株価
キユーピーとは

キユーピー株式会社は1919年創業、日本で初めてマヨネーズを製造した企業として食品史に名を残す存在である。創業者・中島董一郎がアメリカで出会ったマヨネーズを「日本人の食生活を豊かにする調味料」と捉え持ち込み、東京・中野で食品工業としてスタートしたことが全ての始まりだった。そこから100年以上にわたり、キユーピーマヨネーズというひとつの調味料を軸にブランドを築き、国民食といえるレベルにまで定着させてきた企業である。今では家庭の冷蔵庫にある光景が自然となり、コンビニ・スーパー・外食から弁当工場まで、どこを見てもキユーピーの製品が使われているといってよい。
現在はアヲハタ(ジャム)、中島董商店、物流子会社キユーソー流通とともに「キユーピー・アヲハタグループ」を形成し、製造だけでなく流通まで一体運営できる体制を持つ。食品メーカーは物流が弱いと供給の強さが出せないが、キユーピーはそこを自前で補っている点が大きな特徴。鮮度管理が命のドレッシング、回転率の高いマヨネーズなど、スピード供給が求められる市場で安定供給できる強みがブランド力をさらに底上げしている。また、過去数十年の食文化変化にも対応し続け、時代がヘルシー志向ならキユーピーハーフ、低コレステロールならゼロシリーズと、社会のトレンドに合わせて味と栄養設計を微調整してきた。主力製品の看板を変えずに中身を時代に合わせて変えてきたことが100年続いた最大の理由でもある。
商品展開はマヨネーズにとどまらず広く、パスタソース・ミートソース・手作り用ソース・パン工房シリーズ・あえるパスタソース・機能性ドレッシングなど、「味付けを代行する」カテゴリーが多い。つまりキユーピーは食品というより家で料理をする時間を短縮するサービス企業でもある。3分クッキングブランドの存在が象徴で、レシピ・味付け・調理の提案まで含めて生活に入っている。惣菜・チルド食品も展開し、家庭・給食・外食・食品メーカー向け業務用まで市場層が広い。これは景気変動があっても需要が大きく落ちにくいビジネスで、長期視点での安定性が高い。
もちろん弱点も存在する。国内マヨネーズ市場は成熟し、大きな成長余地は以前ほどない。健康意識の高まりで油脂系調味料は厳しい局面もある。一方でキユーピーは海外需要の拡大、機能性食品の展開、業務用・チルド分野強化などで成長の第二エンジンを模索している。成熟市場で勝ち切った後は「新市場での勝ち筋」が鍵になる企業フェーズに入っているといえる。
キユーピー 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(EPS) | 一株配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連20.11 | 531,103 | 28,303 | 28,989 | 11,378 | 79.6 | 40 |
| 連21.11 | 407,039 | 27,972 | 29,698 | 18,014 | 128.2 | 47 |
| 連22.11 | 430,304 | 25,433 | 27,249 | 16,033 | 115.3 | 47 |
| 連23.11 | 455,086 | 19,694 | 20,490 | 13,174 | 94.8 | 50 |
| 連24.11 | 483,985 | 34,329 | 36,874 | 21,419 | 154.1 | 54 |
| 連25.11予 | 505,000 | 34,500 | 36,600 | 29,200 | 206.7 | 64記 |
| 連26.11予 | 520,000 | 36,500 | 38,500 | 23,100 | 163.6 | 57〜64 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2022 | 27,199 | -15,947 | -16,812 |
| 2023 | 23,725 | -17,721 | -9,514 |
| 2024 | 63,126 | -23,893 | -21,126 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 4.3% | 4.6% | 3.0% | – | – |
| 2024 | 7.0% | 7.0% | 4.6% | PER 高値平均 25.1倍 / 安値平均 18.7倍 | PBR 1.88倍 |
| 2025予 | 6.7% | 9.6% | 6.3% | 予想PER 20.63倍 | – |
出典元:四季報オンライン
投資判断
キユーピーの数字を素直に追うと、まず目に付くのは売上と利益の伸び方が安定している点。4,550億 → 4,839億 → 5,050億(予)→ 5,200億(予)と、一本の線を引いたように右肩へ進んでいて、食品大手として成熟しつつも成長を止めていない。営業利益は23年の197億から24年に343億へと大きく伸び、その後は345〜365億で横ばい〜微増予想。急拡大というより、筋肉を付けながら階段を一段ずつ上がっているイメージに近い。こういう伸び方をする企業は不況に強く、悪化時も落ち込み幅が小さく済みやすい。
利益率を見るとさらに面白い。営業利益率は4.3% → 7.0% → 6.7%と、24年に大きく改善しており、25年・26年も高めの水準を維持している。高単価カテゴリを売ったのか、コスト改善が効いたのか、商品ミックスの最適化が進んだのか、数字だけでも「利益の質が変化している」ことが分かる。ROEが4.6% → 7.0% → 9.6%、ROAが3.0% → 4.6% → 6.3%と上を向いているのも同じ方向性で、経営の効率が確実に良くなっている証拠。食品メーカーでROE10%に近づくのは強さのサインで、市場が高めのPERを許容している理由にもなる。
しかし問題は評価の水準。24年のPERは18.7〜25.1倍で、25年予想でも20.6倍。バリュー株というより期待を織り込んだ成長株に近い扱いで、割安感で買われるタイプではない。PBR1.88倍と資産バリュー投資の視点でも軽くはない。つまり今の株価は「成長の継続」を前提にしているため、数字が鈍ると評価の圧縮を招きやすいし、逆に利益率改善が続けばぐっと伸びる余地も残している。長期投資として見るなら、企業の方向性はプラス、ただ買い場は丁寧に選びたいところだ。
まとめると、足元は悪くないどころか強い。売上と利益が積み重なり、利益率とROEも改善し、企業体質は確実に引き締まっている。だが、株価水準はすでに一定の期待が乗っており、今すぐ飛びつくより、PERが15〜18倍のあたりまで調整してきた局面で拾う方がリスクとリターンのバランスがいい。育っている企業だが、育ちが株価に織り込まれつつある状態にある。つまり買うなら焦らず、押しを待ちながら長期目線で持つのが自然な判断になる。この銘柄は上昇力より粘り強さ、多くを求めるより時間で育てるタイプ。急騰を狙う株ではないが、数字が積み上がる未来を信じて静かに持つなら報いてくれる可能性がある。
配当目的とかどうなの?
キユーピーの予想配当利回りは連25.11で約1.50%、連26.11で1.26%と想定されており、配当株として考えるなら明確に低めの水準と言える。増配は続いているものの利回りは伸びておらず、むしろ株価が一定の評価を受けていることで利回りは見かけ上さらに割り引かれている形になる。利益は伸びているが配当を大幅に上げて株主還元に寄せる方向性ではなく、企業としては内部留保や設備投資、ブランド維持のほうに重点を置いている印象が強い。つまり「稼いだ利益をそのまま株主に返して増配で応える」というより、「今後の事業を太らせながら全体最適で回していく方針」に見える。
配当投資だけを軸にすると、1.2〜1.5%という利回りで資金を置くメリットは正直大きくなく、株価が停滞すれば実質リターンはさらに細くなる。キユーピーは食品企業として安定感があり、長期的に倒れにくい体質を持つが、配当収益で生活を支えるような運用を考える場合、この銘柄はメインの柱にはなりにくい。ただし利回りが低いから悪いというわけではなく、企業が成長余地に資金を回している可能性もあり、長期的に利益とEPSが伸び続けるなら将来の増配や株価上昇という形で報われる余地は残る。その場合、今の低利回りが後に「成長期ならではの還元余白」と評価される可能性もある。
結局のところ、この銘柄を配当目的で買う場合にはスタンスが問われる。毎年のインカムを厚く積み上げたい人には物足りず、より利回りの高い銘柄が別に存在する。一方で、ブランド力と安定した食品需要を背景に、企業の成長とともに中長期で増配や株価上昇をゆっくり拾いに行く人なら、配当は「ついてくる報酬」として受け止められる。キユーピーは静かに育つ会社で、配当は背中にそっと乗ってくる程度。配当そのものを目的にするより、持っていれば安心で、気づけば積み上がっていた、そんな保有スタイルのほうが相性が良い。
今後の値動き予想!!(5年間)
キユーピーの株価4,260円がこの先5年でどう動くかを考えると、結局のところカギになるのは利益率とROEがさらに伸びるかどうか。食品メーカーは爆発的な成長よりも「積み上げ型の決算」が評価の軸になりやすいので、この企業も売上と利益が毎年すこしずつ増え続けるなら株価はそれに素直に反応していく。一方、売上が伸びても利益率が鈍れば市場はすぐに冷静になり、株価は横ばいに収まりやすい。数字が崩れるなら過去の評価が剥がれ、期待が薄まった分だけ株価は下へ力が働く。その意味でキユーピーは非常に分かりやすい銘柄で、未来は3つの道に分かれていく。
まず良い場合、営業利益率が今よりさらに改善し、6〜8%前後を維持でき、ROEが継続して10%台に乗るようなら、企業の利益体質は明確にワンステージ上がる。マヨネーズ・ドレッシングという主力をベースに、業務用や海外展開、チルド食品などの新しい収益源が機能し始めるとEPSが増え、PERが高めの評価のままでも株価は引かれ上がる。食品メーカーは地味でも、数字が綺麗に積み上がる局面では市場は着実に反応するので、株価は4,260円から5,200〜6,000円程度のレンジに向かう可能性がある。爆発的なジャンプではないが、「じわじわと高値を切り上げていく」動きになる。
中間の場合、売上は伸びるが利益率は頭打ち、ROEは10%には届かず8〜9%で横ばいという展開。このパターンでは企業としては安定していて安心感があるが、市場にサプライズがないため株価も素直に停滞する。食品メーカーは大崩れしにくい業種である一方で、伸び代を示せなければ株価は動かない。5年続けて緩やかな業績なら、株価は3,900〜4,800円の間で上下する横ばいレンジに入る可能性が高い。配当を受け取りながら静かに持つ保有形態になり、保守的な運用には向くが、大きく増やしたい投資家にはやや退屈にもなる。
そして悪い場合、コスト高や原材料価格の変動、国内消費の停滞で利益率が再び縮み、ROEが6%未満に戻る展開。この場合は評価が剥がれ、今のPER水準を維持できなくなる。ブランド力は健在でも、数字が弱れば市場は容赦なく反応し、株価は4,260円から3,200〜3,600円程度まで値を消す可能性がある。暴落というより、期待がゆっくり剥がれて下方向へ滑っていくパターン。食品メーカーは下値が固いことが多いが、それでも利益が細ると戻りに時間がかかる。
まとめると、キユーピーは今ちょうど分岐点に立っている。利益率とROEが伸びるなら上、維持なら横、悪化なら下。企業は成熟しすぎず、伸びしろもわずかに残っているため、どちらにも振れる可能性を持つ。成長が続けば静かに強くなり、数字が止まれば長期の持久戦になる。今の株価4,260円はそのどちらにも動ける位置で、未来の向きは今後の決算が素直に決める。買う側はその変化を見ながら、上昇なら追随、停滞なら保留、鈍化なら一歩引く。そんな向き合い方が自然だと思う。
この記事の最終更新日:2025年12月5日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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