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高砂香料工業とは

高砂香料工業株式会社は香料分野で国内1位、世界でも大手の一角を占める日本最大級の香料メーカーである。1920年に香料技術者集団として創設され1951年に現在の会社形態となった長い歴史を持つ企業で、東京証券取引所プライム市場に上場している。本社は東京都大田区蒲田にあり、現在の本社ビル「アロマスクエア」はかつての東京工場跡地に建てられたものである。売上高は国内首位、世界市場でも上位グループに属し香料というニッチだが参入障壁の高い分野で確固たる地位を築いている。
同社の事業はフレーバー、フレグランス、アロマイングリディエンツ、ファインケミカルの4分野で構成されており、中でも飲料・食品向けのフレーバー事業が中核となっている。清涼飲料、菓子、乳製品、アイスクリーム、冷凍食品、調味料など、日常的に消費される食品の多くに高砂の香料技術が使われている。単なる原料供給ではなく、顧客企業の商品コンセプトや地域ごとの嗜好に合わせて香味を個別設計するオーダーメイド型のビジネスが基本であり、長年の研究開発の蓄積と官能評価技術が競争力の源泉となっている。
フレグランス分野では、香水や化粧品、石鹸、洗剤、シャンプー、柔軟剤、芳香剤など、トイレタリーやハウスホールド製品向けの香料を展開している。国内外の大手化粧品・日用品メーカーと長期的な取引関係を持ち、製品のブランドイメージを左右する「香り」の部分で重要な役割を担っている。こうした分野では一度採用されると処方変更が起きにくく、継続的な取引につながりやすい点が事業の安定性を高めている。
アロマイングリディエンツ分野ではメントールやムスクなどの合成香料素材を手掛け、グループ全体の香料開発を支える基盤的な役割を果たしている。ファインケミカル分野では香料合成で培った有機合成技術を応用し、医薬中間体や有機電子材料などの精密化学品を展開しており、香料事業とは異なる分野での収益源を確保している。
研究開発体制も高砂香料工業の大きな特徴である。神奈川県平塚市に総合研究所を構え、国内では平塚、磐田、鹿島に生産拠点を持つ。研究から製造までを一貫して行う体制を維持しながら、海外では欧米やアジアを中心に現地生産化を推進している。現在では世界28の国と地域に事業拠点を展開し各地域の食文化や嗜好に合わせた香料開発を行うことで、グローバル市場での競争力を高めている。
高砂香料工業はBtoB企業であるため一般消費者への知名度は高くないが、食品・飲料・日用品といった生活必需品の根幹を支える存在である。香料は製品の味や香りを決定づける重要な要素であり、品質・安全性・安定供給が強く求められる。そのため顧客との関係は長期化しやすく価格競争に陥りにくい構造を持つ一方、天然原料価格や為替変動の影響を受けやすい側面もある。こうしたリスクに対しては、グローバル分散と技術力によって吸収する経営を行っている。
総合すると高砂香料工業は、香料という専門性の高い分野で国内トップ、世界でも有力なポジションを持つ研究開発型のBtoB企業であり、飲料・食品向けフレーバーを軸に香粧品・化学分野へと事業を広げながら欧米・アジアでの現地生産化を進め、長期的かつ安定した成長を目指している企業である。
高砂香料工業 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高 (百万円) |
営業利益 (百万円) |
経常利益 (百万円) |
純利益 (百万円) |
一株益 (円) |
一株配当 (円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021.3 | 150,367 | 6,289 | 7,281 | 7,154 | 73.0 | 11 |
| 2022.3 | 162,440 | 8,812 | 10,165 | 8,909 | 90.8 | 14 |
| 2023.3 | 186,792 | 5,947 | 7,958 | 7,393 | 75.3 | 14 |
| 2024.3 | 195,940 | 2,316 | 4,707 | 2,698 | 27.7 | 14 |
| 2025.3 | 229,207 | 15,341 | 15,311 | 13,325 | 136.8 | 48 |
| 2026.3(予) | 233,000 | 13,000 | 13,500 | 12,000 | 123.1 | 52 |
| 2027.3(予) | 240,000 | 14,500 | 14,500 | 12,000 | 123.1 | 52〜60 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF (百万円) |
投資CF (百万円) |
財務CF (百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023.3 | 5,821 | -3,276 | -2,039 |
| 2024.3 | 10,011 | -6,818 | -453 |
| 2025.3 | 18,922 | -9,127 | 6,882 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.3 | 3.1% | 6.1% | 3.4% | ― | ― |
| 2024.3 | 1.1% | 2.0% | 1.1% | ― | ― |
| 2025.3 | 6.6% | 9.2% | 5.0% | 9.6倍~15.1倍 | 1.00倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず利益規模を億円ベースで見ると2024年3月期は営業利益23億円、経常利益47億円、純利益26億円と低水準であり収益性が大きく落ち込んだ年であった。2025年3月期には営業利益153億円、経常利益153億円、純利益133億円へと急回復しており、業績が一気に正常化したことが分かる。2026年3月期予想では営業利益130億円、経常利益135億円、純利益120億円と2025年のピークからはやや減少するものの、2024年と比べれば大幅に高い水準を維持する見通しとなっている。
収益性を見ると営業利益率は2023年の3.1%から2024年には1.1%まで低下した後、2025年には6.6%まで回復している。香料業界は原材料価格や為替の影響を受けやすいが、2025年は価格転嫁や稼働率改善が進んだことで明確な収益改善が起きたと読み取れる。一方で、6%台という水準は同社の過去やグローバル香料大手と比べるとまだ高いとは言えず、収益性は回復途上と評価できる。
資本効率の面ではROEが2023年6.1%、2024年2.0%と低迷した後、2025年には9.2%まで改善している。ROAも同様に2024年の1.1%から2025年には5.0%へと回復しており、利益回復が資本効率に素直に反映されている。ただし、いずれも二桁には届いておらず、高効率企業というよりは「回復局面にある中堅水準」といえる。
バリュエーションを見ると2025年実績PERは安値平均9.6倍、高値平均15.1倍と業績回復局面としては比較的低めのレンジにある。実績PBRは1.0倍で資産価値並みの評価にとどまっており、市場は収益の持続性について慎重な見方をしていることがうかがえる。回復が一過性に終わる場合は妥当だが、回復が定着すれば評価余地が生じやすい水準でもある。
以上を総合すると高砂香料工業は2024年に大きく落ち込んだ業績が2025年に急回復した「リバウンド局面」にある企業である。営業利益率・ROE・ROAはいずれも改善しているが、まだ過去の安定水準や高水準には達しておらず収益の持続性が今後の最大の焦点となる。一方で、PERは一桁後半から十倍台前半、PBRは1倍と評価は控えめであり、業績回復が継続する前提であれば下値リスクは相対的に限定的といえる。
投資判断としては安定成長株ではなく、業績回復の持続性を見極めながらリターンを狙う回復局面型の銘柄と位置付けられる。確実性を重視する投資には向きにくいが、収益改善が続くと判断できる場合には、評価修正による上昇余地を狙える銘柄と判断される。
配当目的とかどうなの?
配当目的という観点で見ると、高砂香料工業は「一定の魅力はあるが、絶対的な安定配当株ではない」という位置付けになる。予想配当利回りは2026年3月期、2027年3月期ともに3.50%と東証プライム全体の平均と比べてもやや高めで、インカムゲインを意識する投資家にとって数字面の見栄えは悪くない。
一方で、配当の安定性という点では注意が必要だ。直近数年を振り返ると2024年は業績悪化により利益水準が大きく落ち込み、2025年に入って営業利益・純利益が急回復、2026年以降は高水準を維持するもののピークアウト気味の予想となっている。香料事業は原材料価格や為替、グローバル需要の影響を受けやすく利益の振れ幅が出やすい構造であるため配当も業績連動色が比較的強い。
ROEは2025年で9%台、PBRは1倍前後と過度に株主還元を優先している状態ではなく、利益回復を背景に無理のない水準で配当を出している印象である。これは健全ではあるが、電力・通信・食品のように「多少業績が悪くても配当は維持する」タイプのディフェンシブ高配当株とは性格が異なる。
まとめると、高砂香料工業は配当利回り3.5%という水準自体は魅力的で、配当を受け取りながら中期的な業績回復を見守る投資には向いている。ただし、配当の絶対的な安定性を最優先する投資家や減配リスクを極力避けたい純粋な配当専用銘柄としては評価は中立に近い。配当目的で保有するなら、ポートフォリオの一部として組み入れるのが現実的、という判断になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
高砂香料工業の現在値は1,485.0円である。同社は香料分野で国内首位、世界でも大手の一角を占める企業で飲料・食品向けフレーバーや化粧品・トイレタリー向け香料、合成香料素材、ファインケミカルなど多角的な事業を展開している。直近の業績を見ると2024年3月期は営業利益率が低迷したものの、2025年3月期には営業利益率6.6%、ROE9.2%、ROA5.0%へと顕著な回復が見られた。
PERは9.6倍〜15.1倍、PBRは1.00倍と評価は控えめであり中期的な業績回復期待が織り込まれつつも慎重な市場評価が残る。配当利回りは3.5%程度と堅調であり、値上がり期待とインカムゲインの双方を意識し得る銘柄である。こうした前提を踏まえ、現在値1,485.0円を起点に今後5年間の値動きを良い場合・中間・悪い場合の3つのシナリオで整理する。
良い場合のシナリオでは、2025年の業績回復が一過性にとどまらず、2026年以降も営業利益率の改善と収益性の向上が継続する展開を想定する。原材料価格の安定化や為替環境の改善によりコスト競争力が高まり、グローバル市場での受注が伸びることで売上・利益の両面が安定して成長する。この場合、PERは一過性の評価ではなく成長持続を織り込んで15倍台後半〜18倍程度まで許容される可能性がある。5年後の株価は2,300円〜2,800円程度まで上昇する余地があり、配当利回りも相応に魅力的な水準で維持されるシナリオとなる。
中間のシナリオでは、収益性改善は進むものの大きなトレンド変化には至らず、営業利益率は5%前後、ROE・ROAも適度な水準で推移する状況を想定する。市場評価はPER10倍〜13倍台でおおむね安定し、株価は業績増益を反映した緩やかな上昇基調を描くが大きなブレイクアウトには至らない。この場合、5年後の株価は1,800円〜2,200円程度のレンジで推移し、配当利回り3%台前半を享受しつつ保有する投資スタンスが中心となる。
悪い場合のシナリオでは、原材料価格の高止まり、為替変動、世界景気の低迷などの逆風により収益性改善が頓挫し営業利益率が再び低迷する展開を想定する。こうした状況では業績回復トレンドが鈍化し、PERは8倍〜10倍程度まで低下する可能性がある。また、配当利回りが相対的に高く見える一方で、株価自体が利益水準の低迷を反映して低迷しやすい。5年後の株価は1,000円〜1,300円程度にとどまるシナリオも考えられ、インカムゲインがある程度支えにはなるもののトータルリターンは限定的となる。
総合すると、高砂香料工業は基盤として堅実なフレーバー・香料事業を持つものの、業績トレンドの波が値動きに影響しやすい銘柄である。良い場合には2,000円台後半までの上昇余地、中間では1,800円〜2,200円前後、悪い場合でも1,000円台前半から1,300円程度というレンジが想定される。配当目的での保有も一定の魅力があるが、株価期待を持つなら収益改善の継続性を見極めることが重要である。
この記事の最終更新日:2025年12月30日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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