株価
ニチバンとは

『セロテープ』で有名なテープ大手であり、粘着・塗工技術を中核にメディカル分野とテープ分野を展開する総合メーカーである。特に中韓を中心に人気の高い鎮痛消炎剤や絆創膏を主力とし、大鵬薬品工業と開発提携を行っている点も特徴となっている。
ニチバン株式会社は、日常生活や医療、産業のさまざまな場面で使用されるテープ材を製造し、国内外に販売するメーカーである。セロハンテープやマスキングテープ、救急絆創膏「ケアリーヴ」、スポーツテーピングの「バトルウィン」シリーズ、さらに医薬品であるロイヒつぼ膏、スピール膏などの製造・販売を主な事業としている。企業メッセージは「ぴったり技術で明日をつくる」であり、粘着技術を通じて人々の生活や社会課題の解決に貢献する姿勢を掲げている。
同社は1918年、薬剤師である歌橋憲一により「歌橋製薬所」として創業された。創業当初は硬膏や軟膏の製造を行っていたが、その製法を応用してゴム絆創膏の製造に取り組み、現在の事業の基盤を築いた。その後、医療用製品とテープ製品を両輪として事業を拡大し、国内初のセロハン式粘着テープ「セロテープ」を製造するメーカーとして広く知られるようになった。セロテープは同社の登録商標であり、長年にわたり定番商品として高いブランド力を維持している。
資本関係では、1976年より大鵬薬品工業が資本参加しており、現在は約32%を出資している。大鵬薬品工業の親会社である大塚ホールディングスのグループ会社には設立当初は含まれていなかったが、現在は大塚ホールディングスおよび大鵬薬品工業の持分法適用関連会社となっている。これにより、医薬品分野での研究開発や商品展開において相乗効果を発揮している。
2018年には創業100周年を迎え、近年は好調なメディカル事業を成長ドライバーとして、アジアや欧州を中心とした海外展開を加速させている。2020年には、一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会において、「プラスチックごみ問題」の解決につながる商品・サービスとしてセロテープが大賞を受賞した。70年以上前から脱プラスチックに取り組んできた実績が評価され、SDGsの観点からも注目を集めている。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に際しては、止血製品であるチューシャバンやインジェクションパッドなどがワクチン接種の現場で活用され、社会インフラの一端を支えた。
事業は大きくメディカル事業とテープ事業に分かれている。メディカル事業では、救急絆創膏のケアリーヴやケアリーヴ治す力、あかぎれ保護バン、オーキューバンエコなどの一般向け製品に加え、スポーツ用テーピングのバトルウィンシリーズを展開している。医薬品分野では、ロイヒつぼ膏をはじめ、ロイヒ膏ロキソプロフェン、ロイヒクリームフェルビ、ロイヒ膏フェルビコンパクト、ロイヒ温シップフェルビナクなどの消炎鎮痛剤、スピール膏やスピールジェルといった魚の目治療薬、医療用医薬品であるスピール膏Mなどを手がけている。このほか、医療用各種テープ、薬局向けのマスク、ガーゼ、包帯、サージカルテープなども幅広く提供している。
テープ事業では、セロテープを中心に、両面テープのナイスタック、メンディングテープ、マイタックラベルや製本ラベルなどの文具製品を展開している。海外ではセロテープはPanfixのブランド名で輸出されている。さらに、キッチン雑貨のディアキチワザアリテープや、包装用・外装用テープ、各種マスキングテープ、農作物用結束たばねらテープとその周辺機器、電気工事用テープなど、産業用途にも幅広く対応している。このようにニチバンは、長い歴史の中で培ってきた粘着技術を基盤に、医療・生活・産業の各分野で安定した事業基盤を築きつつ、海外展開や環境対応にも積極的に取り組む企業である。
ニチバン 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(単位百万) | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 一株益(円) | 一株配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連21.3 | 41,528 | 2,000 | 2,070 | 1,350 | 65.2 | 30 |
| 連22.3 | 43,134 | 2,450 | 2,561 | 1,809 | 87.3 | 30 |
| 連23.3 | 45,560 | 1,609 | 1,748 | 2,371 | 114.7 | 35 |
| 連24.3 | 46,859 | 2,073 | 2,201 | 1,827 | 89.0 | 35 |
| 連25.3 | 49,457 | 2,586 | 2,681 | 1,959 | 96.3 | 35 |
| 連26.3予 | 51,100 | 2,480 | 2,520 | 1,620 | 79.6 | 40 |
| 連27.3予 | 52,700 | 2,740 | 2,940 | 2,050 | 100.7 | 40 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(百万円) | 営業キャッシュフロー | 投資キャッシュフロー | 財務キャッシュフロー |
|---|---|---|---|
| 2023.3 | 2,917 | -1,153 | -867 |
| 2024.3 | 3,187 | -3,692 | -1,225 |
| 2025.3 | 3,690 | -1,695 | -763 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(実績) | PBR(実績) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.3 | 3.5% | 5.8% | 3.4% | – | – |
| 2024.3 | 4.4% | 4.3% | 2.6% | – | – |
| 2025.3 | 5.2% | 4.5% | 2.8% | 23.1倍(高) / 18.2倍(安) | 0.94倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績面では2024年3月期から2025年3月期にかけて営業利益、経常利益、純利益はいずれも増加しており、事業規模の拡大と利益水準の底上げが確認できる。営業利益は約20億円から25億円へ伸び、経常利益も22億円から26億円、純利益も18億円から19億円へと増加している。一方で2026年3月期予想では営業利益が24億円、純利益が16億円と減益見込みとなっており、足元の成長が一段落する想定になっている点は注意が必要である。
収益性を見ると、営業利益率は2023年の3.5%から2024年に4.4%、2025年には5.2%まで改善しており、事業構造そのものは確実に良くなっている。コスト管理や付加価値の高い製品構成へのシフトが進んでいることがうかがえる。ただし、ROEは2023年の5.8%から2024年に4.3%へ低下し、2025年も4.5%と低水準にとどまっている。ROAも同様に3.4%から2.6%、2.8%と推移しており、利益率改善に比べて資本効率の改善は弱い。
株価指標を見ると、2025年時点の実績PERは安値平均で18.2倍、高値平均で23.1倍となっている。ROEが4%台にとどまる企業としては、決して割安とは言えず、むしろ将来の利益改善をある程度織り込んだ水準といえる。一方でPBRは0.9倍と1倍を下回っており、資産価値の観点では下値余地が限定的であることを示している。このPBR1倍割れは、業績が大きく悪化しない限り、評価の下支え要因になりやすい。
これらを総合すると、営業利益率が着実に改善している点は明確なプラス材料であり、事業の質は良くなっている。しかし、ROEやROAが低く、2026年3月期に減益予想が出ている状況では、強い成長期待で積極的に買い向かう局面とは言いにくい。PER水準も割安感があるとは言えず、評価面では中立的である。
結論としては、現時点では大きな上昇余地を狙う投資よりも、PBR1倍割れという資産面の安心感を意識しつつ、配当を受け取りながら中長期で様子を見るスタンスが妥当である。今後、営業利益率のさらなる上昇が続き、ROEが6%以上に向かうようであれば、株価評価が見直される余地が出てくると判断できる。
配当目的とかどうなの?
配当目的という視点で、提示された数値だけから判断すると、正直に言って「強い配当銘柄」とまでは言えないが、「安定配当を前提にした補助的な保有先」としては成り立つ、という位置づけになる。まず予想配当利回りは、2026年3月期、2027年3月期ともに2.01%と横ばいで、水準としては市場平均と同程度か、やや低めに近い。高配当を狙う投資家にとっては物足りない数字で、配当利回りそのものを主目的に買う銘柄ではない。
一方で配当の安定性という点では、これまでの配当水準は比較的維持されており、業績が多少上下しても大きく減配していない点は評価できる。2026年3月期は純利益が16億円程度に減る予想ではあるが、それでも配当利回り2.01%を維持する前提になっていることから、会社としては急激に配当を削る姿勢ではないと読み取れる。
ただし注意点として、ROEが4%台と低く、利益成長も一服感がある中で、今後大幅な増配が期待できるかというと、ハードルは高い。営業利益率は改善しているものの、利益規模そのものが急拡大しているわけではなく、配当性向を大きく引き上げる余力も限定的に見える。
PBRが0.9倍と1倍を下回っているため、理屈の上では株主還元強化、たとえば増配や自社株買いに踏み切れば株価と配当の両面で魅力が増す余地はある。しかし、現時点の数値だけを見る限り、配当を成長させていくフェーズというよりは、現状維持を重視するフェーズに近い。
総合すると、配当目的としては「高配当を狙って積極的に買う銘柄」ではなく、「値下がりリスクを抑えつつ、2%前後の配当を安定的にもらうための中立的な保有先」という評価になる。キャピタルゲインよりも、ディフェンシブ寄りのポートフォリオの一部として、控えめに組み入れるのが現実的だといえる。
今後の値動き予想!!(5年間)
ニチバンは、医療用テープや絆創膏、鎮痛消炎剤などのメディカル事業と、セロテープを中心とした文具・産業用テープ事業を両輪とするメーカーであり、生活必需性の高い製品群を持つ点が特徴である。近年は営業利益率が着実に改善している一方、ROEやROAは低水準にとどまっており、高成長というよりも安定性と収益構造の改善が評価ポイントとなる企業体質である。現在の株価1,990円を起点に、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、メディカル事業が引き続き成長ドライバーとなり、鎮痛消炎剤や絆創膏が国内外で安定的に拡大する展開を想定する。加えて、コスト管理や高付加価値製品へのシフトが進み、営業利益率が5%台から6%前後まで上昇することで、収益構造が一段と改善する。ROEも5〜6%台へ緩やかに回復すれば、市場の評価は現在のPBR0.9倍前後から1.1〜1.2倍程度へ見直される可能性がある。PERも20倍前後で安定し、配当利回り2%前後を維持しながら評価修正が進む展開となる。この場合、5年後の株価は2,600円から3,000円程度まで上昇する可能性があり、安定成長と評価改善が同時に進む強気シナリオとなる。
中間のシナリオでは、メディカル事業は堅調に推移するものの、成長スピードは緩やかで、文具・テープ事業も大きな伸びは見られないケースを想定する。営業利益率は5%前後で横ばいとなり、ROEも4〜5%台にとどまる。市場評価はPER18〜20倍、PBR1倍前後で落ち着き、配当利回り2%前後が株価の下支えとなる。この場合、株価は大きくは動かず、5年後の水準は1,900円から2,300円程度となり、配当を受け取りながら保有する安定型のシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、原材料価格の上昇や競争激化により利益率の改善が止まり、メディカル事業の成長も鈍化する展開を想定する。営業利益率は再び4%台に低下し、ROEやROAも4%を下回る水準で停滞すると、市場の評価は慎重になる。PBRは0.7〜0.8倍程度まで低下し、PERも15倍前後まで切り下がる可能性がある。配当は維持されるものの増配期待は後退し、株価の上値は重くなる。この場合、5年後の株価は1,400円から1,700円程度まで下落するリスクがある。
総合すると、現在株価1,990円を起点としたニチバンの5年間の値動きは、良い場合で2,600円から3,000円前後、中間で1,900円から2,300円、悪い場合で1,400円から1,700円といったレンジが想定される。高成長株ではないが、生活必需性の高い製品と安定配当を背景に、インカムゲインを得ながら緩やかな評価改善を待つ中長期向けの銘柄と位置づけられる。
この記事の最終更新日:2025年12月20日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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