株価
キッセイ薬品工業とは

キッセイ薬品工業株式会社は、長野県松本市芳野に本社を置く日本の中堅医薬品メーカーである。1946年8月9日、株式会社橘生化学研究所として創業し、戦後の医薬品不足を背景に事業を拡大してきた。現在は東京証券取引所プライム市場に上場している。
同社は医療用医薬品を中核とする研究開発型製薬企業であり、重点領域を泌尿器、腎・透析領域、ならびにアンメットメディカルニーズ、すなわち未だ十分な治療法が確立されていない疾患領域に置いている。大手製薬会社のように幅広い疾患領域を網羅するのではなく、専門性の高い分野に経営資源を集中させる戦略を取っている点が特徴である。
主力製品には、前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬のユリーフ、慢性腎臓病や透析患者向けの高リン血症治療薬ピートル、気管支ぜんそく治療薬ドメナン、アレルギー性疾患治療薬リザベン、糖尿病治療薬グルファストおよびグルベス、高脂血症治療薬ベザトール、切迫早産・流産治療薬のウテメリン注・錠、口腔乾燥症改善薬サラジェン錠などがある。泌尿器・腎領域を軸にしつつ、代謝系やアレルギー領域にも一定の製品群を持つ構成となっている。
一方で、同社は主軸製品の特許切れという課題にも直面しており、従来製品に代わる新たな収益の柱の育成が経営上の重要テーマとなっている。そのため、自社創製品の研究開発に加え、海外企業への導出や共同開発を通じて、開発リスクを抑えつつパイプラインの価値最大化を図る戦略を取っている。海外市場については自社販売よりも導出を中心とした間接的な展開が主体であり、グローバル大手とは異なる慎重な海外戦略が特徴である。
研究開発体制としては、長野県安曇野市に中央研究所および製剤研究所を構え、基礎研究から製剤開発までを自社で行う体制を整えている。製造についても国内拠点を中心とし、品質管理や安定供給を重視している点は中堅製薬会社らしい堅実な姿勢といえる。
近年では、医薬品事業に加えてヘルスケア事業にも取り組んでいる。ヘルスケア事業部を中心に、たんぱく質を調整した炊飯用・無洗米の「キッセイゆめシリーズ」を展開し、腎疾患患者や高齢者、介護分野を対象とした治療用特殊食品事業に参入している。これは医療と生活の両面から患者を支える取り組みであり、医薬品事業の補完的な位置付けとなっている。
総合すると、キッセイ薬品工業は、泌尿器・腎・透析領域を中核とする研究開発型の中堅製薬会社であり、主力製品の特許切れという構造的課題を抱えつつも、未充足医療分野への新薬開発と海外導出、ヘルスケア事業の育成を通じて次の成長軸を模索している企業である。大きな成長を狙う拡大型企業というよりも、専門領域に根差した堅実経営と次世代パイプラインの成否が将来を左右するタイプの製薬会社と位置付けられる。
キッセイ薬品工業 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(円) | 一株当り配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021.3 | 69,044 | 1,505 | 3,476 | 5,285 | 113.3 | 54 |
| 2022.3 | 65,381 | -1,402 | 562 | 12,921 | 280.2 | 56 |
| 2023.3 | 67,493 | -1,129 | 598 | 10,528 | 228.3 | 80 |
| 2024.3 | 75,579 | 4,017 | 6,142 | 11,160 | 246.6 | 82 |
| 2025.3 | 88,330 | 5,773 | 6,974 | 11,961 | 274.2 | 100 |
| 2026.3(予) | 95,500 | -2,600 | -1,100 | 12,700 | 306.4 | 120 |
| 2027.3(予) | 101,200 | 6,400 | 7,900 | 12,300 | 296.7 | 120~122 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2023.3 | -6,679 | 6,001 | -3,420 |
| 2024.3 | -1,677 | 8,690 | -10,006 |
| 2025.3 | 6,521 | 4,952 | -9,325 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.3 | -1.7% | 5.4% | 4.7% | ― | ― |
| 2024.3 | 5.3% | 5.0% | 4.2% | ― | ― |
| 2025.3 | 6.5% | 5.7% | 4.9% | ― | 0.90倍 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
売上高は2024年3月期で755億円、2025年3月期で883億円、2026年3月期予想で955億円と、ここ数年ははっきりとした増加基調にある。中堅製薬会社として見ると、事業規模は着実に拡大しており、トップライン自体は堅調に伸びていると言える。
一方で利益の中身を見るとやや不安定さが目立つ。営業利益は2024年に40億円、2025年に57億円と黒字を確保しているものの、2026年予想では-26億円と再び赤字に転じる見通しである。経常利益も2024年61億円、2025年69億円から、2026年は-11億円と赤字化が見込まれている。営業段階・経常段階では利益の振れが大きく、事業そのものの収益力が安定しているとは言い難い。一方で純利益は2024年111億円、2025年119億円、2026年予想127億円と一貫して高水準を維持しており、営業外収益や一時的要因の寄与が大きい収益構造であることが数字から読み取れる。
収益性を見ると、営業利益率は2023年-1.7%から2024年5.3%、2025年6.5%と改善してきてはいるものの、依然として一桁台にとどまっている。ROEは2023年5.4%、2024年5.0%、2025年5.7%と大きな上昇は見られず、資本効率は低めで推移している。ROAも4%台前後で安定しており、資産を活用して高いリターンを生み出している状態ではない。全体として、収益性や効率性は底打ちから持ち直しつつあるが、評価を引き上げるほどの水準には達していない。
株価評価の面では、2025年は実績PERが算出できず、利益成長を基準とした評価が難しい状況にある。一方でPBRは0.9倍と1倍を下回っており、資産価値の観点では市場から慎重に評価されている状態と言える。高い成長期待や高収益性が織り込まれているわけではなく、現状の業績水準を踏まえた控えめな評価にとどまっている。
これらを総合すると、キッセイ薬品工業は売上規模は順調に拡大しているものの、営業利益と経常利益の安定性に課題を残しており、事業の稼ぐ力が十分に確立された段階にはない。一方で純利益は高水準を維持しており、財務的な余力や構造的な下支えは感じられる。投資対象としては、高成長や高収益を期待して積極的に評価する局面ではなく、PBR1倍割れによる下値の限定性を意識しつつ、営業利益率やROEが継続的に改善していくかを見極めながら慎重に向き合うタイプの銘柄、という位置付けになる。
配当目的とかどうなの?
配当目的としてどうかを見る。予想配当利回りは2026年3月期、2027年3月期ともに2.58%と、水準としては市場平均並みからやや低めであり、インカム投資を主目的とするには強い魅力がある数字とは言いにくい。
業績面を見ると、売上は増加基調にあるものの、営業利益と経常利益は年によって振れが大きく、2026年は営業赤字・経常赤字が予想されている。一方で純利益は高水準を維持しており、これが配当の原資となっているが、事業そのものの稼ぐ力が安定して配当を支えている構造とは言い難い。ROEも5%前後にとどまり、資本効率の高さを背景にした配当余力が十分とは言えない状況である。
そのため、配当利回り2.58%は「業績の成長に伴って自然に積み上がった配当」というより、「配当水準を一定程度維持している結果としての利回り」と見るのが妥当である。今後、営業利益率やROEが明確に改善していけば配当の安定性や増配余地も見えてくるが、現時点ではそこまでの確信は持ちにくい。
結論として、キッセイ薬品工業は高配当株や安定インカム株として積極的に選ぶタイプの銘柄ではない。配当を主目的に長期保有するにはやや物足りず、配当はあくまで副次的な要素と捉え、事業の立て直しや新たな収益柱の育成が進むかどうかを見守りながら保有を検討する銘柄、という位置付けになる。
今後の値動き予想!!(5年間)
キッセイ薬品工業は現在株価4,635.0円を基準に見ると、医薬品中堅として専門領域を持つものの、営業利益や経常利益の安定性に波があるため、配当や値上がりを狙うには業績回復の持続性が重要となる銘柄である。直近では営業利益の変動が見られ、利益体質の改善過程にあると評価されるが、成長鈍化や構造的な収益改善の遅れが株価に影響し得る。この前提を踏まえて、現在の価格(4,635.0円)から今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、主力となる泌尿器、腎・透析領域やアンメットメディカルニーズ領域での新製品が想定以上の市場評価を受ける展開を想定する。特に特許切れ製品の収益回復策が実を結び、営業利益率が改善しROEも5%台から7〜8%前後へと上昇することで、業績全体の安定性が増す。この場合、市場は同社を「収益体質改善の進んだ専門領域製薬」として評価し直し、PERは10〜15倍程度、PBRも市場期待を反映して1倍台後半まで引き上げられる可能性がある。この前提で5年後の株価水準は6,000円から7,000円程度が一つの目安となり、現在値から堅調な上昇が見込める強気シナリオとなる。
中間のシナリオでは、売上は緩やかに増加するものの、新製品の寄与や利益率の改善は限定的なままという想定である。営業利益率やROEは若干の改善は見られるものの大きく飛躍せず、営業利益・経常利益は概ね黒字を維持しつつも一時的な減益局面を繰り返す。この場合、PERは8〜12倍程度、PBRは1倍前後で推移し、株価は4,000円から5,000円台半ば程度のレンジでの推移が中心となる。配当利回りは2%台前半で維持されるものの、株価の値上がりは緩やかにとどまる中立的シナリオである。
悪い場合のシナリオでは、新製品の導入が期待されたほどの市場評価を得られず、薬価改定や競合薬の影響もあって利益率が低迷する展開を想定する。営業利益や経常利益は黒字ではあるものの低水準での維持にとどまり、ROE・ROAも改善が見られないため市場評価は後退する。この場合、PERは6〜8倍程度に低下し、PBRも0.8倍前後まで下落する可能性がある。5年後の株価水準は3,000円から3,800円程度にとどまり、現在値を大きく下回る弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価4,635.0円を起点としたキッセイ薬品工業の5年間の値動きは、良い場合で6,000円から7,000円前後、中間で4,000円から5,500円程度、悪い場合で3,000円から3,800円程度といったレンジが想定される。配当利回りは一定水準あるものの、値動きは業績改善の確度と市場評価の変化に大きく左右されるため、配当目的というよりも業績回復の持続性を見極めながら中期的な値上がりを狙う投資と相性の良い銘柄と評価できる。
この記事の最終更新日:2025年12月25日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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