株価
小林製薬とは

小林製薬株式会社は大阪市中央区道修町に本社を置き、処方箋不要の一般用医薬品、衛生雑貨、日用品、健康食品などを企画・製造・販売している企業である。事業の中心は家庭用品・衛生雑貨で、特に芳香消臭剤分野では国内トップシェアを持ち、安定した収益基盤を築いている。一方で医薬品や健康食品においても、大手が参入しにくい症状別・用途特化型のニッチ市場を狙った製品開発に定評があり、「あったらいいなをカタチにする」という独自の開発思想が同社の競争力の源泉となっている。
同社の起源は1886年、創業者の小林忠兵衛が名古屋で「小林盛大堂」を開業したことにさかのぼる。当初は雑貨や化粧品、洋酒の販売を行っていたが、薬品卸部門を設立し医薬品販売に進出。その後1919年に大阪へ進出し、医薬品メーカーが集積する道修町に本社を構えた。1956年の改組を経て、戦後は本格的なメーカーとしての道を歩み始める。
高度成長期以降は、「アンメルツ」「ブルーレット」「サワデー」「熱さまシート」「サラサーティ」「フェミニーナ」「アイボン」「消臭元」「ケシミン」「ナイシトール」など、用途や悩みが直感的に伝わる商品名とテレビCMを組み合わせたマーケティングで数多くのヒット商品を生み出してきた。医薬品メーカーが集まる道修町に本社を置きながらも、事業としては医薬品より衛生雑貨・家庭用品の比重が高く、生活者との接点が非常に強い点が同社の大きな特徴である。
製品開発においては小回りの利く体制を強みとし、ユニークなネーミングと分かりやすい機能訴求で市場を切り開いてきた。また2000年代以降は、他社ブランドの取得やM&Aを積極的に行い、「命の母」「桐灰カイロ」「オードムーゲ」「ビスラット」「間宮アロエ軟膏a」「足の冷えない不思議なくつ下」「マダムジュジュ」など、認知度の高いブランドを自社製品として取り込み、事業領域と販路を拡大している。桐灰化学、アロエ製薬、ジュジュ化粧品などの子会社化により、カイロ、スキンケア、外用薬分野を強化してきた。
海外展開にも注力しており、米国や中国を中心にM&Aを通じて事業基盤を拡大してきた。国内市場が成熟する中で、海外は中長期的な成長ドライバーと位置づけられている。一方で、2024年には紅麹成分を含む健康食品を巡る健康被害問題が発生し、社会的に大きな注目を集めた。これによりサプリメントの安全性や品質管理体制が厳しく問われる局面となり、同社のリスク管理やガバナンスも改めて意識される状況となっている。
全体として小林製薬は、家庭用品・衛生雑貨という安定需要分野を軸に、ニッチ市場を狙った商品開発力と強力なブランド認知を武器に成長してきた企業である。生活者の悩みを的確に捉える開発力とマーケティング力を持つ一方、近年は品質・安全性への対応やブランド信頼の維持がより重要な経営課題となっている。安定性と独自性を併せ持つ、日本型コンシューマーヘルス企業の代表格といえる存在である。
小林製薬 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株配当 DPS(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連22.12 | 166,258 | 26,669 | 28,281 | 20,022 | 259.6 | 90 |
| 連23.12 | 173,455 | 25,780 | 27,330 | 20,338 | 268.2 | 101 |
| 連24.12 | 165,600 | 24,860 | 26,861 | 10,067 | 135.4 | 102 |
| 連25.12予 | 169,000 | 16,000 | 17,300 | 12,500 | 168.1 | 104 |
| 連26.12予 | 178,000 | 18,000 | 19,300 | 14,000 | 188.3 | 104〜106 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(百万円) | 営業キャッシュフロー | 投資キャッシュフロー | 財務キャッシュフロー |
|---|---|---|---|
| 2022年 | 31,914 | -14,312 | -20,759 |
| 2023年 | 18,360 | -19,576 | -19,463 |
| 2024年 | 11,246 | -18,415 | -7,768 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率(%) | ROE(%) | ROA(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年 | 14.8 | 9.9 | 7.6 | ― | ― |
| 2024年 | 15.0 | 4.7 | 3.7 | 28.9~42.0 | 1.90 |
| 2025年 | 9.4 | 5.8 | 4.7 | 33.8 | ― |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の推移を見ると、23.12期の売上は1734億円、営業利益257億円、経常利益273億円、純利益203億円と、非常に高い利益水準にあった。24.12期は売上が1656億円に減少し、営業利益248億円、経常利益268億円と利益水準はまだ高いものの、純利益は100億円まで大きく落ち込んでいる。25.12期予想では売上1690億円、営業利益160億円、経常利益173億円、純利益125億円と回復を見込むが、23.12期の水準には戻らない。26.12期予想でも売上1780億円、営業利益180億円、経常利益193億円、純利益140億円と改善傾向は続くものの、ピーク時と比べると利益規模は一段低い状態にある。売上自体は安定しているが、利益の振れが大きくなっている点が目立つ。
次に収益性を見ると、営業利益率は2023年14.8%、2024年15.0%と非常に高水準だったが、2025年には9.4%まで大きく低下している。二桁を割り込んだことで、従来の高収益モデルに陰りが出ていることが数値からはっきり分かる。ROEも2023年9.9%から2024年4.7%、2025年5.8%へと低下しており、資本効率は明確に悪化している。ROAも同様に7.6%から3.7%、4.7%へと落ち込んでおり、会社全体の稼ぐ力が弱まっていることを示している。
一方でバリュエーションを見ると、2024年の実績PERは安値平均でも28.9倍、高値平均では42.0倍と非常に高い水準にある。PBRも1.9倍と、ROEが5%前後しかない企業としては割高な評価と言える。さらに2025年の予想PERも33.8倍と、利益が回復途上であるにもかかわらず、高い成長期待が前提となった水準にとどまっている。
これらを総合すると、小林製薬は売上規模や事業基盤自体は依然として安定しているものの、収益性と資本効率は23.12期をピークに明確に低下している。一方で株価評価はまだ高く、利益率やROEの低下を十分に織り込んだ水準とは言いにくい。過去の高収益体質やブランド力への信頼が評価として残っている状態だが、足元の数値とのギャップは無視できない。
この数値だけで判断するなら、現在の小林製薬は「業績は底入れから回復途上だが、評価は依然として高い」局面にある。積極的に買い向かうだけの割安感は見当たらず、利益率やROEが再び二桁近くまで戻ることを確認できない限り、投資判断としては慎重姿勢が妥当と言える。現時点では、リターンよりも評価調整リスクの方が意識されやすい銘柄、という結論になる。
配当目的とかどうなの?
まず利回り水準を見ると連25.12期・連26.12期ともに予想配当利回りは1.91%となっており、配当株としては低い水準にある。一般的に配当目的で意識されやすい水準が3%前後であることを考えると、インカム狙いとしての魅力は強くない。
配当額自体は22.12期以降90円→101円→102円→104円と増配基調を維持しており、会社として配当を安定的に出し続ける姿勢は明確である。ただし、その裏付けとなる利益を見ると純利益は23.12期の203億円から24.12期に100億円へ大きく減少し、25.12期・26.12期予想でも回復はするものの過去の高水準には戻らない。営業利益率も15%前後から9%台へ低下しており、以前ほど余裕のある配当環境ではなくなっている。
また、ROEは5%台、ROAも5%前後と資本効率は高くなく、株主資本を効率的に回して高配当を生み出すタイプの企業ではない。これに対してPERは30倍超、PBRは約2倍と評価は依然として高く、株価水準が配当利回りを押し下げている構造になっている。
以上を踏まえると、小林製薬は「配当を減らしにくい安定志向の企業」ではあるが、「配当利回りを主目的に保有する銘柄」ではない。1.9%前後の利回りではインカム面の魅力は乏しく、配当目的で積極的に選ぶ理由は見当たらない。配当はあくまで補助的な要素であり値上がり益や業績回復を期待する投資でなければ、配当目的としての優先度は低い、という評価になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
小林製薬の現在値は5,428.0円である。同社は家庭用品・衛生雑貨の製造販売を主軸とし芳香消臭剤では国内首位の地位を確立している。加えて、一般用医薬品や健康食品分野においても大手が本格参入しにくいニッチ領域に特化した商品開発を強みとし、「用途・悩みが一目で分かる商品設計」と高いブランド認知によって安定した収益基盤を築いてきた。
一方で、直近の業績を見ると営業利益率はピークアウトしROE・ROAも低下傾向にあり、かつての高収益・高効率モデルには陰りが見られる。配当は安定しているものの利回りは2%弱と低く、成長性と評価のバランスには慎重さが求められる局面にある。こうした前提を踏まえ、現在値5,428.0円を起点に今後5年間の株価の値動きを良い場合・中間・悪い場合の3つのシナリオで整理する。
良い場合のシナリオでは、家庭用品・芳香消臭剤分野での圧倒的なブランド力が引き続き発揮され、国内需要が安定的に推移する中で海外事業や高付加価値商品の比率が徐々に高まる展開を想定する。利益率の低下が一巡し営業利益率が10%台前半まで回復、ROEも7〜8%程度まで改善することで市場からは「安定収益型の生活必需品メーカー」として再評価される。この場合、過度な高成長期待は伴わないもののPERは20倍前後まで許容されやすくなり、5年後の株価は6,500円〜7,500円程度まで上昇する余地がある。配当を含めたトータルリターンは堅実な水準となる。
中間のシナリオでは、国内事業は引き続き安定するものの、成長は限定的で海外事業も緩やかな拡大にとどまる状況を想定する。営業利益率は9〜10%前後で横ばい、ROE・ROAも5%台で推移し、かつての高収益性は回復しきらない。この場合、市場評価は現在の水準を大きく上回らず、PERは15〜18倍程度に収れんしやすい。株価は大きなトレンドを描かず、5年間を通じて4,800円〜5,800円程度のレンジ内で推移する可能性が高い。配当は安定して受け取れるものの、値上がり益は限定的という現実的なシナリオである。
悪い場合のシナリオでは、国内市場の成熟が進み、原材料費や販管費の上昇を価格転嫁しきれず利益率の低下が長期化する展開を想定する。営業利益率は8%前後まで低下し、ROEも5%を下回る水準にとどまることで、成長期待はさらに後退する。この場合、市場からの評価は一段と慎重になり、PERは12〜14倍程度まで切り下がる可能性がある。評価調整が主因となって株価は下押しされ、5年後の水準は3,800円〜4,500円程度まで下落するリスクがある。配当は一定の下支え要因となるものの、株価面でのリターンは乏しい。
総合すると小林製薬は高成長を期待して保有する銘柄というよりも、生活必需品を軸とした安定事業のもとで利益率の回復度合いと市場評価の変化によって株価が動くタイプの企業である。5年間で見ると中間シナリオが最も現実的で、株価は現在値近辺を中心としたレンジ推移となる可能性が高い。一方で、収益性の回復が明確になれば上振れ余地もあるが、改善が進まなければ評価調整による下振れも意識される。現在値5,428.0円は、業績の安定性は評価できる一方で、成長と配当の両面では慎重に向き合うべき水準にあると言える。
この記事の最終更新日:2025年12月30日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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