株価
扶桑薬品工業とは

扶桑薬品工業は、人工腎臓用透析剤や補液を主力とする医療用医薬品メーカーであり、日本の透析医療を根幹から支えてきた中堅製薬会社である。本社は大阪府大阪市中央区道修町に置き、本社事務所や研究開発拠点を大阪市城東区に構えている。道修町という日本の製薬産業の中心地に本社を構える点からも、同社が基礎的医薬品を担う老舗メーカーであることがうかがえる。
事業の中核は医療用医薬品であり、とりわけ人工腎臓用透析液および血液ろ過用補充液が最大の柱となっている。扶桑薬品工業は日本で初めて透析液を開発した企業であり、この分野では長年にわたる実績と技術の蓄積を有している。現在も人工腎臓用透析剤では国内シェア約5割を占めるトップメーカーであり、慢性腎不全患者の生命維持に不可欠な製品を安定供給している点が最大の強みである。透析は一度始まると長期にわたって継続される治療であるため、透析剤は景気変動の影響を受けにくく、同社の収益基盤は極めて安定している。
透析関連製品に加え、輸液・注射剤も同社の重要な事業領域である。ブドウ糖注、生理食塩液、注射用水といった基礎的な医薬品は、どの医療機関でも日常的に使用される必需品であり、派手さはないものの、医療現場には欠かせない存在である。これらの分野は薬価が低く利益率は高くないが、安定した需要が見込めるため、同社の事業モデルは量と継続性を重視した構造になっている。
さらに、ろ過型人工腎臓用補液や心臓外科手術用の心停止液・心筋保護液など、専門性の高い注射剤・輸液も展開している。これらは使用される医療現場が限定される一方で、品質や信頼性が極めて重視される製品群であり、長年培ってきた製造技術と品質管理体制が競争力の源泉となっている。また、吸着型血液浄化器などの医療機器についても、他社との共同販売を通じて事業展開を行っている。
近年の特徴としては、後発医薬品や製造受託事業への取り組みが挙げられる。新薬開発で大きなリスクを取るのではなく、製造力や品質管理能力を活かし、他社製品の製造や供給を担うことで、設備稼働率の向上と収益の安定化を図っている。これは基礎的医薬品メーカーとしての現実的かつ堅実な戦略といえる。
また、不妊治療・生殖補助医療分野にも事業を広げており、体外受精関連製品などの研究用試薬や医療機関向け製品を展開している。透析や輸液とは異なる分野ではあるが、医療現場を支える補助的・基盤的製品という位置付けは共通しており、事業ポートフォリオの分散という意味でも一定の役割を果たしている。
かつては痔疾用舌下錠「ヘモリンド」が一般にも知られた製品であったが、2017年に販売権を小林製薬へ譲渡しており、現在は一般用医薬品よりも医療用医薬品への集中をより明確にしている。これにより、同社の企業像は「医療現場を裏方として支える基礎医薬品メーカー」という色合いが一層強くなった。
総合すると、扶桑薬品工業は人工腎臓用透析剤・補液を中核に、輸液・注射剤など医療に不可欠な基礎的医薬品を安定供給することに特化した製薬中堅企業である。高成長や話題性を狙う企業ではないが、透析医療という社会インフラを支える存在として、景気に左右されにくい事業構造と高い信頼性を持つ。日本の医療を足元から支える、極めて地味だが不可欠な役割を担う企業と位置付けられる。
扶桑薬品工業 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 年度 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株当り配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 単21.3 | 49,251 | 2,351 | 2,227 | 1,607 | 183.2 | 60 |
| 単22.3 | 49,632 | 1,924 | 1,996 | 1,483 | 169.1 | 60 |
| 単23.3 | 51,015 | 2,206 | 2,215 | 1,605 | 183.1 | 70 |
| 単24.3 | 55,407 | 1,964 | 1,868 | 1,377 | 160.0 | 70 |
| 単25.3 | 60,563 | 4,131 | 3,780 | -3,288 | -385.0 | 82 |
| 単26.3予 | 63,000 | 3,400 | 3,300 | 2,300 | 269.4 | 90 |
| 単27.3予 | 64,500 | 3,200 | 3,100 | 2,200 | 257.7 | 90〜98 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023.3 | 2,853 | -1,373 | -813 |
| 2024.3 | 627 | -3,536 | 14 |
| 2025.3 | -3,305 | -3,168 | 7,618 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率(%) | ROE(%) | ROA(%) | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.3 | 4.3 | 4.5 | 2.2 | ― | ― |
| 2024.3 | 3.5 | 3.7 | 1.8 | ― | ― |
| 2025.3 | 6.8 | -10.0 | -4.1 | 13.6(高)/10.9(安) | 0.59 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績規模を見ると、売上高は2024年3月期で554億円、2025年3月期で605億円、2026年3月期予想で630億円と、年率で見ると大きくはないものの着実な増収基調にある。人工腎臓用透析剤や補液といった基礎的医薬品を主力とする事業構造を考えると、景気や流行に左右されにくく、数量ベースで安定した需要があることが数字にも表れている。
一方で利益水準を見ると、やや不安定さが目立つ。営業利益は2024年に19億円、2025年に41億円と大きく伸びたが、2026年予想では34億円と再び減少する見通しとなっている。経常利益も2024年18億円、2025年37億円から、2026年予想では33億円とピークアウト感がある。純利益については2024年13億円から、2025年にマイナス32億円と大きな赤字に転落しており、2026年は23億円の黒字回復予想となっているが、年度ごとの振れ幅が大きい点は無視できない。
次に収益性と効率性を見ると、営業利益率は2023年4.3%、2024年3.5%と低下した後、2025年には6.8%まで改善している。ただし依然として一桁台にとどまっており、製薬会社としては低い水準である。ROEは2023年4.5%、2024年3.7%と低位で推移し、2025年には赤字の影響でマイナス10.0%まで悪化している。ROAも同様に2023年2.2%、2024年1.8%から、2025年にはマイナス4.1%となっており、資本効率・資産効率の面で評価できる状況にはない。
株価指標を見ると、2025年実績PERは高値平均13.6倍、安値平均10.9倍と、成長株としてはかなり低い水準で、市場が成長性をあまり織り込んでいないことが分かる。PBRは0.6倍弱と1倍を大きく下回っており、資産価値の観点では明確な割安水準にある。ただし、この低PBRは収益性の低さと利益の不安定さを反映したものと考えるのが妥当である。
以上を踏まえると、売上は安定的に拡大しているものの、営業利益率は低く、ROE・ROAも低水準で、事業の収益力や資本効率は弱い。2025年の純利益赤字が示す通り、特別要因やコスト構造の影響を受けやすく、利益の安定性には課題が残る。一方で、透析剤という社会インフラ性の高い製品を主力としているため、事業そのものが大きく崩れるリスクは限定的であり、PBRが0.6倍弱という点から下値余地は相対的に小さいと考えられる。
投資判断としては、高成長や高収益を期待する銘柄ではなく、利益回復を前提とした割安是正狙いの位置付けになる。収益性の明確な改善が見られない限り、評価が大きく切り上がる展開は想定しにくい。結論として、安定事業を背景にした低PBRの中堅製薬会社であり、業績の回復と安定を慎重に確認しながら検討すべき銘柄、という評価になる。
配当目的とかどうなの?
配当目的という観点で見ると、扶桑薬品工業は一見すると利回り水準は悪くない銘柄に映る。2026年3月期、2027年3月期ともに予想配当利回りは3.81%と、製薬株の中では比較的高めの水準にある。数字だけを見れば、インカム投資の候補に挙がりやすい水準であることは確かである。
ただし、配当の安定性という点では慎重に見る必要がある。直近の業績を見ると、2025年3月期は純利益が大きく赤字となっており、利益水準は安定していない。その一方で配当は増配されており、利益との連動性は弱い。これは、同社が一定の配当水準を維持する姿勢を示しているとも言えるが、裏を返せば、利益が伴わない中で配当を支払っている局面とも解釈できる。
キャッシュフローの面から見ても、営業キャッシュフローは2025年にマイナスとなっており、配当の原資は営業活動から十分に賄えていない。実際には、財務キャッシュフローで資金を補っている状況であり、配当の持続性は利益や営業CFの回復が前提条件になる。透析剤という安定需要のある事業を背景に、長期的に事業が崩れる可能性は低いものの、足元の収益力は決して強くない。
総合すると、利回り3.8%前後という数字自体は魅力的だが、それは「業績が安定して高配当」というタイプではなく、「株価水準が低く、結果として利回りが高く見えている」側面が大きい。増配余地を積極的に期待できる段階ではなく、将来も安定して配当が積み上がっていくタイプのインカム株とは言いにくい。
結論として、扶桑薬品工業は配当を全く期待できない銘柄ではないが、配当目的で長期保有するには安心感が十分とは言えない。配当は業績回復が続くことを前提に受け取る「おまけ」程度に考えるのが現実的で、主目的を安定インカムに置く投資とは相性がやや弱い銘柄、という評価になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
扶桑薬品工業は人工腎臓用透析剤・補液などの基礎的医薬品を主軸とし、透析関連で国内シェア約5割のトップポジションを持つ医薬品メーカーである。売上は緩やかに増加しているものの、営業利益率やROE、ROAは低めにとどまり、2025年には純利益赤字に転落するなど利益の波が大きい。配当利回りは3%台後半と比較的高い水準ではあるものの、営業CFが弱含みで推移している点は留意が必要である。この前提を踏まえて、現在の価格(2,357.0円)から今後5年間の株価を良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで想定する。
良い場合のシナリオでは、扶桑薬品工業の主力である透析関連製品の需要が安定的に推移し、供給体制の強化やコスト改善策が実を結ぶ展開を想定する。人工腎臓用透析剤・補液は慢性疾患向けで高い需要安定性があり、高付加価値製品や製造受託の伸長が利益率の改善につながるとする。この場合、営業利益率やROE、ROAが改善基調を維持し、業績全体の信頼感が高まる。市場はこうした安定成長と収益性改善を評価し、PERが13〜17倍程度に上昇し、PBRも0.7倍台後半〜1倍程度で推移すると想定する。この前提で5年後の株価水準は3,000円から3,500円程度に達し、現在値から堅調な上昇が期待できる強気のシナリオとなる。
中間のシナリオでは、売上は安定的に伸びるものの、利益率の改善は限定的であり、営業利益率は一貫して低い水準での推移が続くケースを想定する。透析関連製品や輸液・注射剤の需要は堅調だが競争や薬価改定など外部環境の影響もあり、営業利益率やROEの改善は緩やかになる。市場評価は安定企業としてPER 10〜13倍、PBR 0.5〜0.7倍程度で推移するとする。この場合、5年後の株価は2,200円から2,800円程度と現在値付近でのレンジ推移となり、値上がり益は限定的だが大幅な下落リスクも抑えられる中立的シナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、透析関連製品や輸液の収益が想定よりも伸び悩み、特に利益率が改善しないまま純利益がさらに不安定化する展開を想定する。営業利益率やROE、ROAが低迷したままとなり、業績に対する市場の評価が弱含むと、PERは8〜10倍程度、PBRは0.4倍前後まで低下する可能性がある。この場合、5年後の株価水準は1,600円から2,000円程度にとどまり、現在値を下回る弱気シナリオとなる。配当利回りは相対的に高めに見えるが、株価下落リスクが値動き全体を支配する展開になる。
総合すると、現在株価2,357.0円を起点とした扶桑薬品工業の5年間の値動きは、良い場合で3,000円から3,500円前後、中間で2,200円から2,800円程度、悪い場合で1,600円から2,000円程度というレンジが想定される。配当は安定的に受け取りやすいものの、値動きは業績の収益性改善と市場評価の変化に大きく左右されるため、短期の値上がり狙いよりも、基礎的医薬品の安定性と配当を重視した中長期の投資スタンスと相性の良い銘柄である。
この記事の最終更新日:2025年12月24日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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