株価
日本コークス工業とは

日本コークス工業は、もともと「三井鉱山」として日本の近代産業を支えた歴史を持つ企業である。明治期の神岡鉱山買収から始まり、1890年代には三井財閥の中核として三池炭鉱を中心に国内外で多数の鉱山を運営。戦前には三井物産、三井銀行と並ぶ御三家企業とまで言われ、炭鉱と重工業を背景に日本の工業化を支えた存在だった。しかし戦後のエネルギー転換や炭鉱閉鎖、労使闘争、大規模な退職者整理など激しい変遷を経て、結果として石炭採掘そのものからは撤退することになる。
そこから会社は大きく方向転換した。石炭に代わる収益源としてコークス製造と粉粒体化工機の技術開発を中心に据え、石炭輸入・燃料調達・エンジニアリングの複合企業へと変貌した。2003年には債務超過で産業再生機構の管理下に置かれる厳しい局面も経験したが、不要資産の売却、新日鉄との長期供給契約、ナノ素材や再生炭素繊維など新規技術への投資で再建を進め、2009年に現在の社名「日本コークス工業」へと改称した。この時点で同社は炭鉱会社のイメージから脱却し、「エネルギー+化工機メーカー」として別の生命線を得たといえる。
今の日本コークス工業の事業は大きく二つに分かれる。第一にコークス製造・海外炭輸入を軸とした燃料事業。高炉用コークスは鉄鋼生産に欠かせない基材であり、代替の効きにくい特殊性があるため、コア需要は一定量確保されやすい。第二に粉粒体機器や化工装置に強いエンジニアリング事業。こちらは発電所、化学工場、リサイクル施設など多様な産業と結びつき、燃料一本だった時代と違い収益源が分散していることが特徴だ。「石炭の会社」から「素材・装置・エネルギーを扱う企業」へと軸を変えたことで、景気依存度が落ち、ショック耐性が高まったとも言える。
ただし、この企業の評価は過去の華々しい歴史と現在の現実が同時に存在している点が面白い。三井財閥出身でありながら現在は三井グループを離脱しており、黎明期に巨大な力を持っていた会社が、試行錯誤を経て再び事業を積み上げている段階にある。あの三池争議を経験し、石油転換の波に押され、債務超過で国に支えられ、それでも再建して今この場所にいるという点が、他の製造企業には無い重みを持っている。
現状の日本コークス工業は、急成長を狙う派手な会社ではない。だが、石炭と装置産業で培った技術・国内鉄鋼需要の安定性・粉体処理のニッチ分野など、細く長い強みが明確に存在する。縮小と再生を繰り返してきた企業ならではの耐久性もある。成長の角度は緩やかでも、倒れにくい体質を持つ企業だと言える。
日本コークス工業 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 一株益(EPS) | 配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連23.3 | 174,062 | -397 | -752 | -1,075 | -3.7 | 0 |
| 連24.3 | 135,152 | 4,390 | 3,640 | 1,898 | 6.5 | 3 |
| 連25.3 | 99,045 | -8,562 | -10,269 | -13,908 | -47.8 | 0 |
| 連26.3予 | 98,000 | 2,700 | 1,700 | 200 | 0.7 | 0 |
| 連27.3予 | 102,000 | 4,000 | 3,000 | 1,500 | 5.2 | 0〜2 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(単位百万) | 営業CF | 投資CF | 財務CF |
|---|---|---|---|
| 2023 | -12,402 | -8,094 | 21,091 |
| 2024 | 10,827 | -9,876 | -414 |
| 2025 | -3,178 | -16,685 | 18,813 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | -0.3% | -2.0% | -0.8% | ─ | ─ |
| 2024 | 3.2% | 3.3% | 1.3% | ─ | ─ |
| 2025 | -8.7% | -33.5% | -10.7% | 24.8倍(高値) / 12.9倍(安値) | 0.68倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
日本コークス工業の財務数字を見ると、最も目立つのは利益の振れ幅の大きさだ。24.3期では営業利益43億・経常36億・純利益18億と黒字を確保しているが、その翌期25.3期は営業損失−85億、最終損益−139億まで落ち込み、赤字転落の規模は大きい。26.3期では営業利益27億、純利益も2億と黒字予想には戻っているものの、まだ「回復した」というよりは「一度水面に顔を出した段階」で、安定成長が再確立されたとは判断しにくい。
営業利益率が −0.3% → 3.2% → −8.7% と激しく上下していることも象徴的で、収益体質にまだブレが残る。安定企業は利益率が一定のレンジで維持されるが、日本コークス工業は環境・コスト・需要変動の影響を強く受けやすく、利益を継続的に積み上げる基盤が固まり切っていない印象がある。
ROEとROAも同様で、ROEは 3.3% → −33.5%、ROAは 1.3% → −10.7% と急落し、資本効率が大きく低下している。26.3期でわずかに黒字へ戻る見込みとはいえ、まだ改善の入口であり、本格的な競争力の回復には時間が必要だろう。
バリュエーション面を見ると、PBR 0.7倍前後は見た目には割安だが、それは市場が「まだ信じていない」裏返しとも言える。PERは12.9〜24.8倍とブレが大きく、利益が安定しない以上、この指標は信頼して使いにくい。利益が伸びればPER24倍でも正当化されるが、反対に停滞すれば割高判定になり、株価が押される可能性もある。つまり株価は業績次第で振れ幅が大きくなりやすい銘柄だ。
結論として、今の日本コークス工業は積極的に攻めて買うというより、「改善の兆しを確認してから乗る方が妥当」と判断できる。利益率・ROE・ROAが連続して改善し始めた時こそ、市場が見直しを始めるタイミングだ。反対に言えば、今は期待も織り込まれていない分、改善が出た瞬間の上昇余地は残されている。
配当目的とかどうなの?
日本コークス工業を純粋に配当目的で見る場合、現状ではほぼ魅力はないと言わざるを得ない。理由はシンプルで、予想配当利回りが連26.3期・連27.3期ともに配当0%だからだ。つまり、利益が出ても株主還元よりまず事業再建・財務安定化を優先している可能性が高く、配当を期待して保有する銘柄では現状はないと言える。
企業が無配に踏み切る背景にはいくつかシナリオが考えられる。ひとつは資金を内部に留め、再投資や体力回復に使う段階であること。もうひとつは利益のボラティリティが大きく、配当を出せる余力が安定しないため、無理に出して企業体力を削るより無配で守る方が合理的な判断とされているケースだ。過去の赤字幅の大きさを踏まえれば、現状はこの後者に近いと推測できる。
もちろん、無配=悪ではない。むしろ再建期の企業にとっては配当を出さず資金を回す方が長期的には合理的な時期もある。ただ投資家目線で言うなら、「いずれ配当復活するはず」という希望だけで保有するのはリスクが高い。配当が戻る決定的な根拠、例えば営業利益が安定して黒字化、ROE改善、PBRが見直されるほどの収益回復などが確認できるまでは、配当狙いで入る理由は乏しいと判断できる。
まとめると、日本コークス工業は現時点では配当投資には不向きの銘柄。期待するとしても未来の業績回復を待ってからで、今は株価上昇を狙うより「復活の兆しがあるかどうか」を見極めるフェーズ。配当で利益を受け取りたい人には優先順位はかなり低いと言っていい。
今後の値動き予想!!(5年間)
日本コークス工業の株価は現在97円だが、この企業の特徴は「良い時は急回復する一方、悪化すると深く沈む」という収益の波の大きさにある。黒字と赤字を繰り返す構造はそのまま株価に反映されやすく、今後5年間を想定する場合、良い未来・普通の未来・悪い未来が明確に分岐するタイプだと言える。現在の株価97円は、そのどちらにも触れていない「まだ方向が定まっていない状態」と読むのが自然だ。
まず良い場合。黒字が継続し利益率が安定、ROE・ROAもプラス圏で定着してくると、市場が再評価に動き出す可能性がある。財務の立て直しが進み、原料コストの落ち着きや販売価格の改善が噛み合えば、現在の低PBRはむしろ見直しの余地と捉えられる。5年スパンでは株価100円台後半〜200円台前半まで十分狙える。もし配当が復活すれば個人投資家の買いも入りやすく、株価押し上げの弾みになる。
次に中間の未来。赤字と黒字が交錯しながらも極端に悪化しない場合だ。このシナリオでは収益は出るが成長力も弱く、ROEが一桁前半付近で停滞すると、市場は強い評価を付けづらい。結果として株価は90〜130円のレンジを長く行き来し、上下はしても長期で見れば横ばい気味。短期の材料で動く瞬間はあっても、長期保有で大きな含み益を狙う展開にはなりにくい。
最後に悪い場合。収益改善が定着せず、再び赤字が続くと市場心理は冷え込み、PBRが更に低下してもおかしくない。資源価格に左右される事業特性上、逆風が重なれば業績が再度沈むリスクがある。特に26〜27年度が計画通りに伸びなければ株価は軟調に推移し、70円台〜最悪50円台まで落ち込むシナリオも現実的に視野に入る。回復までに時間がかかる企業という点を加味すると、一度崩れると戻りが遅い未来も想定しておくべきだ。
総じて、日本コークス工業は「期待だけで買う銘柄ではなく、数字次第で価値が大きく変動する銘柄」である。改善が見えた瞬間に跳ねる余地はあるが、裏側では改善が曇れば横ばいまたは下落というリスクも同時に伴う。慎重に行くなら数字が改善してから入る方が安心で、逆に攻める投資家なら今の不人気と割安をチャンスと見る可能性もある。どちらを取るかで姿勢が分かれる銘柄。それが今の日本コークス工業だ。
この記事の最終更新日:2025年12月9日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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