株価
井関農機とは

井関農機株式会社は、トラクター、田植機、コンバインを中心とする農業機械専業メーカーであり、日本の農業機械業界ではクボタ、ヤンマーアグリに次ぐ第3位のシェアを持つ大手企業である。ブランド名は「ヰセキ(ゐせき)」として広く知られており、東京証券取引所プライム市場に上場している。
登記上の本店は愛媛県松山市馬木町にあるISEKI M&D松山に置かれているが、実質的な本社機能は東京都荒川区西日暮里にある本社事務所が担っている。地方の製造拠点と首都圏の経営・営業拠点を分ける体制を取りつつ、全国および海外市場をカバーする事業運営を行っている。
井関農機の最大の強みは、日本の稲作に適した農業機械の開発力にある。1960年代、日本の農業機械化が急速に進展する中で、田植機やコンバインの開発競争において業界のトップランナーとして存在感を示した。1966年には日本型コンバインの原型となる自走自脱型コンバイン「HD50」を業界で初めて開発・発売し、その後1971年には高い人気を誇った田植機「さなえ」シリーズを投入するなど、稲作機械分野で数々の先駆的製品を生み出してきた。
その後も技術革新を重ね、1986年には田植機の高速化を実現するロータリー植付け機構を採用した「さなえラブリー」、1999年には作業性を大きく向上させたズームオーガ搭載コンバイン「フロンティア ビバ」を開発した。2000年代に入ってからは、変速操作を不要としたイージーオペレーション型トラクター「ジアスATシリーズ」や「T.Japan TJシリーズ」、業界初の自動植付け機能を搭載した「さなえPZシリーズ」など、操作性と省力化を重視した製品を次々と市場に投入している。
事業内容は、農業機械の開発・製造・販売を中核とし、トラクター、田植機、コンバインといった主力製品に加え、耕うん機、ロータリー、モーアなどの作業機、野菜・畑作向け機械、さらには農業用施設や関連設備まで幅広く展開している。稲作中心の事業構成ではあるものの、近年は野菜作や施設園芸分野への対応強化にも注力しており、日本農業の多様化に対応する製品ラインアップの拡充を進めている。
製造・研究拠点は国内各地に配置されており、松山ではトラクター、熊本ではコンバイン、新潟では田植機、愛媛県内の各工場では耕うん機や作業機といった具合に、製品ごとに専門工場を持つ体制が特徴である。これにより、各分野での専門性と生産効率を高めている。
経営面では、1980年代に経営危機を経験し、創業家一族が経営の第一線から退いた歴史がある。その後は事業再建と収益体質の改善を進め、2004年には17期ぶりに配当を再開するなど、財務体質の立て直しを図ってきた。近年は部品調達の一部を海外メーカーから行うなど、コスト競争力の向上にも取り組んでいる。
井関農機は、日本農業の高齢化や担い手不足という構造的課題を背景に、省力化・高効率化を実現する農業機械の提供を通じて農業の持続性を支える役割を担っている。伝統的な稲作機械の強みに加え、野菜・施設分野やスマート農業への対応を進めながら、日本第3位の農業機械メーカーとして安定した事業基盤を維持している企業である。
井関農機 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(単位百万) | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 一株益(円) | 一株当り配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連22.12 | 166,629 | 3,534 | 3,762 | 4,119 | 182.1 | 30 |
| 連23.12 | 169,916 | 2,253 | 2,092 | 29 | 1.3 | 30 |
| 連24.12 | 168,425 | 1,920 | 1,577 | -3,022 | -133.6 | 30 |
| 連25.12予 | 181,000 | 4,000 | 3,100 | 2,300 | 101.6 | 40 |
| 連26.12予 | 180,000 | 4,500 | 3,600 | 1,650 | 72.9 | 40〜50 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(単位百万) | 営業CF | 投資CF | 財務CF |
|---|---|---|---|
| 連22.12 | -3,375 | -2,984 | 2,033 |
| 連23.12 | -2,459 | -5,416 | 6,722 |
| 連24.12 | 8,825 | -5,843 | -5,099 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 連23.12 | 1.3% | 0.0% | 0.0% | ― | ― |
| 連24.12 | 1.1% | -4.5% | -1.5% | ― | 0.58倍 |
| 連25.12予 | 2.2% | 3.4% | 1.1% | 18.9倍 | ― |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の推移を億円ベースで整理すると、連23.12は売上高約1699億円、営業利益約22億円、経常利益約20億円、純利益は2900万円と、利益水準は極めて低い。営業利益率は1.3%、ROE・ROAはいずれも0.0%で、事業規模に対して収益力がほとんど出ていない状態であった。
連24.12は売上高約1684億円とほぼ横ばいだが、営業利益は約19億円、経常利益は約15億円に低下し、純利益は約-30億円と大幅な最終赤字に転落している。この年の営業利益率は1.1%とさらに低下し、ROEは-4.5%、ROAは-1.5%と、資本効率・資産効率ともに明確に悪化している。実績PBRは0.58倍であり、帳簿価値に対して株価は大きく割安に見えるが、それは収益力の弱さと赤字決算を反映した結果と考えるのが自然である。
連25.12予では売上高約1810億円、営業利益約40億円、経常利益約31億円、純利益約23億円と、数値上は大きな回復が見込まれている。営業利益率は2.2%まで改善し、ROEは3.4%、ROAは1.1%とプラスに転じる予想となっている。ただし、これでも収益性は依然として低水準であり、機械メーカーとしてはかなり薄利な構造であることに変わりはない。黒字回復を前提とした予想PERは18.9倍とされており、利益水準の割に評価は決して低いとは言えない。
連26.12予では売上高約1800億円、営業利益約45億円、経常利益約36億円、純利益約16億円と、営業段階では改善が進む一方、最終利益は減少予想となっている。一株益も低下しており、収益の安定性にはまだ不安が残る。
以上の数値から判断すると、井関農機は売上規模は大きいものの、営業利益率が1〜2%台にとどまり、ROE・ROAも低水準で推移してきた企業である。2024年には大幅な最終赤字を計上しており、事業構造そのものの収益力が弱いことが明確に表れている。2025年以降は回復予想が示されているが、それでも利益率・資本効率は業界平均と比べて見劣りし、予想PER約19倍という評価水準は、回復が確実に定着しない限り割安とは言いにくい。
PBR0.58倍という数字だけを見ると資産価値面での下値余地は限定的に見えるものの、それはあくまで帳簿価値基準の話であり、低収益体質が続く限り評価が切り上がりにくい構造にある。したがって、この銘柄は現時点では「業績回復が本物かどうかを確認する段階」にあり、積極的な成長投資や高収益企業としての投資対象というよりは、回復期待を前提にした慎重な見極めが必要な局面にあると判断できる。
配当目的とかどうなの?
井関農機を配当目的で見ると、結論としては積極的に配当を狙う銘柄とは言いにくい。まず配当利回りを見ると、連25.12予・連26.12予ともに約2.10%とされている。この水準は日本株全体の平均と比べても高いとは言えず、配当を主目的に投資する場合にはやや物足りない数字である。高配当株と呼ばれる3〜4%台以上の銘柄と比べると、インカム面での魅力は限定的である。
次に配当の安定性を考える必要がある。井関農機は連23.12で純利益がほぼゼロ、連24.12では約30億円の最終赤字を計上している。それでも配当は30円を維持しており、業績が悪化しても一定水準の配当を継続する姿勢は見られる。ただし、これは収益力に余裕があって出せている配当というより、減配を避けたいという経営判断による側面が強いと考えられる。
連25.12予では純利益が約23億円まで回復し、配当は40円を予定しているため、表面的には配当性向は極端に高くないように見える。しかし、営業利益率は2.2%、ROEは3.4%と、企業としての稼ぐ力は依然として低水準にある。連26.12予では純利益が約16億円へ減少する見通しとなっており、利益の安定性という点でも不安が残る。
また、PBRは0.58倍と低く、資産面では下値のクッションがあるように見えるが、ROEが低いため、将来的に利益が積み上がり、配当が自然に増えていく構造にはなっていない。高ROE企業のように、成長とともに配当水準が切り上がっていくタイプではなく、配当はあくまで業績次第で維持・調整される性格が強い。
これらを総合すると、井関農機は配当利回りが低めで、業績の振れも大きく、配当の安定性や成長性を重視する投資家にとっては魅力が弱い銘柄である。配当を主目的に長期保有するよりも、業績回復が定着するかどうかを見極めながら、株価の見直しと配当を併せて狙う回復期待型の位置づけが現実的と言える。したがって、井関農機は配当を中心に据えた投資には向かず、配当はあくまで付加的な要素と考えるのが妥当である。
今後の値動き予想!!(5年間)
井関農機の現在値1,898.0円を基準に、今後5年間の株価の値動きを考える。井関農機は国内農機大手であり、トラクター、田植機、コンバインといった農業機械を主力に据えている。クボタやヤンマーアグリに次ぐ業界3位のシェアを持つ一方、近年は利益率の低下や赤字決算といった業績面の荒波も経験しており、株価には業績変動リスクが織り込まれている。
良い場合は、国内外の農業機械需要が堅調に回復・拡大するシナリオである。国内では担い手不足に対応した省力化・スマート農業需要が進み、海外ではアジアや北米などでの農機需要が拡大する。これに伴い、売上高は堅調に伸び、営業利益率は2%台後半〜3%台へ改善、ROE・ROAもプラス幅が拡大する。本業収益の改善が見える化し、PERは18倍前後の評価が継続され、株価は5年後に3,000円〜3,600円まで上昇する可能性がある。配当利回りは2%前後を維持し、値上がりとインカムの両方を享受できる展開となる。
中間のケースは、農機の需要は横ばい〜緩やかな回復にとどまり、売上・利益ともに大きな伸びはないが、安定的な収益は確保されるシナリオである。営業利益率は2%台前半で推移し、ROE・ROAはプラス圏ながら低い水準にとどまる。PBRは0.6倍台前後、PERは15倍前後に落ち着き、株価は1,800円〜2,300円程度の範囲で推移する可能性が高い。このシナリオでは、株価の大きな上昇は期待しにくいが、配当を受け取りながら安定的に保有するスタンスが中心となる。
悪い場合は、世界的な景気減速や農業投資の停滞により、農機需要が想定以上に鈍化するシナリオである。国内の農家の設備投資が先送りされ、海外市場でも競合激化や価格競争により利益率が低下する。営業利益率は1%台に低迷し、ROE・ROAも低下または赤字再発の可能性が高くなる。市場評価は慎重となり、PERは過去の安値圏に近い10倍前後まで下落、PBRも0.5倍台近辺となる可能性がある。この場合、5年後の株価は1,200円〜1,600円程度まで下落するリスクがある。配当利回りは相対的に高く見えるものの、値下がりリスクを補うには不十分な展開となる。
総合すると、井関農機は農業機械という業績が景気・投資サイクルに影響されやすいセクターに属している。良いシナリオでは値上がり余地がある一方で、業績低迷が続く悪いシナリオでは株価の下振れもある。中間シナリオでは比較的穏やかな値動きが想定され、配当込みでの安定的なリターンを重視する保有スタンスが中心となる。今後5年間は、農業投資動向と利益率改善の持続性を見極めることが株価見通しの鍵となる。
この記事の最終更新日:2026年1月18日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

コメントを残す