株価
富士製薬工業とは

富士製薬工業株式会社は、女性医療分野に強みを持つ医療用医薬品メーカーで、後発医薬品を基盤としながら新薬やバイオシミラーへと事業の軸足を広げているスペシャリティファーマである。本社は東京都千代田区に置き、富山県富山市水橋に工場および研究開発拠点を構え、国内各地に支店網を持つほか、子会社を通じて海外展開も進めている。
1965年の設立以来、医療用医薬品の開発、製造、販売を一貫して行ってきた企業であり、従来はジェネリック医薬品メーカーの一角として位置づけられてきた。近年は単なる後発薬供給にとどまらず、注力領域を明確にした事業戦略へと転換を進めている点が特徴となっている。
中核となるのが女性医療領域である。1970年代から女性医療に取り組み、月経困難症、子宮内膜症、妊娠・出産、更年期障害など、女性の一生涯に寄り添う医薬品を幅広く展開してきた。特に製造管理が難しいホルモン剤の分野に長年取り組んできた実績があり、現在では女性医療領域における取り扱い品目数は国内トップクラスに位置している。市場規模が比較的小さく参入企業が限られる分野で、未充足ニーズに応え続けてきた点が同社の大きな強みとなっている。
事業のもう一つの柱がバイオシミラー、いわゆるバイオ後続品である。2018年以降、アイスランドのAlvotech社と独占的なパートナーシップを結び、日本国内におけるバイオシミラーの開発と販売を強化している。先行バイオ医薬品と同等の品質、安全性、有効性を持つ医薬品を提供することで、患者の経済的負担軽減や医療費の適正化に貢献することを目指している。
生産体制面では、富山工場とタイにあるグループ会社OLICを中核とした2拠点体制を構築している。無菌製剤や高活性医薬品など、参入障壁の高い製剤の製造に強みを持ち、特に女性医療で用いられるホルモン剤については、特殊設備と高度な製造技術を背景に安定した生産基盤を確立している。OLIC社との連携により、国内にとどまらないグローバルな製造受託、いわゆるグローバルCMO事業の展開も進めている。
研究開発面では、富山研究開発センターと東京本社を中心に、新薬、バイオシミラー、ジェネリック医薬品といった枠組みにとらわれない幅広い開発を行ってきた。後発医薬品メーカーから、新薬やバイオ医薬品分野へとシフトを進めている点は、同社の中長期戦略を考えるうえで重要なポイントとなる。
全体として富士製薬工業は、女性の健康課題と医療費増大という二つの社会課題に正面から取り組む製薬会社であり、女性医療という専門性の高い領域を軸に、後発薬、新薬、バイオシミラーを組み合わせた独自の事業ポートフォリオを構築している。派手な規模拡大よりも、参入障壁の高い分野での技術力と実績を積み重ねながら、国内外で持続的な成長を目指す企業と位置づけられる。
富士製薬工業 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(円) | 一株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連21.9 | 33,990 | 3,349 | 3,250 | 2,432 | 90.5 | 29 |
| 連22.9 | 35,426 | 3,777 | 3,725 | 2,696 | 111.0 | 35 |
| 連23.9 | 40,889 | 3,858 | 4,519 | 3,435 | 141.4 | 37 |
| 連24.9 | 46,138 | 3,880 | 4,445 | 6,146 | 252.9 | 42.5 |
| 連25.9 | 51,677 | 4,990 | 4,459 | 3,000 | 122.9 | 45.5 |
| 連26.9予 | 57,500 | 5,520 | 5,240 | 3,810 | 155.8 | 47 |
| 連27.9予 | 63,200 | 6,100 | 5,820 | 4,200 | 171.7 | 47〜51 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(百万円) | 営業CF | 投資CF | 財務CF |
|---|---|---|---|
| 2023 | 1,917 | -5,240 | 1,915 |
| 2024 | 4,151 | -1,658 | -435 |
| 2025 | 5,801 | -4,219 | 954 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROA | ROE | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 9.4% | 4.0% | 8.3% | – | – |
| 2024 | 8.4% | 6.8% | 13.4% | – | – |
| 2025 | 9.6% | 3.2% | 6.3% | 11.3(高)/8.2(安) | 0.98 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず利益の水準と推移を見ると、売上の拡大に合わせて営業利益は24.9期の38億円から25.9期に49億円、26.9期予では55億円へと順調に増加している。営業面では着実に規模が拡大しており、本業の稼ぐ力そのものは安定していると見てよい。一方で、純利益は24.9期の61億円から25.9期に30億円へ大きく落ち込み、その後26.9期予で38億円まで回復する見通しとなっている。営業利益が伸びている割に純利益が大きく振れており、一時要因や会計上の影響を受けやすい構造であることがうかがえる。
収益性を見ると、営業利益率は2023年から2025年にかけて9.4%、8.4%、9.6%と9%前後で推移しており、製薬会社としては比較的安定した水準にある。大きな悪化は見られず、事業自体の収益力は一定水準を保っていると評価できる。一方で、ROEとROAは振れが大きい。ROEは8.3%から13.4%まで上昇した後、6.3%まで低下しており、ROAも6.8%から3.2%へと下がっている。資本効率や資産効率は安定して高いとは言いにくく、利益変動の影響を受けやすい点は弱みといえる。
次にバリュエーションを見ると、2025年の実績PERは高値平均11.3倍、安値平均8.2倍とかなり低い水準にある。PBRも0.9倍台で、解散価値に近い評価にとどまっている。これは市場が同社を高成長企業として評価しておらず、業績のブレや将来の不確実性を割り引いて見ていることを示している。一方で、営業利益率が9%台で維持されていることを考えると、現在の評価は過度に楽観的ではなく、むしろ慎重寄りといえる。
これらを総合すると、富士製薬工業は本業の営業面では堅実に成長しているが、純利益やROE、ROAにブレがあり、収益の質や安定性には課題が残る企業といえる。一方で、PERやPBRは低水準で、期待が過度に織り込まれていないため、評価面での下値不安は比較的小さい。
投資判断としては、高い成長や大きな株価上昇を前提に積極的に買う銘柄ではないが、営業利益が安定して伸びる前提が続くなら、割安圏で放置されやすいタイプの銘柄といえる。業績が大きく崩れなければ下値は比較的堅く、価格水準次第では中長期でじっくり持つ投資には向くが、短期間での派手なリターンを狙う銘柄ではない、という評価になる。
配当目的とかどうなの?
まず予想配当利回りを見ると、連26.9、連27.9ともに2.49%となっており、水準としては中間的からやや低めに位置する。一般に配当を主目的とする投資では、3%台以上が一つの目安になりやすいため、この利回りだけを見ると高配当株とは言えない。インカムゲインを主軸に据える投資家にとっては、決して魅力が強い数字ではない。
一方で、配当の持続性という観点では一定の安心感はある。営業利益は拡大基調にあり、営業利益率も9%前後で安定している。営業面での収益力が比較的しっかりしているため、無理をして配当を出している印象はなく、現在の水準であれば維持可能性は高いと考えられる。実際、配当額も年々緩やかに増加しており、急な減配を前提に考える局面ではない。
ただし、ROEやROAを見ると振れが大きく、純利益も期によって変動が目立つ。こうした点を踏まえると、配当を積極的に引き上げていく余地は大きくなく、今後も利回りは2%台後半程度にとどまる可能性が高い。企業としては、配当よりも研究開発や事業拡大、新薬やバイオシミラーへの投資を優先するフェーズにあると見るのが自然だ。
結論として、富士製薬工業は配当目的だけで買う銘柄ではない。利回り2.49%はインカム投資の主力にはなりにくい。一方で、営業利益が安定して伸びている前提が続くなら、配当をもらいながら中長期で保有する補助的な配当銘柄としては成立する。高配当を狙う投資よりも、業績の安定と割安な評価を背景に、値動きと配当の両方を緩やかに期待する投資と相性が良い銘柄、という位置づけになる。
今後の値動き予想!!(5年間)
富士製薬工業について、現在株価1,886円前後を基準に見ると、安定配当を前面に押し出した高配当株というよりは、女性医療領域を軸に後発医薬品から新薬、バイオシミラーへと事業構造の転換を進めている中堅製薬会社と位置づけられる。従来はジェネリック医薬品を収益基盤としてきたが、近年は女性医療分野での専門性の高さや、バイオシミラーの育成、さらに子会社を通じた海外展開など、中長期的な成長を意識した取り組みが目立つ。
一方で、純利益やROE、ROAは年度による振れが大きく、収益の安定性という点ではまだ途上段階にある。配当は増配基調で利回りは2%台後半と一定の水準を確保しているものの、投資リターンは配当よりも業績の伸びと評価水準の変化に左右されやすい構造になっている。この前提を踏まえて、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、女性医療領域での製品群が安定的に成長し、加えてバイオシミラーが徐々に収益の柱として立ち上がる展開を想定する。営業利益率は9%台を維持しつつ、純利益のブレが小さくなり、ROEやROAも安定的に改善していく。この場合、市場は同社を単なるジェネリックメーカーではなく、専門性を持った安定成長型のスペシャリティファーマとして再評価しやすくなる。PERは現状の低水準から12倍前後まで許容され、PBRも1倍台前半で安定する可能性がある。業績成長と評価の見直しが重なれば、株価は段階的に切り上がり、5年後には3,000円から3,500円程度を目指す展開が考えられる。これは事業転換が順調に進んだ場合の強気寄りのシナリオになる。
中間のシナリオでは、女性医療は底堅く推移するものの、バイオシミラーや新薬の成長は緩やかにとどまり、利益の振れも一定程度残るケースを想定する。営業利益率は8〜9%前後で安定し、ROEやROAも中程度の水準にとどまる。この場合、市場評価は大きく変わらず、PERは8〜10倍、PBRは1倍前後で推移しやすい。株価は業績に応じて上下しながらも明確な上昇トレンドは出にくく、5年後の水準は2,200円から2,800円程度と、現在値から緩やかな上昇にとどまる中立的なシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、バイオシミラーの立ち上がりが遅れ、女性医療分野でも競争が激化し、売上は伸びても利益が伴わない状況が続くケースを想定する。営業利益率は8%を下回り、ROEやROAも低迷したままとなり、収益の不安定さが意識される。この場合、市場の評価は一段と慎重になり、PERは8倍を割り込み、PBRも1倍を下回る可能性がある。配当利回りは一定水準を保っても、下値を強く支える材料にはなりにくく、株価は評価調整を受けやすい。5年後には1,400円から1,800円程度にとどまる弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価1,886円を起点とした富士製薬工業の5年間の値動きは、良い場合で3,000円から3,500円前後、中間で2,200円から2,800円、悪い場合で1,400円から1,800円といったレンジが想定される。配当利回りは安定しているものの高配当株とは言いにくく、投資妙味はインカムよりも、女性医療やバイオシミラーを軸とした事業成長が評価に反映されるかどうかにかかっている。高成長株ではないが、事業転換の進展を信じて中長期で値上がりを狙う投資と相性の良い銘柄、という評価になる。
この記事の最終更新日:2025年12月25日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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