株価
石原産業とは

石原産業は、酸化チタンを中心とする無機化学と、農薬を軸とした有機化学の両分野を事業基盤とする大手化学メーカーである。大阪府大阪市西区に本社を置き、主力の生産拠点は三重県四日市市石原地区に集中しているほか、滋賀県草津市に中央研究所を構え、研究開発体制を強化している。創業は1920年と古く、100年以上にわたって素材産業の中で事業を継続してきた歴史を持つ企業である。
同社の起源は、創業者である石原広一郎が南洋地域での鉱山開発を目的に設立した南洋鉱業公司にさかのぼる。戦前は鉱山開発やそれに付随する海運、化学関連事業を展開していたが、第二次世界大戦の終結により海外資産を喪失した。その後、日本国内に残った工場や技術、人材を基盤として事業を再構築し、化学メーカーとしての道を本格的に歩み始めた。こうした経緯から、資源開発に由来する無機化学の技術と、研究開発を重視する企業文化が現在の事業にも色濃く反映されている。
無機化学分野では、二酸化チタンが最大の主力製品である。二酸化チタンは白色顔料として塗料、インキ、プラスチック、紙など幅広い分野で使用されており、石原産業は日本国内ではトップシェアを誇るメーカーとして知られている。世界市場においても上位メーカーの一角を占めており、品質の安定性や用途別の製品ラインアップに強みを持つ。建材や自動車、工業用途向けなど、景気の影響を受けやすい分野も多いが、長年の顧客基盤と技術力により一定の競争力を維持している。
近年は、従来の顔料用途に加えて、機能材料分野の育成にも力を入れている。その代表例が、MLCC向けのチタン酸バリウムなどの電子材料である。スマートフォンや車載電子機器などに不可欠な電子部品向け素材として需要が拡大しており、汎用材料に比べて付加価値が高い点が特徴である。酸化チタンで培った無機材料技術を応用し、電子材料や先端分野への展開を進めることで、事業ポートフォリオの高度化を図っている。
有機化学分野では、農薬事業が収益の大きな柱となっている。除草剤、殺菌剤、殺虫剤などを自社で研究開発し、国内だけでなく海外市場にも積極的に展開している点が特徴である。特に新興国市場の開拓に力を入れており、人口増加や農業生産性向上の需要を背景に、中長期的な成長分野と位置付けている。農薬は研究開発費や規制対応が必要な分野ではあるものの、市況変動の影響を受けにくく、酸化チタン事業の景気変動を補完する役割を果たしている。
このほか、バイオサイエンス関連や医薬品分野への取り組みも行っており、石原バイオサイエンスなどのグループ会社を通じて、農薬・医薬・バイオ関連の研究開発を進めている。関連会社には、石原テクノ、石原エンジニアリングパートナーズ、富士チタン工業などがあり、製造、技術サービス、エンジニアリングまで含めたグループ体制を構築している。金融面では旧大和銀行系の大輪会に属しており、長年にわたる取引関係を背景とした安定した企業基盤も特徴の一つである。
全体として石原産業は、酸化チタンという市況変動を受けやすい顔料事業と、農薬や機能材料といった比較的安定性や成長性を期待できる分野を併せ持つ企業である。汎用素材メーカーとしての側面と、研究開発型企業としての側面が同居しており、事業構造の転換と高付加価値化を中長期のテーマとして進めている点が、この会社の大きな特徴といえる。
石原産業 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | EPS(一株益・円) | 配当金(一株・円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 21.3期 | 101,774 | 5,173 | 5,944 | 3,373 | 84.4 | 18 |
| 22.3期 | 110,955 | 11,557 | 13,272 | 11,690 | 292.6 | 36 |
| 23.3期 | 131,238 | 8,631 | 10,349 | 6,947 | 175.8 | 42 |
| 24.3期 | 138,456 | 11,491 | 14,850 | 7,988 | 209.3 | 70 |
| 25.3期 | 145,196 | 10,482 | 11,392 | 8,410 | 220.0 | 85 |
| 26.3期(予) | 152,000 | 16,000 | 17,000 | 12,600 | 329.2 | 100〜125 |
| 27.3期(予) | 157,000 | 17,500 | 17,500 | 12,900 | 337.1 | 125〜135 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | -6,022 | -5,021 | 1,048 |
| 2024年3月期 | -2,811 | -7,044 | 11,524 |
| 2025年3月期 | 18,332 | -11,412 | -2,337 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 6.5% | 7.1% | 3.4% | — | — |
| 2024年3月期 | 8.2% | 7.5% | 3.5% | — | — |
| 2025年3月期 | 7.2% | 7.3% | 3.7% | 5.3~8.2倍 | 0.89倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の流れを見ると、24年3月期は売上高1,384億円、営業利益114億円、経常利益148億円、純利益79億円という水準だった。この年は営業利益率が8.2%と比較的高く、酸化チタンや農薬といった主力事業が収益をしっかり支えた年だったといえる。売上規模も大きく、素材メーカーとしては安定感のある数字が出ている。25年3月期になると、売上高は1,451億円に増加し、純利益も84億円まで伸びている。一方で、営業利益は104億円、経常利益は113億円と前期から減少しており、利益面ではやや一服感が出た年だった。営業利益率も7.2%に低下しており、売上は伸びたものの、コストや市況の影響を受けて利益率がやや押し下げられた局面といえる。
26年3月期予では、売上高1,520億円、営業利益160億円、経常利益170億円、純利益126億円と、大きな増益が見込まれている。営業利益は前期比で大幅な伸びを想定しており、利益水準としては過去数年と比べてもかなり高い。営業利益率も7%台を維持する前提で、事業環境の改善や採算性の向上が織り込まれている計画といえる。
収益性を見ると、営業利益率は23年が6.5%、24年が8.2%、25年が7.2%と、6〜8%台で比較的安定している。大きく上下するタイプではなく、素材系企業としてはまずまずの水準を保っている印象がある。ROEは7.1%、7.5%、7.3%と3年間を通じて7%台を維持しており、資本効率は高くはないものの、安定して一定水準を確保している。ROAも3.4%、3.5%、3.7%と緩やかに改善しており、資産を使った稼ぐ力も少しずつ良くなっている。
評価面を見ると、25年時点の実績PERは5.3倍から8.2倍のレンジで、一桁台にとどまっている。PBRも0.8倍台と1倍を下回っており、純資産に対する市場評価は控えめである。ROEが7%台で安定していることを考えると、評価はやや低めに置かれている印象がある。これらを総合すると、石原産業は売上規模が1,500億円前後まで拡大し、営業利益率も安定、ROEやROAも緩やかに改善している企業である。25年は一時的に利益が鈍化したが、26年予では営業利益、純利益ともに大きく伸びる見通しで、業績面では再び成長局面に入る可能性が示されている。
一方で、評価面ではPERが一桁台、PBRも1倍割れと、業績改善や将来性を十分に織り込んでいるとは言いにくい水準にある。急成長株のような派手さはないが、収益性が安定しており、業績回復と割安評価の是正が同時に進めば、見直し余地はある銘柄といえる。
提示された数値だけで判断するなら、石原産業は、業績は堅調で中期的な回復が見込まれ、評価は割安圏にある企業であり、リスクを抑えつつ業績改善を取りに行く投資には向いた銘柄だといえる。強い成長を狙うというよりも、安定性と割安さを重視した中立からやや強気寄りの投資判断になる。
配当目的とかどうなの?
配当目的という視点で石原産業を見ると、この銘柄はかなり魅力が増してきている局面にあると感じる。まず数字として、予想配当利回りは26年3月期で3.66%、27年3月期では4.57%と、はっきりと高配当と呼べる水準に入っている。特に4%を超える水準は、日本株全体を見渡してもそう多くはなく、インカムゲインを重視する投資家にとっては十分に目を引く数字である。
この配当水準が無理な還元かというと、そういう印象はあまりない。26年3月期予では営業利益160億円、純利益126億円と大幅な増益が見込まれており、業績の裏付けを伴った配当増加になっている。営業利益率も7%前後、ROEも7%台を維持しており、企業としての稼ぐ力は安定している。利益が出ていないのに高配当を出しているタイプではなく、現状の数字を見る限り、配当の持続性は比較的高いと考えられる。
また、PERは一桁台、PBRも1倍を下回っており、株価自体が割安な水準にあることも、利回りを押し上げている要因になっている。ただし、ROEが7%台で推移していることを考えると、極端に低評価に放置されているというより、やや慎重に評価されている状態と見る方が自然で、配当利回りも単なる「見かけの高さ」ではない。
一方で、石原産業は急成長企業ではなく、酸化チタンや農薬といった事業特性上、市況や原材料価格の影響を受けやすい面がある。そのため、毎年コンスタントに増配を続けるタイプというよりは、業績が良い年は増配し、環境が厳しくなれば配当を維持する、もしくは一時的に抑えるといった、メリハリのある配当スタンスになる可能性が高い。
値上がり益を大きく狙う成長株というよりも、配当を受け取りながら業績回復や評価見直しがあれば上振れも期待する、そうしたスタンスの中長期投資家にとって、配当目的で十分検討に値する銘柄だといえる。
今後の値動き予想!!(5年間)
石原産業は、顔料用途を中心とする酸化チタンを主力とする化学メーカーであり、無機材料と農薬という二つの事業を柱に展開している。酸化チタンは塗料、インキ、プラスチックなど幅広い分野で使われる基礎素材で、日本国内ではトップクラスの地位を持つ。一方で、MLCC向けのチタン酸バリウムなど機能材料分野にも注力しており、電子部品用途という成長分野を取り込もうとしている。有機化学分野では自社開発の農薬を国内外で販売しており、特に新興国市場の開拓を進めることで、比較的安定した収益源を確保している点が特徴である。売上高は1,400億円前後まで拡大しており、営業利益率も6〜8%台で推移するなど、素材メーカーとしては堅調な収益構造を持つ。配当も増加傾向にあり、現在株価2,731円を起点に、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、酸化チタン事業において高付加価値品の比率が高まり、価格競争が緩和されると同時に、農薬事業が新興国市場で順調に拡大する状況を想定する。26年以降に見込まれている大幅な増益計画が実現し、営業利益率は7%台後半から8%前後を維持、ROEも7%台後半で安定する。これまで割安に置かれてきた評価が見直され、PERは10倍前後、PBRも1倍近辺まで是正される。高配当と業績回復の両面が評価され、株価は段階的に切り上がる。この場合、現在株価2,731円から、5年後には4,500円から5,000円程度まで上昇する展開が考えられる。割安是正が主因となる強気シナリオである。
中間のシナリオでは、事業環境は大きく変わらず、売上高は1,500億円前後、営業利益率は6〜7%台で安定するケースを想定する。農薬事業は堅調だが、酸化チタンは市況の影響を受け、全体としては緩やかな成長にとどまる。ROEは7%前後を維持するものの、成長期待は限定的で、市場評価も大きくは変わらない。PERは一桁後半、PBRは0.8〜1.0倍程度で推移し、株価は配当を意識した安定した動きとなる。この場合、5年後の株価水準は3,000円から3,200円程度に収まる可能性が高く、配当を受け取りながら長期保有する、最も現実的なシナリオといえる。
悪い場合のシナリオでは、原材料価格の上昇や市況悪化により酸化チタン事業の収益性が低下し、農薬事業も競争激化で成長が鈍化するケースを想定する。営業利益率は6%を下回り、ROEも6%前後まで低下する。業績の伸び悩みが意識されることで評価は再び慎重になり、PERは一桁台前半、PBRも0.7倍程度まで低下する。この場合、配当は維持される可能性が高いものの、株価は調整局面に入り、5年後には1,800円から2,200円程度まで下落する展開も考えられる。
総合すると、現在株価2,731円を起点とした石原産業の5年間の値動きは、良い場合で4,500円から5,000円前後、中間で3,000円から3,200円、悪い場合で1,800円から2,200円といったレンジが想定される。急成長を狙うタイプの銘柄ではないが、業績の安定性、改善余地のある評価水準、そして比較的高い配当を背景に、インカムゲインを重視しつつ評価是正を待つ中長期投資家向けの銘柄だといえる。
この記事の最終更新日:2025年12月18日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

コメントを残す