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第一工業製薬(4461)の株価は割安?決算推移・配当・今後5年の株価予想

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株価

第一工業製薬とは

第一工業製薬株式会社は、凝集剤や合成糊料をはじめとする工業用薬剤分野で国内首位級の地位を持つ、技術志向の強い化学品メーカーである。界面活性剤、高分子材料、ウレタン、各種樹脂薬剤などを幅広く手がけ、非イオン界面活性剤、カルボキシメチルセルロース、ショ糖脂肪酸エステルといった分野では特に高いシェアと評価を得ている。本社は京都市南区に置き、主力工場は三重県四日市市に構えており、研究開発と量産の両面で安定した体制を築いている。

同社の歴史は古く、1909年に京都・西本願寺前の香老舗である薫玉堂の新規事業部門として創業された。創業当初は絹糸紡績向けのアンモニウム石鹸の製造販売からスタートし、1915年には国産の業務用石鹸として「玄武印マルセル石鹸」を開発した。京都御所で行われた大正天皇即位の礼に掲げられた四神の旗に着想を得て、「青龍」「朱雀」「白虎」「玄武」の図案を商標登録し、その中でも「玄武」は同社の象徴的なブランドとして定着していった。

「モノゲン」「ノイゲン」「セロゲン」といった製品名も、この玄武に由来する名称であり、第一工業製薬の技術力とブランドを象徴する存在であった。特に「モノゲン」は、日本初の合成洗剤として1930年代に登場し、ウールやおしゃれ着用洗剤として長年にわたり親しまれた。粉末や液体へと形態を変えながら市場に浸透し、家庭用洗剤分野における代表的なブランドとなった。

一方で、1960年代以降は家庭用洗剤事業の再編が進み、他社との統合やP&Gとの合弁事業を経て、最終的には2006年をもって家庭用品事業から撤退している。この撤退は衰退ではなく、第一工業製薬が本来の強みである工業用途の化学品分野へ経営資源を集中させるための戦略的な判断だったと言える。

現在の第一工業製薬は、完全に工業用途向け化学品メーカーとして事業を展開している。繊維、医薬、電子材料分野で使用される界面活性剤、食品添加物として用いられるショ糖脂肪酸エステルや各種配合剤、水溶性高分子であるカルボキシメチルセルロースやポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドなどの高分子材料、さらにポリエーテルやプレポリマーといったポリウレタン原料、難燃剤、各種樹脂原料や樹脂添加剤などを事業の柱としている。これらはいずれも最終製品の品質や性能を左右する重要な素材であり、価格競争よりも技術力と信頼性が重視される分野である。

技術力への評価は高く、凝集剤や合成糊料などでは業界トップクラスの地位を確立している。大量生産品よりも、用途別に最適化された機能性材料を提供することで、顧客との長期的な取引関係を築いている点が特徴である。また近年は、医療や食品、健康関連分野への応用にも力を入れており、従来の工業用途に加えて付加価値の高い分野の育成を進めている。

人材面では、高等専門学校の教育内容に強い信頼を寄せており、高専卒業生を積極的に採用している。理論と実践の両方に強い人材を現場で育てる文化が根付いており、海外ではラオス出身者やモンゴルの新モンゴル高専卒業生を採用するなど、ダイバーシティ推進にも積極的である。このような人材戦略は、長期的な技術継承と研究開発力の維持に寄与している。

総じて第一工業製薬は、100年以上の歴史で培った技術力を基盤に、派手さはないものの、産業の根幹を支える工業用薬剤分野で安定した存在感を放つ企業である。家庭用品から撤退した後も、工業用化学品に特化することで事業の質を高め、現在は高機能材料や健康関連分野を次の成長軸として育てている、堅実かつ技術志向の化学メーカーと言える。

第一工業製薬 公式サイトはこちら

直近の業績・指標

年度 売上高(百万円) 営業利益(百万円) 経常利益(百万円) 純利益(百万円) 一株益 EPS(円) 一株当たり配当(円)
連21.3 59,140 4,485 4,314 2,563 252.0 70
連22.3 62,672 4,626 4,192 2,492 244.8 80
連23.3 65,081 1,186 1,200 -407 -41.9 80
連24.3 63,118 2,077 2,060 1,174 122.8 65
連25.3 73,255 5,351 5,737 2,585 270.1 100記
連26.3予 80,000 8,200 7,900 4,500 424.1 140
連27.3予 88,000 9,000 9,000 5,100 480.6 150〜160

出典元:四季報オンライン

キャッシュフロー

決算期 営業CF(百万円) 投資CF(百万円) 財務CF(百万円)
2023 724 -2,883 -1,030
2024 7,091 -2,008 1,646
2025 7,528 -2,138 -5,045

出典元:四季報オンライン

バリュエーション

年度 営業利益率(%) ROE(%) ROA(%) PER(倍) PBR(倍)
2023 1.8 -1.2 -0.5
2024 3.2 3.1 1.2
2025 7.3 6.6 2.6 高値平均 23.7
安値平均 10.8
1.93

出典元:四季報オンライン

投資判断

まず業績規模を見ると、2024年3月期の売上は631億円、営業利益は20億円、経常利益は20億円、純利益は11億円である。2025年3月期は売上が732億円に拡大し、営業利益は53億円、経常利益は57億円、純利益は25億円と大きく改善している。2026年3月期予想では売上800億円、営業利益82億円、経常利益79億円、純利益45億円と、利益水準がさらに一段引き上がる前提となっている。

収益性の推移を見ると、営業利益率は2023年が1.8%、2024年が3.2%、2025年が7.3%と明確な改善トレンドにある。2023年は収益性がかなり低い水準だったが、2025年には工業用薬剤メーカーとして十分に評価できる水準まで回復しており、構造的な立て直しが進んでいることが数字から読み取れる。

資本効率を見ると、ROEは2023年がマイナス1.2%、2024年が3.1%、2025年が6.6%、ROAは2023年マイナス0.5%、2024年1.2%、2025年2.6%と、こちらも段階的に改善している。ただし、2025年時点でもROEは6%台にとどまっており、高収益企業と呼べる水準ではなく、安定重視型の企業という位置付けになる。

バリュエーションを見ると、2025年実績PERは高値平均23.7倍、安値平均10.8倍とレンジが広いが、利益回復局面としては過度に割高という印象はない。PBRは1.9倍で、資産価値から見ても極端な割高感はなく、業績改善を織り込みつつも、まだ評価余地を残した水準といえる。

以上を総合すると、この銘柄は2023年を底に、売上・利益・利益率・ROEが揃って改善局面に入っており、回復の質は比較的良好である。一方で、ROEやROAはまだ中程度の水準にとどまっており、急成長株というよりも、業績回復と安定成長を評価するタイプの企業である。

投資判断としては、業績の回復トレンドが明確で、PER・PBRも許容範囲に収まっていることから、過度な割高感はなく、中期的に安定したリターンを狙える水準にあると判断できる。一方で、ROEがまだ低めである点を踏まえると、大きな株価上昇を短期で期待する局面ではなく、業績改善と配当を含めたトータルリターンを重視する投資に向いた銘柄である。結論としては、成長性よりも回復と安定を評価する局面にあり、堅実な業績改善を前提とした中長期保有向きの銘柄という評価になる。

配当目的とかどうなの?

配当目的かどうかという点について結論から言うと、主目的としてはやや弱いが、補助的には十分成立する。連26.3期の予想配当利回りは1.64%、連27.3期は1.76%と、いわゆる高配当株と呼べる水準ではない。3〜4%台の配当を安定的に求める投資家にとっては、利回り面だけを見ると物足りなさがある。

一方で、この会社は業績回復局面にあり、直近では営業利益率が大きく改善し、純利益も拡大している。配当額も連25.3期の100円から、連26.3期140円、連27.3期150〜160円と増配基調にある点は評価できる。配当性向を無理に引き上げている印象はなく、利益成長に合わせて段階的に配当を厚くしていく、比較的堅実な株主還元姿勢と見ることができる。

ROEはまだ6%台と高水準ではないが、赤字期を脱して改善が続いている段階であり、このフェーズで配当を維持・増配できている点は、財務余力とキャッシュフローの安定性を裏付けている。実際、営業キャッシュフローも直近では大きく改善しており、配当の原資に対する不安は小さい。そのため、この銘柄は、配当だけを目的に買うインカム株ではないが、業績回復と安定配当を同時に取りにいく「回復局面型+配当補助」銘柄という位置付けがしっくりくる。

まとめると、高配当目的には向かないが、業績回復を背景にした中長期保有で、配当を受け取りながら株価の安定と緩やかな上昇を狙う投資には相性が良い。配当は主役ではないが、安心材料としては十分に機能する水準、という評価になる。

今後の値動き予想!!(5年間)

第一工業製薬株式会社は、現在株価8,470.0円を基準に見ると、急成長を狙うグロース株というよりも、工業用薬剤を中核に据えた技術力重視の素材メーカーとして、業績回復と安定成長が株価を左右する回復局面型の企業と位置づけられる。直近では営業利益率、ROE、ROAが底打ちから明確に改善しており、業績のフェーズは悪化局面から回復・拡大局面へ移行しつつある。一方で、ROEはまだ高水準とは言えず、評価は過度に先行していない。この前提を踏まえて、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。

良い場合のシナリオでは、凝集剤や界面活性剤、高分子材料など主力分野での需要が堅調に推移し、四日市工場を中心とした生産効率の改善が利益成長に直結する展開を想定する。営業利益率は7%台から8〜9%程度まで上昇し、ROEも8〜10%近辺まで改善する。健康関連分野や高付加価値材料が安定収益源として定着すれば、市場からは「収益体質が改善した化学メーカー」として評価されやすくなる。この場合、PERは20倍前後が許容され、PBRも2倍程度で安定する。5年後の株価水準は11,000円から13,000円程度が目安となり、配当を受け取りながら着実な値上がりを期待できる強気寄りのシナリオとなる。

中間のシナリオでは、売上と利益は緩やかに拡大するものの、原材料価格やエネルギーコストの影響で利益率の改善は限定的にとどまるケースを想定する。営業利益率は7%前後で横ばい、ROEも6〜7%程度に落ち着く。市場評価は慎重で、PERは15〜18倍、PBRは1.5〜1.8倍程度に収れんする。この場合、5年後の株価は9,000円から10,500円程度と、現在値から緩やかな上昇にとどまる中立的なシナリオとなる。配当を含めたトータルリターンは安定的だが、大きな値幅は出にくい。

悪い場合のシナリオでは、需要環境の悪化やコスト増が長期化し、利益率の改善が止まる展開を想定する。営業利益率は再び5%台まで低下し、ROEも5%を下回る水準にとどまる。市場の評価は防衛的になり、PERは12〜14倍、PBRは1.2倍前後まで切り下がる可能性がある。この場合、5年後の株価は6,500円から7,500円程度にとどまり、配当は維持されても株価面でのリターンは限定的となる弱気シナリオとなる。

総合すると、現在株価8,470.0円を起点とした第一工業製薬の5年間の値動きは、良い場合で11,000円から13,000円前後、中間で9,000円から10,500円、悪い場合で6,500円から7,500円といったレンジが想定される。爆発的な成長を狙う銘柄ではないが、業績回復と増配基調を背景に、配当を受け取りながら中長期で安定したリターンを狙う投資と相性の良い銘柄と評価できる。

この記事の最終更新日:2025年12月24日

※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。


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