株価
refreshToken未設定DICとは

DICは、印刷インキで世界首位のシェアを持ち、樹脂や機能性顔料にも強みを持つ総合化学メーカーである。東京都中央区日本橋に本社を置き、登記上の本店は東京都板橋区に所在している。1908年に印刷インキメーカーとして創業し、長年にわたり色材と高分子技術を中核に事業を拡大してきた。2008年には社名を大日本インキ化学工業株式会社からDIC株式会社へ変更している。
同社の事業の出発点は印刷インキであり、現在もパッケージ用、出版用、商業印刷用など幅広い用途で世界トップクラスのシェアを維持している。印刷インキの基礎素材である有機顔料や合成樹脂の内製技術を強みに、インキ単体にとどまらず、素材から加工品までを一貫して提供できる点が特徴となっている。有機顔料分野では自動車、工業、プラスチック用途など高い耐久性や色再現性が求められる分野で強い競争力を持つ。
樹脂分野では、PPSコンパウンドをはじめとする高機能樹脂に強みを持ち、自動車や電気電子部品など高付加価値用途向けの展開を進めている。アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素化学品など、製品群は非常に幅広く、用途も包装材、工業材料、建材、電子材料など多岐にわたる。化学とエレクトロニクスを融合させたケミトロニクス製品の育成にも注力しており、液晶材料や電子材料などの分野を成長領域として位置づけている。
事業構成としては、パッケージング&グラフィック、カラー&ディスプレイ、ファンクショナルプロダクツの3事業部門を軸に展開している。インクジェットインキ、機能性顔料、工業用粘着テープ、包装用接着剤、食品包装用フィルム、特殊磁気テープ、プラスチック成型品、中空糸膜モジュールなど、素材から最終製品に近い領域まで幅広くカバーしている点が特徴である。さらに、ヘルスケア分野ではスピルリナを中心とした健康食品事業も手掛けている。
海外展開にも早くから取り組んでおり、1986年に米国サンケミカル社のグラフィックアーツ材料部門を買収、1999年には仏トタルフィナ社のインキ部門を買収するなど、M&Aを通じてグローバル展開を加速させてきた。現在では世界60か国以上に約170社のグループ会社を持ち、売上の多くを海外市場で稼ぐ体制を構築している。
ブランド面では、日本トップシェアの色見本帳であるDICカラーガイドが、デザイン、グラフィック、ファッション、インテリアなど幅広い分野で標準的に使用されており、DICブランドの認知度を支えている。2016年にはブランドスローガンとして「Color & Comfort」を掲げ、企業ブランドの再構築を進めている。
社会的な取り組みとしては、健康経営にも力を入れており、DICおよびグループ会社は健康経営優良法人(ホワイト500)に継続的に認定されている。また、千葉県佐倉市ではDIC川村記念美術館を運営しており、企業の社会貢献活動の一環として文化・芸術の発信にも取り組んでいる。このようにDICは、世界首位の印刷インキを中核に、有機顔料、合成樹脂、電子材料、機能性製品へと事業を広げ、素材と技術を軸にグローバルで展開する化学メーカーとして位置づけられる企業である。
DIC 公式サイトはこちら直近の業績・指標
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 一株益 EPS(円) | 一株配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 連22.12 | 1,054,201 | 39,682 | 39,946 | 17,610 | 186.1 | 100 |
| 連23.12 | 1,038,736 | 17,943 | 9,216 | -39,857 | -421.1 | 80 |
| 連24.12 | 1,071,127 | 44,521 | 37,905 | 21,313 | 225.1 | 100 |
| 連25.12予 | 1,060,000 | 54,000 | 44,000 | 26,000 | 274.6 | 200(特) |
| 連26.12予 | 1,200,000 | 60,000 | 52,000 | 30,000 | 316.9 | 120〜130 |
出典元:四季報オンライン
キャッシュフロー
| 決算期 | 営業CF(百万円) | 投資CF(百万円) | 財務CF(百万円) |
|---|---|---|---|
| 2022.12 | 7,935 | -73,160 | 83,948 |
| 2023.12 | 89,095 | -66,457 | -2,920 |
| 2024.12 | 46,207 | -17,082 | -62,594 |
出典元:四季報オンライン
バリュエーション
| 年度 | 営業利益率 | ROE | ROA | PER(高値/安値平均) | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.12 | 1.7% | -11.0% | -3.3% | ― | ― |
| 2024.12 | 4.1% | 5.3% | 1.7% | 16.5倍/11.2倍 | 0.87倍 |
| 2025.12 | 5.0% | 6.4% | 2.1% | 13.91 | ― |
出典元:四季報オンライン
投資判断
まず業績の流れを見る。23.12期は売上高約1兆0387億円に対し、営業利益179億円、経常利益92億円、純利益-398億円と大きな最終赤字になっている。EPSも-421円で、収益構造が大きく崩れた年だったことが分かる。営業利益率は1.7%、ROEは-11.0%、ROAは-3.3%と、利益面・資本効率ともにかなり厳しい水準にあった。
24.12期になると状況は大きく改善し、売上高は約1兆0711億円、営業利益445億円、経常利益379億円、純利益213億円と黒字に回復している。営業利益率は4.1%まで上昇し、ROEは5.3%、ROAは1.7%とプラス圏に戻った。ただし、収益性や資本効率はまだ低く、完全な回復というよりは立て直しの途中段階という印象が強い。評価面では実績PERは高値平均16.5倍、安値平均11.2倍、実績PBRは0.8倍と1倍を下回っており、市場は慎重ながらも底入れを意識し始めた局面といえる。
25.12期予では、売上高約1兆0600億円、営業利益540億円、経常利益440億円、純利益260億円と、利益の積み上げが続く前提になっている。営業利益率は5.0%まで改善し、ROEは6.4%、ROAは2.1%と緩やかながら上向く見通しで、予想PERは13.9倍と24年実績レンジの中でも低めの水準に位置している。
26.12期予では、売上高が約1兆2000億円に拡大し、営業利益600億円、経常利益520億円、純利益300億円と回復基調が継続する想定になっている。ただし、営業利益率やROE、ROAの水準を見る限り、構造的に高収益企業へ変貌するというより、低収益体質から正常水準へ戻る過程と捉えるのが自然である。
以上の数値だけで判断すると、DICは23年に大きく業績を落とした後、24年に底打ちし、25年以降は回復・安定化に向かう局面にある銘柄といえる。一方で、営業利益率は5.0%程度、ROEも6%台にとどまり、資本効率はまだ高い水準とは言えない。
評価面では、PBRが0.8倍台と1倍割れ、予想PERも13倍台にとどまっており、成長期待が強く織り込まれている状態ではない。業績が計画どおり進めば見直し余地はあるが、利益率やROEの改善が止まれば評価の上振れは限定的になりやすい。総合すると、この銘柄は高成長株や高収益株ではなく、業績回復とバリュエーション修復を狙う回復局面型の銘柄という位置づけになる。安定的な高ROEや高利益率を期待する投資よりも、業績の正常化が続くかどうかを見極めながら中期的な評価改善を狙う投資に向いた銘柄だと判断できる。
配当目的とかどうなの?
予想配当利回りは25.12期で5.26%、26.12期で3.15%となっており、25.12期は日本株全体で見てもかなり高い水準に入る。一見すると高配当株として魅力的に見えるが、この利回りは業績回復局面における特別配当を含んだ水準であり、恒常的な配当力を示しているわけではない点には注意が必要になる。
実際、23.12期は純利益-398億円と大きな赤字でありながら配当は80円を維持しており、配当は業績と必ずしも連動していない。24.12期に213億円の黒字へ回復し、25.12期予では260億円まで利益が伸びる想定の中で、200円の特別配当が計画されているため、25.12期の利回り5.26%は「回復局面+一時的な還元強化」によって押し上げられた数字と見るのが自然である。
26.12期になると、予想配当利回りは3.15%まで低下しており、これがDICの平常時に近い配当水準と考えられる。営業利益率は5.0%程度、ROEも6.4%と、収益性や資本効率はまだ高いとは言えず、今後も毎年5%前後の高配当を安定的に出し続けられる体質とは言い切れない。
以上を数値だけで判断すると、DICは「恒常的な高配当株」ではなく、「業績回復局面で一時的に高配当が出るタイプ」の銘柄といえる。25.12期の5.26%は短期的な配当妙味としては魅力があるが、26.12期以降は3%前後に落ち着く可能性が高く、長期で配当だけを目的に保有するにはやや安定感に欠ける。
そのため投資判断としては、配当を主目的に長期保有する銘柄というより、業績回復とバリュエーション修復を狙いながら、回復局面の配当も受け取る中期目線向きの銘柄と位置づけるのが妥当だといえる。安定した高配当を最優先する投資には不向きだが、回復期のインカムとキャピタルの両取りを狙う投資とは相性が良い、という評価になる。
今後の値動き予想!!(5年間)
DICについて、現在株価3,802円前後を基準に見ると、急成長を狙うハイテク株やバイオ株ではなく、世界首位級の印刷インキを中核に、有機顔料や樹脂などの基盤素材を展開する景気循環型のグローバル素材メーカーと位置づけられる。23年に業績が大きく悪化した後、24年以降は回復局面に入り、現在は低収益体質からの立て直しと評価修復が同時に進んでいる段階にある。数値面では、23.12期は純利益-398億円、営業利益率1.7%、ROE-11.0%、ROA-3.3%と厳しい状況だったが、24.12期には純利益213億円へ黒字転換し、営業利益率4.1%、ROE5.3%、ROA1.7%まで回復している。
25.12期予では営業利益率5.0%、ROE6.4%、ROA2.1%と、改善基調が続く見通しになっている。ただし、依然として高収益企業と呼べる水準ではなく、あくまで正常化の途中段階といえる。評価面では、24年実績のPERは高値平均16.5倍、安値平均11.2倍、PBRは0.87倍と1倍割れ水準で、成長期待よりも回復評価が中心となっている。25年予想PERも13倍台とされており、割高感は小さいが、将来の高成長を織り込む局面でもない。この前提を踏まえ、今後5年間の値動きを良い場合、中間、悪い場合の3つのシナリオで考える。
良い場合のシナリオでは、世界経済の回復とともに包装材、工業用途、電子材料向けの需要が堅調に拡大し、DICが進めてきた構造改革と高付加価値製品へのシフトが成果を上げる展開を想定する。営業利益率は6%前後まで改善し、ROEも8%程度まで上昇する。PBRは1倍台へ回復し、PERも15倍前後が許容されるようになれば、評価修復と業績改善が重なり、株価は段階的に切り上がる。この場合、5年後には6,000円から7,500円程度を目指す展開が考えられる。回復銘柄から安定収益銘柄へと再評価されるシナリオになる。
中間のシナリオでは、需要環境は安定するものの、利益率の改善は緩やかにとどまり、営業利益率は5%前後、ROEは6〜7%程度で推移する。評価面ではPER12〜14倍、PBR0.9〜1.1倍程度に落ち着き、割安感と低成長評価が併存する状態が続く。この場合、株価は大きなトレンドを描かず、配当を受け取りながら緩やかに水準を切り上げ、5年後の株価は4,500円から5,500円程度に収れんする中立的なシナリオとなる。
悪い場合のシナリオでは、世界景気の減速や原材料価格の上昇、価格転嫁の遅れなどにより、収益改善が停滞する。営業利益率は4%台にとどまり、ROEも5%前後で頭打ちになる。この場合、市場はDICを低収益の成熟素材メーカーとして評価し続け、PERは10倍台前半、PBRは1倍割れが定着する。株価は戻りの鈍い展開が続き、5年後でも3,000円から3,800円程度、場合によってはそれ以下にとどまる弱気シナリオとなる。
総合すると、現在株価3,802円を起点としたDICの5年間の値動きは、良い場合で6,000円から7,500円前後、中間で4,500円から5,500円、悪い場合で3,000円から3,800円程度といったレンジが想定される。高成長を期待する銘柄ではないが、業績回復とバリュエーション修復が進めば上値余地はあり、回復局面をどう評価するかが投資成果を左右する銘柄、という位置づけになる。
この記事の最終更新日:2025年12月26日
※本記事は最新の株価データに基づいて作成しています。

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