日本の化粧品業界を代表する企業としての地位を確立している。一方で、市場環境や海外動向の影響を受けやすい側面も併せ持っており、安定性と変動性の両面を内包しながら長期的な成長を目指す総合化粧品メーカーである。
コーセー 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高 (百万円) |
営業利益 (百万円) |
経常利益 (百万円) |
純利益 (百万円) |
一株益 EPS(円) |
一株当り配当 DPS(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連22.12 | 289,136 | 22,120 | 28,394 | 18,771 | 329.0 | 140 |
| 連23.12 | 300,406 | 15,985 | 20,252 | 11,663 | 204.4 | 140 |
| 連24.12 | 322,758 | 17,364 | 21,646 | 7,510 | 131.6 | 140 |
| 連25.12予 | 336,000 | 20,000 | 20,700 | 13,800 | 241.8 | 140 |
| 連26.12予 | 350,000 | 21,500 | 22,000 | 15,000 | 261.5 | 140 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF (百万円) |
投資CF (百万円) |
財務CF (百万円) |
|---|---|---|---|
| 2022.12 | 20,261 | -6,311 | -7,313 |
| 2023.12 | 30,443 | -11,227 | -9,677 |
| 2024.12 | 18,379 | -8,932 | -8,684 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 (%) |
ROE (%) |
ROA (%) |
PER (倍) |
PBR (倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 5.3 | 4.3 | 3.1 | – | – |
| 2024 | 5.3 | 2.7 | 1.9 | 72.1(高) 42.5(安) |
1.10 |
| 2025予 | 5.9 | 5.0 | 3.6 | 23.04 | – |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の大枠を見ると売上高は2023年の3,004億円から2024年3,227億円、2025年予想3,360億円、2026年予想3,500億円と年を追うごとに着実に拡大している。トップラインだけを見れば、国内外で一定の販売力を維持できており事業基盤そのものが大きく崩れている印象はない。一方で、問題は利益の質と効率性にある。
営業利益は2023年159億円、2024年173億円と微増したものの、営業利益率は5.3%で横ばいにとどまっている。2025年予想では営業利益200億円、営業利益率5.9%とわずかな改善が見込まれているが、それでも化粧品大手としては低水準であり高いブランド力や研究開発力を十分に利益へ転換できているとは言い難い。売上規模に対して利益率が伸びない構造が続いている点は投資判断上の大きな重石となる。
純利益に目を向けると2023年116億円から2024年は75億円へと大きく落ち込んでおり、利益の振れ幅が大きい企業であることがはっきり表れている。2025年予想では138億円まで回復する見通しとなっているが、これは2024年が底であったことを前提とした反発であり力強い成長というよりは正常化に近い。2026年予想でも150億円と売上規模の拡大に比べると利益水準は控えめである。
資本効率の面ではさらに厳しい数字が並ぶ。ROEは2023年4.3%、2024年2.7%と低下し、ROAも3.1%から1.9%まで落ち込んでいる。これは、株主資本や総資産を使って十分な利益を生み出せていない状態を示しており企業規模の割に収益効率が低いことを意味する。2025年予想ではROE5.0%、ROA3.6%と回復が見込まれているもののそれでも「改善途上」という水準であり、資本効率の高さを評価して買える段階にはない。
評価面を見ると2024年は利益水準が低いにもかかわらず、実績PERが高値平均72.1倍、安値平均でも42.5倍と極端に高い水準で取引されていた。これは業績実態というよりもブランド力や回復期待が先行した評価だったと言える。2025年予想PERは23.0倍まで低下しており、数字上は一気に割高感が薄れているがこれは利益回復を前提にしたものであり、実際の収益性が大きく改善した結果ではない点には注意が必要である。PBRは1.1倍と一見すると割安にも見えるが、ROEが5%前後にとどまる企業としては妥当〜やや高めとも解釈できる。
これらを総合するとコーセーは売上規模とブランド資産は非常に大きいものの、営業利益率、ROE、ROAといった本質的な収益力・効率性の指標が低く、数字だけを見る限り「稼ぐ力」に課題を抱えている企業である。2025年以降は業績が底打ちし回復に向かう想定ではあるが、それはあくまで正常化の範囲であり高成長や高収益フェーズに入ることを示す数字ではない。
配当目的とかどうなの?
コーセーを配当目的という観点で見ると結論としては「配当を主目的に据える銘柄ではないが、最低限の配当は見込める中立的な位置づけ」となる。予想配当利回りは2025年、2026年ともに2.66%であり、日本株全体で見れば平均的な水準にある。高配当株と呼べるほどの水準ではなく、利回りの魅力だけで投資判断を下す銘柄ではない。一方で、極端に低いわけでもなく、株主還元を完全に軽視している企業でもないという評価になる。
業績との関係を見ると2024年は純利益が75億円まで落ち込み、ROE2.7%、ROA1.9%と資本効率がかなり低い水準にあった。その中でも配当は140円を維持しており、この時点では配当性向は相対的に高く利益に余裕がある状態とは言いにくい。つまり、配当が業績成長によって自然に支えられているというよりも、企業側が意識的に配当水準を維持している局面だったと読み取れる。
2025年以降は純利益が138億円、2026年は150億円まで回復する予想となっており、この前提が実現すれば配当維持の負担感は軽くなる。ただし、営業利益率は6%弱、ROEも5%前後にとどまる見通しであり、高収益企業に見られるような「増配余地が大きい配当銘柄」とは言えない。今後も配当は増えるというより、横ばいを続ける可能性が高い。
また、過去に実績PERが40倍超から70倍超まで買われた局面があるように、株価は業績以上に期待先行で動きやすい傾向がある。この点は配当目的で長期保有する際には注意が必要で、配当収入は一定でも株価変動による評価損益の振れは大きくなりやすい。
総合すると、コーセーは利回り2.66%という数字だけを見て配当目的で積極的に買う銘柄ではなく、配当はあくまで副次的な要素にとどまる。業績回復や評価修正による株価上昇を狙いつつ、その過程で配当を受け取るという位置づけが現実的であり安定配当を最優先する投資スタイルにはあまり向かない、という判断になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
コーセーの現在値は5,240.0円である。同社は国内外で強いブランド資産と販売網を持つ一方、直近の数値を見る限りでは営業利益率、ROE、ROAはいずれも低水準にあり収益効率の改善が株価の方向性を大きく左右する局面にある。2024年にはPERが極端に高水準まで買われた経緯があり、現在の株価は「業績正常化」をある程度織り込んだ位置にあると考えられる。こうした前提を踏まえ、現在値5,240円を起点に今後5年間の株価の値動きを良い場合・中間・悪い場合の3つのシナリオで整理する。
良い場合のシナリオでは、国内事業が安定成長を維持しつつ海外事業、とくにアジアや米国ブランドの収益性が改善する展開を想定する。営業利益率が6%台後半から7%程度まで上昇し、ROEも8%前後まで回復することで市場からは「収益力が戻った大手化粧品会社」として評価される。この場合、2024年のような極端な高PERには戻らないものの、PER25倍前後が許容され利益成長と評価の安定が両立する形となる。5年後の株価水準は6,500円〜7,500円程度まで上昇する余地があり、緩やかながらも右肩上がりの値動きが期待される。
中間のシナリオでは、売上は拡大を続けるものの利益率の改善は限定的にとどまる展開を想定する。営業利益率は6%前後、ROEは5%台で安定し、業績は回復基調だが高収益企業と呼べる水準には届かない。この場合、市場評価は落ち着いたものとなり、PERは20〜23倍程度に収れんしやすい。株価は現在値近辺を中心に上下し、5年間では4,800円〜6,000円程度のレンジで推移する可能性が高い。配当を受け取りながらも、値上がり益は限定的となる現実的なシナリオである。
悪い場合のシナリオでは、原材料費や販管費の上昇が続き、利益率の改善が進まない状況を想定する。海外事業の収益貢献も想定ほど進まず、ROEは5%を下回る水準にとどまる。この場合、市場は成長期待を後退させ、PERは15〜18倍程度まで切り下がる可能性がある。評価調整が主因となって株価は下押しされ、5年後の株価水準は3,500円〜4,500円程度まで下落するリスクがある。配当は一定の下支えにはなるものの、株価面でのリターンは乏しい。
総合すると、現在値5,240円は、業績回復を前提とした中間シナリオをほぼ織り込んだ水準に近い。大きな成長が実現すれば上振れ余地はあるものの、利益率改善が進まなければ評価調整のリスクも残る。今後5年間の値動きは、売上成長そのものよりも、営業利益率とROEがどこまで改善できるかが最大の分岐点となる銘柄である。
この記事の最終更新日:2025年12月30日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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