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杏林製薬とは

杏林製薬は、日本の医療用医薬品を中心とする中堅製薬会社で、派手な成長や大型M&Aを繰り返すタイプではなく、特定領域に強みを持ちながら国内市場で着実に事業を積み上げてきた企業である。一般にはカタカナ表記のキョーリン製薬として知られており、現在は持株会社体制を経て、事業会社として再編された法人が医薬品事業を担っている。コーポレートメッセージは「健康はキョーリンの願いです。」で、研究開発から営業活動まで一貫して医療現場への実直な貢献を重視する姿勢がうかがえる。
事業の中心は医療用医薬品で、特にぜんそくやCOPDなどの呼吸器疾患、アレルギー疾患の分野に長年の強みを持つ。フルティフォーム、エクリラ ジェヌエア、キプレス、ケタスといった製品は、呼吸器内科や耳鼻科領域で広く使われており、同社の売上を支える柱となっている。これらの領域は季節性の影響を受けやすく、花粉症や感染症が増える時期に処方が増えるため、売上は下期に比重がかかりやすい構造になっている。この点は、業績の季節変動という弱点である一方、毎年一定の需要が見込める安定要因でもある。
一方で、呼吸器領域への依存度が高すぎることへの対応として、消化器領域の育成にも力を入れてきた。アプレースやペンタサなど、慢性疾患向けの消化器系医薬品は、長期処方が前提となるため、収益の安定化に寄与しやすい。加えて、合成抗菌剤を得意としてきた歴史があり、バクシダールやベストロンといった感染症関連製品も、病院・診療所で一定の存在感を保っている。こうした複数領域の組み合わせによって、特定製品への依存リスクを分散させている点が、杏林製薬の事業構造の特徴といえる。
研究開発は、栃木県野木町にあるわたらせ創薬センターを中核拠点として行われている。創薬ベンチャーのように一発逆転を狙う大型新薬を次々と投入するスタイルではなく、重点領域を絞り込み、医療現場での実用性や安全性を重視した堅実な研究開発を行っている。自社創製に加えて、他社からの導入や共同開発も活用し、開発リスクを抑えながらパイプラインを維持している点は、典型的な中堅製薬会社の戦略といえる。
グループ戦略の面では、後発医薬品を担うキョーリンリメディオの存在が重要である。先発医薬品だけに依存せず、ジェネリック医薬品事業を組み合わせることで、医療費抑制の流れにも対応しつつ、グループ全体の収益安定性を高めている。また、製造機能についてもグループ内に工場会社を持ち、品質管理と安定供給を重視した体制を構築している。
販売体制は非常に国内密着型で、本社は東京都千代田区に置きつつ、全国9支店、85営業所という細かなネットワークを展開している。医薬情報担当者による直販体制を基本とし、医師や薬剤師との関係性、情報提供を重視する営業スタイルは、同社の製品特性とも相性が良い。海外展開については限定的で、事業の主戦場はあくまで日本国内に置かれている点も、グローバル志向の製薬企業とは異なる特徴である。
さらに、医療用医薬品に加えて、OTC医薬品や衛生関連製品も手掛けている。クールワンシリーズは去たん薬やせき止めとして一定の認知度を持ち、ミルトンブランドは哺乳瓶や器具の消毒剤として長年にわたり安定した需要を誇っている。これらのヘルスケア製品は、医療用医薬品とは異なる収益源として、景気や医療制度変更の影響を受けにくい補完的な役割を果たしている。
総合すると杏林製薬は、ぜんそく・呼吸器アレルギー薬を軸に、消化器、感染症、後発医薬品、OTCまで幅広く事業を展開する中堅医薬品メーカーである。高成長や株価の爆発力を狙うタイプの企業ではないが、特定領域における実績と国内密着型の営業体制、堅実な研究開発を背景に、安定した事業基盤を築いてきた。医療制度や市場環境が大きく変化しない限り、大崩れしにくい一方で、成長スピードは緩やかという性格を持つ企業であり、日本の中堅製薬会社らしさが強く表れた存在だといえる。
杏林製薬 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益(円) | 一株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連21.3 | 102,904 | 5,786 | 6,447 | 6,130 | 107.0 | 75 |
| 連22.3 | 105,534 | 5,007 | 5,569 | 3,932 | 68.6 | 52 |
| 連23.3 | 113,270 | 5,123 | 5,827 | 4,723 | 82.4 | 52 |
| 連24.3 | 119,532 | 6,013 | 6,602 | 5,322 | 92.7 | 52 |
| 連25.3 | 130,087 | 12,567 | 13,219 | 9,086 | 158.2 | 57特 |
| 連26.3予 | 127,000 | 6,100 | 6,300 | 5,000 | 87.0 | 57 |
| 連27.3予 | 132,000 | 6,400 | 6,600 | 5,000 | 87.0 | 57 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期(単位百万) | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 4.5% | 3.7% | 2.6% | – | – |
| 2024 | 5.0% | 4.0% | 2.9% | – | – |
| 2025 | 9.6% | 6.6% | 4.6% | 18.4(高)/15.5(安) | 0.64 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 決算期 | 営業利益率 | ROA | ROE | PER(倍) | PBR(倍) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 4.5% | 2.6% | 3.7% | – | – |
| 2024 | 5.0% | 2.9% | 4.0% | – | – |
| 2025 | 9.6% | 4.6% | 6.6% | 18.4(高)/15.5(安) | 0.64 |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず規模と利益の推移を見ると、24.3期の売上高は約1,195億円、営業利益は60億円、経常利益は66億円、純利益は53億円と、売上規模に対して利益水準はやや低めだが、安定した黒字を確保している。25.3期は売上高が約1,300億円まで拡大し、営業利益は125億円、経常利益は132億円、純利益は90億円と大きく伸びており、この年は一時的に収益性が大きく改善している。一方、26.3期予想では売上高は約1,270億円とやや減少し、営業利益61億円、経常利益63億円、純利益50億円と、利益水準は24.3期に近い水準へ戻る想定になっている。25.3期は収益面でピーク感があり、26.3期以降は平常運転に戻る構図といえる。
収益性指標を見ると、営業利益率は2023年4.5%、2024年5.0%、2025年9.6%と改善傾向にあるが、25.3期の9.6%は一段高い水準で、継続性には注意が必要である。ROEは3.7%、4.0%、6.6%、ROAは2.6%、2.9%、4.6%と、いずれも緩やかに改善しているものの、製薬業界全体で見ると依然として高い水準とは言えない。資本効率や資産効率は改善しているが、まだ中堅製薬として控えめな水準にとどまっている。
バリュエーション面では、2025年実績PERは高値平均18.4倍、安値平均15.5倍で、成長株というよりは安定株として妥当からやや控えめな評価といえる。PBRは0.6倍と1倍を明確に下回っており、資産価値に対して市場評価は低めで、成長期待はあまり織り込まれていない。高収益を長期にわたって伸ばす企業というより、安定収益を前提とした評価に近い。
これらを総合すると、杏林製薬は売上規模1,000億円超の中堅製薬として、安定した黒字と一定の利益を確保できる体質を持つ一方、ROEやROAが示すように資本効率は高くなく、急成長を期待する局面ではない。25.3期の大幅な利益増は評価できるが、26.3期予想を見る限り、その水準が定着する前提で投資判断をするのは慎重であるべきだろう。
投資判断としては、杏林製薬は高い成長や株価の急拡大を狙う銘柄ではなく、PBR0.6倍という割安感と、一定の利益を安定的に出せる点をどう評価するかがポイントになる。業績が横ばいでも大きく崩れにくい一方で、ROEが一桁台にとどまる限り、市場評価が大きく切り上がる可能性は限定的である。したがって、成長期待よりも安定性と割安感を重視する投資と相性が良い一方、株価の大幅な上昇を狙う投資にはやや物足りない銘柄、という評価になる。
配当目的とかどうなの?
まず予想配当利回りを見ると、連26.3、連27.3ともに3.70%と、医薬品セクターの中では比較的はっきりした高めの水準に入っている。一般に配当目的での一つの目安とされる3%を明確に上回っており、インカム狙いの投資対象としては十分に検討に値する数字である。
配当の裏付けとなる収益力を見ると、26.3期予想では純利益50億円規模を確保する想定で、営業利益、経常利益ともに黒字を維持している。25.3期の利益水準からはやや落ち着くものの、事業が赤字に転落するような兆しはなく、配当を継続するための最低限の稼ぐ力は備えているといえる。営業利益率やROE、ROAは高水準とは言えないが、安定的に改善してきており、配当を無理にひねり出している印象は薄い。
また、PBRが0.6倍台と低く、成長期待が強く織り込まれていない点も、配当目的という観点ではプラスに働く。株価が将来の高成長を前提に過度に割高になっている状態ではなく、業績が大きく変わらなければ、配当利回りが急低下するリスクは相対的に小さい。配当を軸にした保有であれば、株価の変動よりもインカムを重視する姿勢と相性が良い。
一方で注意点として、ROEが一桁台にとどまっていることから、配当の大幅な増配を継続的に期待する銘柄ではない。25.3期のような利益の跳ね上がりが常態化しない限り、配当は現水準を維持する安定配当型に近く、毎年大きく積み上がっていくタイプではないと考えられる。
総合すると、杏林製薬は配当目的としては十分に成立する銘柄であり、特に3.7%前後の利回りを安定的に受け取りたい投資には向いている。一方で、配当と同時に大きな株価成長や連続的な増配を狙う投資とはやや相性が異なる。高成長株ではなく、業績の安定性と比較的高めの配当利回りを評価して、中長期でインカムを取りにいく投資と相性の良い銘柄、という位置づけになる。
今後の値動き予想!!(5年間)
杏林製薬について、現在株価1,537円前後を基準に見ると、急成長や高い資本効率を前面に押し出す成長株というよりは、呼吸器・アレルギー領域を中心とした医療用医薬品を軸に、国内市場で安定的に収益を積み上げてきた中堅医薬品メーカーと位置づけられる。ぜんそく薬やCOPD治療薬といった主力製品は下期に売上比重が高まる季節性を持つものの、長年の処方実績があり、需要の急変が起こりにくい。
一方で、消化器領域や後発医薬品、OTC製品の育成も進めており、事業ポートフォリオの分散によって全体の安定性を高めている。直近では営業利益率やROE、ROAが緩やかに改善しているものの、依然として高水準とは言えず、稼ぐ力は堅実だが突出して強い段階にはない。配当利回りは3%台後半と比較的高く、投資リターンは値上がりよりも配当の比重が大きい構造になっている。この前提を踏まえて、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、呼吸器・アレルギー薬の安定需要が継続する中で、消化器領域や後発医薬品、ヘルスケア製品が着実に収益に寄与し、利益水準が底堅く推移する展開を想定する。営業利益率は一時的な上下はあっても8%前後を維持し、ROEやROAも中期的に改善基調を続ける。この場合、市場は杏林製薬を安定配当を伴うディフェンシブな医薬品株として再評価しやすくなり、PERは15〜18倍程度、PBRも1倍前後まで許容される可能性がある。配当を受け取りながらの評価見直しが進めば、株価は緩やかに切り上がり、5年後には2,000円から2,400円程度を目指す展開が考えられる。これは事業基盤の安定性とインカム価値が評価された場合の強気寄りシナリオである。
中間のシナリオでは、主力の呼吸器領域は底堅いものの、新規領域の成長は限定的で、利益率や資本効率も現状水準で推移するケースを想定する。営業利益率は6〜7%前後、ROEやROAも一桁台にとどまり、大きな改善も悪化も起こらない。この場合、市場評価は現在と大きく変わらず、PERは15倍前後、PBRは1倍をやや下回る水準で安定しやすい。株価は配当を下支えにしつつも大きなトレンドは出にくく、5年後の水準は1,700円から1,900円程度と、現在値から小幅な上昇にとどまる中立的なシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、薬価改定や競争激化により主力製品の収益性が低下し、消化器や後発医薬品の育成も想定ほど進まないケースを想定する。営業利益率は5%を下回り、ROEやROAも低迷したままとなり、稼ぐ力に対する市場の評価は慎重になる。この場合、PERは13倍前後まで切り下げられ、PBRも0.8倍程度まで低下する可能性がある。配当は維持されても評価面での調整が進み、株価は伸び悩み、5年後には1,100円から1,300円程度にとどまる弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価1,537円を起点とした杏林製薬の5年間の値動きは、良い場合で2,000円から2,400円前後、中間で1,700円から1,900円、悪い場合で1,100円から1,300円といったレンジが想定される。配当利回りは比較的高く安定しているため、投資妙味は値上がりよりもインカムに重心がある。高成長を狙う銘柄というより、業績の大崩れが起きにくい前提で配当を受け取りながら、緩やかな評価変化を期待する中長期投資と相性の良い銘柄、という評価になる。
この記事の最終更新日:2025年12月25日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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